親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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90: おとぎ話の様なパレードと轟く歓声

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「わぁぁ!凄い!凄い!!」

用意された馬車を前に、イオンウーウァが疲労を忘れてキャッキャとはしゃぐ。

パレード用の白い屋根なし馬車は随所に施された彫刻がピカピカと金色にきらめき、沢山の花で縁取りを施されていた。

(まるでお伽噺の最後の場面、王子様とお姫様が結婚する時の挿し絵みたいだわ!)

「さ、僕の可愛いお姫様♡僕の可愛い奥さん♡♡ウーァ♡お手をどうぞ♪」

そう言って手を差し出すラートンは筋肉が隆々と盛り上がるボディを白に金モールや宝石が美しい礼服に身を包み、金のふさふさした尻尾と髪を靡かせて、蕩ける様な笑みを浮かべていた。

その姿は、ちょっと筋肉過多が過ぎる気はするが、中々に王子様然としており、そのお伽噺の挿し絵から飛び出てきた様な未来の夫の姿に、イオンウーウァはキュッと顔を赤らめた。

そんなイオンウーウァも、妖精の森で手に入れたベールに、ドレスはモカ考案立体刺繍で作った菫や百合、薔薇などの花を真珠や宝石と一緒に縫い付け、その神秘的な灰紫がかった深緑の髪と菫色の瞳と相まって、妖精の国のお姫様の様だとメイド達に囁かれている。

「まさに、お似合いの二人ね…!」

「あの小さかった若様がこんなに立派に…!」

そんな囁き声があちこちから洩れる。

そんな中、ラートンが支えてくれ、イオンウーウァは
そっと、艶々の白エナメルに金や宝石の装飾が施されたハイヒールで馬車に乗り込んだ。

(ドキドキするわ……。)

パレードでは、この日の為に育てられた花があちこちに飾られ、参列してくれた獣人達から沢山の花を贈られると事で、此方もイオンウーウァは大変楽しみにしていたのだが……

うぉぉぉおおおおぉぉぉんぉぉぉんうぉんうぉぉぉ……ぉん……!!

微かに空気を震わせる、遠くの地鳴りの様な不思議な音。


イオンウーウァはそっと丹田に力を籠め、しっかりと踏ん張るように立ってスタンバイした。

(よぉし!来ぉい!!)

イオンウーウァの気合いと共に、馬車がゆっくり動き出す。



「うぉぉぉおおおおぉぉぉ!!!我らのぉぉぁ墓場ぁぁ!!」

「おおおおお!!馬車が見えたぞおおおおおぉぉ!!」

オオオオオオ!!!ディグディグホォォォォル!!ディグディグホォォォォル!!

割れんばかりの歓声というか、大地を割らんばかりの歓声に、やはりイオンウーウァは圧倒されたが、事前に腹を括っていた為か何とか頭は真っ白にならずにすんだ。

ぐっと踏ん張り、轟轟と轟く歓声に対してラートンと一緒に手を振っていく。

「イ"オ"ン"ウ"ーウ"ァ"さ"ま"ぁ"ぁ"ぁ"ぁぁ!!」

(野太い……!!)

「若"様"ーー!!ラ"ーート"ン"さ"ま"ぁぁぁ!!!!」

「うおおおお!!バドワイザバンザァァイ!!」「うおおおお!!」

歓声というより咆哮。
そんな野太い魂の叫びが四方八方からイオンウーウァを襲い、ちょっと中々花を楽しむ程の余裕を持てないイオンウーウァだったが、それでも段々体が慣れてきたのか、笑顔を浮かべて手を振る事は出来た。

そんなイオンウーウァに、あちこちから花束が差し出され、警護の騎士達が受け取ってはラートンとイオンウーウァの前に積み上げていく。
イオンウーウァがその中の一輪を何と無く手に取り、匂いを嗅げば絶叫と共に詰め掛けた獣人達にビッグウェーブが起こる。

もう、此処まで来るとイオンウーウァも対して驚かず、只ニコニコとその大きなうねりを眺めていた。

「嬉しいわ!皆がお祝いしてくれてる!」

全く自分の声が聞こえない中、イオンウーウァはラートンに向かって声を張り上げて笑った。

「勿論だとも!こんなに可愛らしいお姫様が僕の奥さんになってくれるんだもの!!これをお祝いしなきゃ、何をお祝いするっていうんだい?」

ラートンも声を張り上げ、そっとイオンウーウァを抱き寄せてその額にキスをする。

ギャァァァ素敵ぃぃぃ!!オオオオオオメデトウゴザイマァァス!!!

そんな二人の仲睦まじい姿にイタチ系獣人達が熱狂、絶叫し、クマ獣人のビアがそっと意識を飛ばした中、馬車は教会の扉の前に停車し、イオンウーウァとラートンは厳かな扉の中へと入っていった。
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