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86: モカ、オコジョに捕まる。
しおりを挟む「やーーい、腐ってるなぁー♪」
そんな青息吐息なモカを軽い声と共に小突き、中性的な青年がぽふん、向かいの椅子に腰掛けた。
幼馴染みのテニーだ。
「なによ。テニーじゃない。」
むすっと返すモカに、オコジョまじりの中性的な色白アナグマ獣人がくりっ♪と小首を傾げた。
「そーだよ、テニーだよ?」
ジト目で睨んでからチクチク作業に戻るモカの手元を見詰め、テニーは明るい声で話を続けた。
「わるいこって噂されて引きこもっちゃったモカの様子を見に来てやったんじゃないか~。うわぁ、随分と刺繍上手くなったね??しかも、本物の菫みたいに立体だぁ!!やるじゃないか、モカぁ♪♪」
「ふふっ…まぁね♪」
テニーの口調は心配してるとは思えない明るく軽い声だったが、続く素直な称賛に、モカはついつい気分が良くなってしまった。
そんなモカの様子を、テニーがにぃんまりとした顔で見詰める。
(相変わらず、モカは単純で可愛いんだから♡)
「それにしても、何でまた、運命の番が現れたのに若様イケると思ったのさ~?」
なんていえば、モカが長く深いため息を吐く。
「ほんと、何でイケルって思ったんだろう……ふぇぇん……。」
(どーせ、どっかのアナグマ親父が、自分の娘を若様に宛がえないかの試金石に利用したんだろーな。)
バジャーの娘なら下手な処分は下らないと踏んで……なんて思いつつ、テニーは言葉を続けた。
「そもそも、筋肉ムキムキな若様はモカの好みじゃないだろ…。何でずっと好きだったのさ?モカの好みは中性的なタイプだろ?いっつも読んでる恋愛小説のヒーロー達や………俺みたいな、さ♪」
本当は、モカがずっとラートンの柔和な笑みに惚れていたのは知っていた。だが、テニーは敢えてそれを無視して、ラートンの筋肉達磨ボディと自分のすらりとした肉体とを比べて見せる。
必死に習得した、ラートンみたいな柔和な笑みを浮かべて……。
その笑みに、モカが連れてへらりと笑う。
テニーはモカが好きだったのだ。ずっとずっと、幼い頃から…。
だが、モカはバカで我が儘で、流されやすい癖に何故だか昔から頑なにラートンが好きで、テニーがどんなに頑張っても見向きもされなかった。
そこを押し切るには、テニーの家柄は少し身分も低く……。
バジャー一家も、恋愛婚優先でお見合いなどさせないのは良かったが、テニーが幾らモカと仲良く振る舞っても、外堀を埋めようと奮闘しても気付かない程の鈍チンの集まりで、テニーはずっと周りを牽制しつつ機会を窺っていたのだった。
そうして手に入れた千載一遇のチャンス。
テニーはオコジョハーフ特有のピュアであどけない表情で、弱ったモカを落とすべく、あの手この手で慰め、称賛し、話を弾ませ、一気に畳み掛ける。
そうして、お馬鹿なモカはどんどんテニーの掌に収まりつつあった。
「ねぇ、この菫の刺繍、凄く素敵だよ!これプレゼントしたら番様も喜ぶし、こんなに菫の刺繍作りましたっ!って見せたら、皆モカが反省したと思うんじゃないかな??
ううん、俺が皆に反省したって言ってあげる♪だから、外に行こうよ、一緒にそれ見せに行こうよ!」
「……本当?判ってくれるかな…??ふぇぇ…テニー……ありがとう…!」
明るく励ますテニーの言葉に、モカは何だか全てが上手く行く気がして、思わず泣き出す。
そんなモカの肩を優しく抱き、テニーは撫でながらそっとモカのふわふわの髪にキスを落とした。
「ヨシヨシ、モカったら……♡俺が着いてるから大丈夫だよ♪」
テニーには勝算があった。
そもそも、ラートンは最早モカを気にしていないし、周りも遠巻きにしているだけで、特に村八分にしようと言う意志はない。
モカの反省した態度を見せれば直ぐに元の対応に戻るだろう確信がテニーにはあった。
そして、オコジョハーフのテニーの華奢で小柄な体は、ラートンの横では吹けば飛ぶようだったが、単体で見ればしなやかで、小説の挿し絵の王子様の様なバランスに見えた。
(ここで頼れる男感をアピールして、男性として意識さえさせれば…!)
自分にかなりの勝算がある。そう考えたテニーよって、モカの引きこもりに終止符が打たれたのだった。
そして、モカ考案の立体刺繍は瞬く間にバドワイザを席巻した。
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