親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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82: 世界の隅々まで唄は巡る。

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~~……番は人の子、菫の瞳に灰紫がかった深緑の髪の乙女~♪

サピエンのモのスモモ村に運命の番が二組も~~♪


ガタガタと揺れる荷馬車隅に便乗し、吟遊詩人が歌いながら街道を進む。
その歌声に、通りすがりの旅人達が耳を澄ませていた。

「なんてこった…。直ぐに帰って爺様の旅支度を整えねば…!」

この手紙を届けたらすぐに故郷に帰るべ、と茶色のイタチ獣人がいそいそと道を急ぐ。

「運命の番が見つかったんだって!おめでたい話ねぇ!」

「私も運命の番といつか出逢えるかしら……♡」

街道横の田畑で、農作業に勤しむ女達がキャイキャイとダベり、噂は更に流れ、夕方、吟遊詩人が村の広場で唄う頃には沢山の人だかりが出来ていた。

皆新しい歌に聞き入り、口ずさみ、まだ歌を耳にしていない知り合いに嬉々として伝えていく。

又、歌を知らない吟遊詩人が歌っている吟遊詩人から楽譜を買い、別の地域に広げていき、立ち寄った旅人もあちこちで話題を口にする。

こうして、アナグマの貴公子バドワイザ小伯爵にイオンウーウァという名前の人族の運命の番が現れた話は世界中へと広まっていった。



そして、その噂の波はここ、モフーラの東端セイロンの断崖絶壁城ことセイロン侯爵邸にも届いていた。

ゴトゴトと物品を搬入する荷馬車達。

荷の上げ下ろしが終わり、清算やら次回の注文やら、新しい商品の紹介など、親方や手代等があれこれしている間、若い者達はちょっと休憩しているのが常なのだが、最近はすぐに皆その辺をペンペンと叩きだし、足を踏み鳴らし、時にボソボソと歌い出す。

ことほぎ、ことほぎ、つがいて巡らん~♪ん"っエヘン……。
何でいつもそこ間違えるんだよ、つがぁいーてぇーだよ……。

我らが巣穴を守りしアナグマの~♪黄金に輝くラートンと~♪

人の子の~♪イオンウーウァーー♪ハーーン♪♪

「~~~ッッ!!」

肉体労働で培った逞しい肉体をチマチマと寄せあって、ボソボソとハモりの練習をする若いイタチ獣人達。

そんなイタチ君達を尻目に鉄面皮を貫いて荷を整理し、邸の各部署に運ぶ龍人の使用人達だったが、毎度毎度、彼等がイオンウーウァの名前とその後の部分だけハーモニーに本気を出すので、皆腹筋崩壊寸前だった。

イオンウーウァーー♪ハーーン♪♪

そのイタチ君達の本気ハーモニーは風に乗り、断崖絶壁の上にニョッキリそびえ立つ塔城のような邸の最上階で燻っているマリローズの耳にまで届く程だった。

「ムキーーー!!何でこんな所まで来てあの白豚女の名前を聞かなきゃいけないのよーー!!」

日々鬱憤が溜まっている所へ、イオンウーウァ♪イオンウーウァ♪と歌う声。マリローズは絶叫した。

何処へも行けないマリローズ。
番と滅多に逢えないマリローズ。
誰にも称賛されないマリローズ。

お姫様だったマリローズ。
みすぼらしくぶくぶく太った白豚女イオンウーウァ。

歌声は言う、イオンウーウァはラートンとあちこちへ行くと。
イオンウーウァは片時もラートンから離れず仲睦まじいと。
皆から称賛され、番様と慕われ、愛されていると。

「何でこんなことになってるのよーー!ムキィーーー!」

無意識に絶叫をストレスの捌け口にしているのだろう、ダンダン!と足を踏み鳴らして叫ぶマリローズの声に、下でピクピクと荷馬車隊の親方の耳が動いているのに、龍人達もマリローズ達も気付かない。

(あーあ、まぁた番様の悪口言いよって……。)

イオンウーウァの悪口が一回聞こえる度に小石貨一枚ずつ全ての商品の値段が上げる。

そんな誓いを立てていた焦げ茶のイタチ獣人の親方は、そっと次回からの値段を修正した。



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