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79: 今は只の貧しい村人
しおりを挟むそんなみすぼらしい白豚娘がアナグマに見初められたらしい。
穴ばっかり掘ってる不格好な胴長か……。マリローズは雲の上を悠々飛ぶ龍に見初められたというのに。そう思うとゴーヨクはとても気分が良かった。
だから、向こうは腐っても貴族らしいし、と、寛大な態度でイオンウーウァを連れていくことを了承したのだが、獣人はそんなゴーヨクを冷ややかな目で見つめながら、イオンウーウァを連れていき、後日、とんでもない請求を持ってきた。
何でも、イオンウーウァが受け取るべきだった財産を横領し、適切な手続きを怠った損害賠償だとか何だとか……。
良く判らないことをベラベラと一方的に捲し立てられ、ゴーヨクや、その他の村人から、マリローズが貢がれた宝物とそのお裾分けをゴッソリ持っていき、更に足りない分は借金だと言われて変な証文に判を押さされ、住居を追い出された。
なんでも、白黒頭の忌々しい獣人の言うことには、イオンウーウァの両親が死んだ時から財産を適切に管理運用していた場合を試算すると、スモモ村一つ余裕で買い取れる位の財産になっていたらしいのだ。
それに、イオンウーウァが貴族の身分にも関わらず、親戚にも知らされずに一人孤独に暮らして、まともな教育も受けなかった事に対する、ゴーヨクの罪やら、損害賠償やら、監督?責任とやらで、金額はどんどん目の前で増えていき、ゴーヨクにはそれが幾らなのか想像も出来ない金額が弾き出されてしまった。
もうそうなると、ゴーヨクは焦りも何も無くなり、只ぽかんと事の成り行きを見守る。
目の前で、雲の上の領主様がペコペコと白黒頭に頭を下げて謝っている。
その不思議な光景は現実味の無さに更に拍車をかけた。
そうしてる内にどんどん領主様と白黒頭で話が進み、スモモ村の半分以上がイオンウーウァの持ち物になった。
それがどういう事なのか判らずポカンしていたら、ゴーヨクを含む村人の大半が住居を追われる羽目になり、皆で納屋で肩を寄せ合って夜を過ごす事になった。
ゴーヨクのいう白黒頭とは、バジャーの長男バスカルで、商会の幹部として第一線でバリバリ働いてるビジネスの猛者だった。
そんな猛者相手に、辺境田舎でヌクヌク暮らしていたゴーヨクが叶う筈もなく、気がつけば借金に追われ、朝から農業、手が空けばイオンウーウァの土地に建てるホテルとやらの日雇い労働に駆り出される毎日だった。
現在、その労働の隙間に少しずつ作った小さな掘っ立て小屋兼納屋に農具と一緒に夫婦肩を寄せ合って暮らしている。
ゴーヨクと一緒にフォレスト家の持ち物を自分の物にした者は皆その状態で、他の村人は、追い出された時に幾ばくか貰った金で引っ越したり、小屋を建てたりしている。
「ハッハッハ……幾らなんでもそれはないだろう!それは手違いだよ!」
「何言うのよバスカル!ピンクマッシュルームの部屋、これこそ運命の番様がお気に召した内装だって!このスイートルームはピンクマッシュルームの内装で決定よ!」
「アロエベラ、君のセンスはおかしいって!絶対それは数字間違いだよ、ハハハ!」
納屋の外、楽しそうにバスカルと隣国辺境伯家から飛び出してわざわざバドワイザ商会に入ったラーテル獣人のアロエベラが話ながら通り過ぎる。
ゴーヨクはたかだかアナグマの獣人と思っていたのだが、何でも龍の獣人に匹敵する位の権力とネットワークを持ってるだとかで、あっという間に職人を呼び寄せ、建材を運び、ホテルの建設を始めてしまった。
そんなアナグマ獣人のせいでスモモ村には沢山の獣人が出入りし、あっという間に村は雰囲気を変えた。
もう、ゴーヨクの小さな王国は何処にもなく、大切なお姫様も連れ去られてしまった。
「はぁ、マリローズ……おまえに会いたいよ……。」
自棄になっても呷る酒も無く、ゴーヨクは静かに涙した。
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