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78: ゴーヨクの小さな王国。
しおりを挟む立派な婿を取って、可愛いマリローズといつまでもスモモ村で暮らせると思っていたのに。
「こんな事なら……。」
獣人の美丈夫に運命の番だと言われた時は驚いたが、可愛いマリローズはこんなスモモ村に留まる器じゃない、本当の姫様になれるなら、そっちの方が断然良い、そう思って了承した婚約だった。
だが、当然そこには自分達家族も着いていくものだと思っていた。
だが獣人達は、まるで、汚らわしいものでも見るかの様に自分達を睨み付け、マリローズだけを連れていってしまった。
「村中で祝ったのを今生の別れにさせるつもりだったなんて……。」
出来ることなら今からマリローズを追い掛けて行きたい。
だが、ゴーヨクにはそう出来ない理由があった。
莫大な借金を抱えてしまっているのだ。
マリローズへの貢ぎ物を持って沢山の商人が隊列を成してやってきた日、森で一人暮らしているイオンウーウァが獣人貴族に見初められた。
マリローズと同じく運命の番だと言う。
といっても、マリローズは龍の貴族であっちはアナグマ。
そのみすぼらしさがあの白豚娘に相応しいと思った。
ゴーヨクは元々、隣村モモモ村の村長にして庄屋の三男だった。
辺鄙な田舎で余所者や貴族は滅多に来ず、税さえ払えば領主さえ十年単位で来ない。
そんな閉じられた狭い世界の中、モモモ村の村長というのは王に相応しい権力を持っていた。狭くて小さい分、昨今の王より絶対的な王政だったかもしれない。
そんな家に生まれ、長男次男とは大分年の離れた末っ子三男として、可愛がられた育ったゴーヨクは狭い小さい世界の我が儘王子として始終ちやほやされながら育った。
父の築いた王国の中、年頃が近く一番器量が良いと噂された娘を嫁に貰い、スモモ村の村長という地位を貰って独立したゴーヨク。
そんな父とゴーヨクの王国に突如やってきた貴族のフォレスト。
彼等は領主の紹介でスモモ村に居を構え、あまつさえ、領主の持ち物だったゴーヨク達の住んでいた建物を買い取って大家となったのだ。
これは、ゴーヨクにとって屈辱以外の何物でもなかった。
雲の上の人の様な領主、税と一緒に家賃を納めていれば滅多と顔を合わせない領主とは違い、フォレスト家はスモモ村に住んでいる。
それは、スモモ村の権力を二分する様なものだ。
いや、向こうは貴族でゴーヨク達は平民。ゴーヨクの小さな国は乗っ取られたも同然だった。
そんな目の上のたんこぶフォレストだったが、ある時、馬車の事故でイオンウーウァを遺して呆気なく他界してしまう。
本来なら、イオンウーウァが残っていること等、領主や領都の役人に報告したり手続きをしたりしなければならないのだが、ゴーヨクはそれらを握り潰し、自分の都合の良い様に改竄して手続きした。
有名な観劇に有るように、敗戦国の財産は全て戦勝国のものになり、敗戦国の王女は奴隷の身分になる。
ただゴーヨクもそのセオリー通りにしただけだった。
こうして両親に可愛がられ、マリローズと同じくらいに綺羅綺羅と輝いていたイオンウーウァはみすぼらしく、ぶくぶくと太った白豚娘となった。
そうしてゴーヨクの王国に平和が戻ったのだった。
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