親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

文字の大きさ
上 下
87 / 128

87: 明日の予定。

しおりを挟む


「うふふ…♪私はこの菫のリボンをこうやってこうしようと思うの!」

「あら、素敵ね♪私はこのリボンに金色で刺繍して……。「わぁ、いいじゃない??」

「ね、今度一緒に市に行かない?刺繍糸が足らなくなったのよ~。」


麗らかなティータイム、イオンウーウァは久しぶりに帰ってきたバドワイザ本邸でお茶を飲みながらそわそわと、漏れ聞こえるメイドの会話に耳を澄ませていた。

「市が気になる?」

そんなイオンウーウァを優しく見つめ、向かいに座るラートンが声を掛けた。コトリ、とアールグレイの入ったカップをソーサーに戻す。

「婚約式に向けて仕事を片付けるのに忙しくて、バドワイザでゆっくり遊んだ事が無かったね。明日、僕達も市に行ってみる??」

「市は明日なの?」

ラートンの言葉にイオンウーウァが菫の瞳をキラリと輝かせて聞いた。

「アハハ、バドワイザの領都では毎日市があるけど、今は婚約式に向けて毎日その何倍もの規模で立ってるよ♪」

「へぇ~~!!凄いのねぇ!!」

イオンウーウァにとって、市とは月に一度町で開催され、村人がゴトゴトと荷馬車を押していくものだった。

幼い頃、時々両親に連れていって貰って、確か、飴玉を買って貰った気がする、とイオンウーウァは紅茶の水面を見つめながらそっと思い返した。

白い飴玉に、ピンクや水色の曲線が入った不思議で綺麗な飴玉。

幼心にその美しさに感動し、どうしてもそれが食べてみたいと駄々を捏ねた日。

(確か、パパとママは、もう少し他を見て回ってから買おうって言ったのに、私が動かなかったのよね……。)

これは、テコでも動かない気だぞ♪と在りし日の父の笑う声が聞こえた気がし、そっとイオンウーウァは微笑んだ。

(そういえば、パパの声とラァトの声、少し硬くて良く通る感じが似てる…。)

「……? 僕の可愛い奥さん♡どうかしたかい?」

ふと、父とラートンの声の共通点を思い出し、思わずラートンを見つめて微笑んだイオンウーウァに、ラートンが嬉しそうに笑って訊いた。

「ううん、ラァトの声、好きだなって思っただけ。」

イオンウーウァがそういえば、ラートンの紫紺の瞳がとろりと蕩ける。

「僕も、ウーァの声、大好きだよ♡♡喋る度に綺麗な砂糖菓子や真珠が零れてるのかと思う程、可愛い声♡」

そっと、飲み干したカップをテーブルに置き、ラートンがイオンウーウァの側に歩み寄る。

変化した雰囲気に、イオンウーウァがカップをテーブルに戻そうとすれば、ラートンがカップを取り上げつつ、ゆっくりと覆い被さってくる。

「可愛い唇。可愛い舌……。君の声を甘くしてるのはどっちなんだろう…?確かめてみなくちゃ♡」

低く、甘く、囁かれる言葉にイオンウーウァの耳からゾクリとしたものが走り、心を痺れさせる。

ラートンの厚い唇がゆっくりと重なり、ペロリ、とイオンウーウァの唇を舐める。

イオンウーウァの菫の瞳を覗き込みながら悪戯っぽく細められる紫紺の瞳に、イオンウーウァもそっと微笑んで唇でラートンの唇を撫でた。

カタリ、ラートンが後ろ手で器用にカップをテーブルに置く。

唇が重なり、離れ、重なり、舌がスルリと滑り込んでくる。


(あの綺麗な飴玉…売ってるかしら……)


そんなことを考えて、イオンウーウァはそっと瞳を閉じた。


しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

政略結婚だと思っていたのに、将軍閣下は歌姫兼業王女を溺愛してきます

蓮恭
恋愛
――エリザベート王女の声は呪いの声。『白の王妃』が亡くなったのも、呪いの声を持つ王女を産んだから。あの嗄れた声を聞いたら最後、死んでしまう。ーー  母親である白の王妃ことコルネリアが亡くなった際、そんな風に言われて口を聞く事を禁じられたアルント王国の王女、エリザベートは口が聞けない人形姫と呼ばれている。  しかしエリザベートの声はただの掠れた声(ハスキーボイス)というだけで、呪いの声などでは無かった。  普段から城の別棟に軟禁状態のエリザベートは、時折城を抜け出して幼馴染であり乳兄妹のワルターが座長を務める旅芸人の一座で歌を歌い、銀髪の歌姫として人気を博していた。  そんな中、隣国の英雄でアルント王国の危機をも救ってくれた将軍アルフレートとエリザベートとの政略結婚の話が持ち上がる。  エリザベートを想う幼馴染乳兄妹のワルターをはじめ、妙に距離が近い謎多き美丈夫ガーラン、そして政略結婚の相手で無骨な武人アルフレート将軍など様々なタイプのイケメンが登場。  意地悪な継母王妃にその娘王女達も大概意地悪ですが、何故かエリザベートに悪意を持つ悪役令嬢軍人(?)のレネ様にも注目です。 ◆小説家になろうにも掲載中です

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

処理中です...