親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

文字の大きさ
上 下
79 / 128

79: 今は只の貧しい村人

しおりを挟む


そんなみすぼらしい白豚娘がアナグマに見初められたらしい。

穴ばっかり掘ってる不格好な胴長か……。マリローズは雲の上を悠々飛ぶ龍に見初められたというのに。そう思うとゴーヨクはとても気分が良かった。

だから、向こうは腐っても貴族らしいし、と、寛大な態度でイオンウーウァを連れていくことを了承したのだが、獣人はそんなゴーヨクを冷ややかな目で見つめながら、イオンウーウァを連れていき、後日、とんでもない請求を持ってきた。

何でも、イオンウーウァが受け取るべきだった財産を横領し、適切な手続きを怠った損害賠償だとか何だとか……。

良く判らないことをベラベラと一方的に捲し立てられ、ゴーヨクや、その他の村人から、マリローズが貢がれた宝物とそのお裾分けをゴッソリ持っていき、更に足りない分は借金だと言われて変な証文に判を押さされ、住居を追い出された。

なんでも、白黒頭の忌々しい獣人の言うことには、イオンウーウァの両親が死んだ時から財産を適切に管理運用していた場合を試算すると、スモモ村一つ余裕で買い取れる位の財産になっていたらしいのだ。
それに、イオンウーウァが貴族の身分にも関わらず、親戚にも知らされずに一人孤独に暮らして、まともな教育も受けなかった事に対する、ゴーヨクの罪やら、損害賠償やら、監督?責任とやらで、金額はどんどん目の前で増えていき、ゴーヨクにはそれが幾らなのか想像も出来ない金額が弾き出されてしまった。

もうそうなると、ゴーヨクは焦りも何も無くなり、只ぽかんと事の成り行きを見守る。

目の前で、雲の上の領主様がペコペコと白黒頭に頭を下げて謝っている。
その不思議な光景は現実味の無さに更に拍車をかけた。

そうしてる内にどんどん領主様と白黒頭で話が進み、スモモ村の半分以上がイオンウーウァの持ち物になった。

それがどういう事なのか判らずポカンしていたら、ゴーヨクを含む村人の大半が住居を追われる羽目になり、皆で納屋で肩を寄せ合って夜を過ごす事になった。

ゴーヨクのいう白黒頭とは、バジャーの長男バスカルで、商会の幹部として第一線でバリバリ働いてるビジネスの猛者だった。
そんな猛者相手に、辺境田舎でヌクヌク暮らしていたゴーヨクが叶う筈もなく、気がつけば借金に追われ、朝から農業、手が空けばイオンウーウァの土地に建てるホテルとやらの日雇い労働に駆り出される毎日だった。

現在、その労働の隙間に少しずつ作った小さな掘っ立て小屋兼納屋に農具と一緒に夫婦肩を寄せ合って暮らしている。
ゴーヨクと一緒にフォレスト家の持ち物を自分の物にした者は皆その状態で、他の村人は、追い出された時に幾ばくか貰った金で引っ越したり、小屋を建てたりしている。

「ハッハッハ……幾らなんでもそれはないだろう!それは手違いだよ!」

「何言うのよバスカル!ピンクマッシュルームの部屋、これこそ運命の番様がお気に召した内装だって!このスイートルームはピンクマッシュルームの内装で決定よ!」

「アロエベラ、君のセンスはおかしいって!絶対それは数字間違いだよ、ハハハ!」

納屋の外、楽しそうにバスカルと隣国辺境伯家から飛び出してわざわざバドワイザ商会に入ったラーテル獣人のアロエベラが話ながら通り過ぎる。

ゴーヨクはたかだかアナグマの獣人と思っていたのだが、何でも龍の獣人に匹敵する位の権力とネットワークを持ってるだとかで、あっという間に職人を呼び寄せ、建材を運び、ホテルの建設を始めてしまった。

そんなアナグマ獣人のせいでスモモ村には沢山の獣人が出入りし、あっという間に村は雰囲気を変えた。

もう、ゴーヨクの小さな王国は何処にもなく、大切なお姫様も連れ去られてしまった。

「はぁ、マリローズ……おまえに会いたいよ……。」

自棄になっても呷る酒も無く、ゴーヨクは静かに涙した。




しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

政略結婚だと思っていたのに、将軍閣下は歌姫兼業王女を溺愛してきます

蓮恭
恋愛
――エリザベート王女の声は呪いの声。『白の王妃』が亡くなったのも、呪いの声を持つ王女を産んだから。あの嗄れた声を聞いたら最後、死んでしまう。ーー  母親である白の王妃ことコルネリアが亡くなった際、そんな風に言われて口を聞く事を禁じられたアルント王国の王女、エリザベートは口が聞けない人形姫と呼ばれている。  しかしエリザベートの声はただの掠れた声(ハスキーボイス)というだけで、呪いの声などでは無かった。  普段から城の別棟に軟禁状態のエリザベートは、時折城を抜け出して幼馴染であり乳兄妹のワルターが座長を務める旅芸人の一座で歌を歌い、銀髪の歌姫として人気を博していた。  そんな中、隣国の英雄でアルント王国の危機をも救ってくれた将軍アルフレートとエリザベートとの政略結婚の話が持ち上がる。  エリザベートを想う幼馴染乳兄妹のワルターをはじめ、妙に距離が近い謎多き美丈夫ガーラン、そして政略結婚の相手で無骨な武人アルフレート将軍など様々なタイプのイケメンが登場。  意地悪な継母王妃にその娘王女達も大概意地悪ですが、何故かエリザベートに悪意を持つ悪役令嬢軍人(?)のレネ様にも注目です。 ◆小説家になろうにも掲載中です

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...