親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

文字の大きさ
上 下
91 / 128

91: 堅苦しいのは終わり、乱痴気騒ぎが始まる。

しおりを挟む


「では、此処で、お二人の婚約の儀を致しますので、それぞれ、指環の交換をどうぞ…。」

外の喧騒というか地響きというか、を重厚な扉と石組みの分厚い壁で阻み、教会内は静かで厳かな雰囲気で満たされていた。

神前に誓うとの事で、伯爵夫妻は扉の前で待ち、ラートンとイオンウーウァのみが入室し、青と白を基調とした天井が抜ける様に高い教会の中央を静かに進む。

教会内には、種々の青で表現された神の象徴曼荼羅の巨大ステンドグラスから差し込む爽やかな光が満ちていた。

しずしずと、青白いローブを頭から目深に被った神官達がホールの両端に整列し、その間をラートンとイオンウーウァが静かに祭壇に進む。

そうして大神官の前まで来た二人に、大神官がゆっくりと言ってから指環を差し出した。

ラートンに菫色の魔石の付いた指環をイオンウーウァが嵌め、ラートンが濃い色のサファイアが付いた指環をイオンウーウァに嵌める。

「僕の可愛い♡可愛い♡ウーァさん……此れからも宜しくね♪」

「ラァト…宜しくね♡」

感極まったラートンがイオンウーウァの指先にキスをし、指にキスをし、手の甲にキスを長めにする。
そのまま二人は見つめ合い、段々とその瞳に熱が帯びてくる。
ふるり、とイオンウーウァの唇が震え……。

「では、此れにて婚約の儀を終わります。」

そんな二人の雰囲気をリセットするかのように大神官が声を張り、婚約式は恙無く幕を閉じた。




晴れ渡る空の下、イタチ系獣人達が汗を迸らせ、踊り唄う。

屈強な裸の上半身に豊かな胸毛。
縄の様になった髭や毛髪に、燻銀の小さな髑髏や模様を刻んだ飾り玉を通し、あちこちにピアスを開けたり刺青を入れた猛者が、皮のロングスカートや喇叭ズボンを翻して回転し、雄叫び混じりの唄を唄う。

巨獣の皮で作った太鼓を様々なテンポで叩いてリズムを刻み、歪な骨のホルンや笛がびょーびょーと独特の旋律を紡ぐ。

その噎せる様な熱気の中、舞台では刺繍が沢山施された民族衣装で沢山の男女がくるくると踊っていた。

無事に婚約式も終わり、ここから1ヶ月、お祝いの期間となる。

ラートンの腕くらいはあるかという太いソーセージ、グリルされたソーセージ、ハーブの入ったソーセージ。

ソーセージだけでも様々な種類と驚く量が供され、イオンウーウァは目を丸くしてそれらを見つめた。

鶏肉がゴロゴロ入ったサラダやロティサリー、丸焼きなど、次から次へと運ばれて来て、あっという間に大きなテーブルを御馳走で覆い隠してしまった。

「さあさあ、巣穴に帰りし同胞よ!巣穴を共に守りし同胞よ!杯を乾かせ!皿を空に!祝おう!!!」

  「「「祝おう!同胞よ!!」」」


グズーリヤ伯爵の言葉に、雷鳴の如く獣人達が杯を掲げて叫ぶ。


こうして、婚約式の宴は始まり、招待客達が凄い勢いで料理を吸い込んでいった。

銅鑼の様な笑い声、地鳴りの様な熱狂。飛び交う肉に乱れ飛ぶ杯。

だが、イオンウーウァはもうすっかり馴れて、ラートンと一緒に肉にかぶりついた。


しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

政略結婚だと思っていたのに、将軍閣下は歌姫兼業王女を溺愛してきます

蓮恭
恋愛
――エリザベート王女の声は呪いの声。『白の王妃』が亡くなったのも、呪いの声を持つ王女を産んだから。あの嗄れた声を聞いたら最後、死んでしまう。ーー  母親である白の王妃ことコルネリアが亡くなった際、そんな風に言われて口を聞く事を禁じられたアルント王国の王女、エリザベートは口が聞けない人形姫と呼ばれている。  しかしエリザベートの声はただの掠れた声(ハスキーボイス)というだけで、呪いの声などでは無かった。  普段から城の別棟に軟禁状態のエリザベートは、時折城を抜け出して幼馴染であり乳兄妹のワルターが座長を務める旅芸人の一座で歌を歌い、銀髪の歌姫として人気を博していた。  そんな中、隣国の英雄でアルント王国の危機をも救ってくれた将軍アルフレートとエリザベートとの政略結婚の話が持ち上がる。  エリザベートを想う幼馴染乳兄妹のワルターをはじめ、妙に距離が近い謎多き美丈夫ガーラン、そして政略結婚の相手で無骨な武人アルフレート将軍など様々なタイプのイケメンが登場。  意地悪な継母王妃にその娘王女達も大概意地悪ですが、何故かエリザベートに悪意を持つ悪役令嬢軍人(?)のレネ様にも注目です。 ◆小説家になろうにも掲載中です

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

処理中です...