親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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85: 盛り上がるバドワイザとわるいこ。

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「おーい!ご所望のギガントバッファロー、十体目狩ってきたぜー!」

「見てくれ!!こんなにデカいのに傷ナシ個体だなんて、祭りの為に生まれたみてェなヤツだろ!?」

「おおおお!!お帰りビア殿!!ケイン殿!!こりゃすごい!!」

ゴロゴロと荷馬車に大きなモンスターの凍らせた死体を乗せ、意気揚々と手を振る熊獣人とラーテル獣人に、アナグマ獣人が嬉しそうに駆け寄る。

世界のあちこちでイタチ系獣人を中心に婚約式に向けてのアップが始まる中、此処、彼らの聖地バドワイザ領でも猛スピードで婚約式の準備が進められていた。

彼方此方に足を踏み鳴らせば良く響く様に工夫された舞台が急ピッチで建てられ、花が育てられ、日除けや天幕の染め直しや補修、新しい飾り付けの制作が行われていた。

「このラートン様生誕の時の黄色の天幕あるじゃろ?これと同じデザインで深緑の「いやいや、そこは菫の…「寧ろこのテントに菫色の飾りをだね……。」

老若男女飾り付けにウルサイ者達が角突き合わせて相談し、その向こうで脳筋タイプはひたすら舞台やテーブルと椅子を作ったり補修したりする。

どんなに気持ちよく頭を振っても、足を踏み鳴らしても、飛び跳ねても壊れないモノにしなければいけない。此処を疎かにすれば、婚約式を全く楽しめなくなってしまう……。

どんなに夢中で婚約式を楽しんでいても、子供や老人が安全に眺められる特等席も作らねばならない。此処を疎かにすれば、婚約式を全く楽しめなくなってしまう……。

どんなに…。

どんなに……。

此処を疎かにすれば…。

此処を疎かにすれば……!!


まるで呪文か譫言の様に唱え、日中は皆準備に勤しみ、合間に普段の仕事を高速でこなし、夕方は練習と称して歌って踊って奏でて飲む。
かといって深酒するわけではなく、踊り疲れればさっさと寝て翌朝早く起きて仕事だ舞踏の型の練習だ……。

と、そのストイックさすら感じる一丸となったハードワークぶりは、他の地域とはまた違った熱気を生み出していた。


そんななか、いまいち素直に熱気に乗れないアナグマ獣人がいた。お久しぶりのモカである。


「はぁ……。憂鬱だわ。」


モカは一人、静かな部屋で刺繍を眺めて嘆息する。
することがなくて、出掛けるのも憚られて、上手くなかった刺繍が大分上手になってしまっていた。

実はモカ、散々兄や叔父達に気を使われて、ラートンや運命の番にちょっかいかけたと噂が広がらないようにと手配されたにも関わらず、屋敷内でそれはもう盛大に愚痴り倒し、周囲や邸のメイド達には遠巻きにされていた。

幸い、バドワイザ領内遠方の方にまで噂が届く事は無かったが、邸内やご近所さんからは”運命の番様が現れたにも関わらず若様にちょっかいをかけようとしたわるいこ”としてバッチリ認識されており、誰からも話しかけて貰えない寂しい時間を過ごしていた。

「なんであんなことしちゃったんだろう……。」

今となってはすっかり反省し、本当はモカも素直にお祝いしたかったがどうやってそれを示せば良いか判らず、ただ、菫の刺繍が増えていくばかりだった。


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