親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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88: 市にいこう!

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カーモンレーディ!カーモンレーディ!ワンパンフィーィッシュ!ワンパンフィーィッシュ!

見て見てほら!見て見てほら!ベリベリフレッシュでベリベリチープ!

ワンパンフィーーッシュ!!ワンパンフィーーッシュ!!


「ワ、パンフィーーッシュ♪」

遠くから聞こえてくる魚売りの声に、思わずイオンウーウァも口ずさむ。

ラートンの言った通り市は大賑わいで、イオンウーウァはラートンに誘導されながらキョロキョロと市を眺めた。


物珍しそうに眺めるイオンウーウァと、それを蕩ける様な瞳で見つめるラートン。


「ククンバー!ククンバ!クク…*@∀ゑ≫":☆!#≪≪ゑゑ!!」

そんな二人の出現に気付き、一部、ザワザワしたりソワソワしたりするものもいるが、ラートンとイオンウーウァはそれに気付かず、楽しそうに市をゆっくり巡っていく。


「若様と番様だ………!」「あれが…!」「人族の番は悲惨とかいう話だったのに……流石、うちの若様の運命の番だ!」「仲睦まじいわ…!」

二人の前方は緊張しつつも平常を装い、背後はヒソヒソと囁きあい嬉しそうに見守る。

そしてその後、市は更に盛況になっていった。



「あ、見てラァト♪これ、素敵だわ!」「よし!買おう!」

「わぁぁ♡凄いわ!これ!回るのね!」「よし!それも!」

「ワンパンフィッシュ♪」「それも買おう♪」
「「ワ、パンフィーーッシュ♪♪」」

イタチ系獣人達の熱い眼差しをものともせず、平常運転なイオンウーウァとラートンは、どんどんと買い込んでいく。

次から次へと瞳を輝かせて指差すイオンウーウァと即購入のラートン。
二人は上機嫌で、どんどこどん♪と太鼓が鳴る間を通り抜けていく。

私は眠らない♪
   二度と眠らない~♪♪ロクでもない~夢を見るなら~♪
私は眠らない♪
   二度と眠らない~♪♪そんな時には~コレを一錠~♪

眠らない夜には~インソムニア~♪♪

薬屋の男二人が眠気覚ましの渋いコーラスソングを披露しているのを聞き、雑貨スペースから、薬スペースに入ったことを知る二人。

そして、その先には沢山の焙り肉や燻製肉など肉類のスペース、隣にピカピカの野菜や果物のスペースが待ち構えていた。

ラートンが逞しい筋肉にぶらさげていた買い物戦利品を、デートの邪魔しないようにと忍びの者の如く気配を消して商会職員が運んでいく。

そうして身軽になったラートンとイオンウーウァに、色んな所から試食を願い出る者が詰めかけてきた。

二人は薦められるまま、薄い透き通るようなハムを齧り、煙の香りが鮮烈なソーセージを齧り、肉汁を飛ばし、笑い、野菜を齧る。

そうして差し掛かった甘味のスペースで、イオンウーウァは一つの瓶をそっと手に取った。


「あの時の、飴………!」

「やぁ、キャンディショップかぁ、あ、その飴!僕初めて見た時、綺麗で感動して、テコでも動かなくって……父上が笑いながら買ってくれたなぁ…」

白い飴玉に、ピンクや水色の曲線が入った不思議で綺麗な飴玉。

イオンウーウァが飴の瓶を取るのと同時に、ラートンも手を伸ばし、懐かしそうに言う。
イオンウーウァは、ラートンの大きな掌の下に潜り込んだ形になった自分の手を見つめながら、その偶然にそっと耳を朱に染めた。

(ラァトも、テコでも動かなかったなんて……)

「私も、テコでも動かないぞって笑いながらパパが買ってくれたの…。」

思わぬ共通点にイオンウーウァがそう呟けば、

「おや、そうなのかい??流石僕の運命の番さん♡♡嬉しいな!僕達そんな時分から意気投合だったんだね♡♡」

と弾む声でラートンが言い、尻尾がぶぉんぶぉんと旋風を巻き起こす。

「「よし!買おう!!」」

二人は声を合わせて言って飴を購入し、帰りは飴をカロカロコロコロと転がしながらゆっくりと散歩をして帰った。

カロリ、と転がる音がして、イオンウーウァがラートンに話しかける。

「婚約式、もうすぐね…。ドキドキするわ。」

「本当だね♡♡僕のウーァがどんな綺麗なウーァになるかと思うと胸が太鼓みたいになるよ♡♡♡アウウウウウウゥ♪」

ドコドコドコドコドコドコドコ……!!

ふざけて唐突に、奇声を発しながらドラミングしてみせるラートンに、数人驚いて振りっ返っていたが、イオンウーウァはコロコロ笑い、そんなイオンウーウァを蕩ける様な眼差しで見つめてラートンは嬉しそうに笑う。

ホント、楽しみだね、と笑い合い、二人はそっと額をくっつけた。
鼻と鼻でつつき合い、唇を啄むようなキスを重ねる。


コロリ、とどちらともなく、飴玉が音を立てた。


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