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74: そして今日もお出掛けです。
しおりを挟む「モカが無事帰宅してました。」
「そっか。費用は出すから領収書置いといてね。」
バジルの報告に、ラートンが布地のカタログから顔を上げずに言う。
そんなラートンにバジルは黙礼して仕事に戻ったが、領収書をあげるつもりはなかった。
侍女として付いていったという事実を無かった事にしているため、あれはあくまでも途中まで連れ立って行ったモカの個人旅行なのだ。
「若様、準備が整いましたので出発しましょう。」
グーマの声に、ラートンが立ち上がり、バジルも纏めた書類を鞄に入れて執務室を出る。毎日、西へ東へと大忙しだ。
「僕の可愛い奥さんの準備はバッチリかな??」
コンコンと軽いノックの音を響かせて、ラートンがイオンウーウァに蕩けるような甘い声音で声を掛ける。
(さっきまでの淡々とした声色が嘘みたいだ……。)
出逢ったばかりの頃は、番フィーバーだ…と、この甘く蕩けるようなラートンを見る度に驚いていたが、もう、バジルもグーマも、ラートンの周囲は皆慣れてしまった。
"番フィーバーに陥ると、余りの変貌ぶりに肝を潰されるがそのうち慣れて落ち着いてくる"
いつ誰が言ったのか知らないが良く囁かれる言葉。
いつ若様は落ち着くのだろうかと思っていたが、何だか己の方が慣れて落ち着いてきたのを自覚し、もしかしたらあれは周囲が慣れるという話で、運命の番となった側はずっとあのままなのかもしれないな、とバジルは思った。
(ずっとこのままなのか………。甘い物要らないから痩せそうだな…)
常に甘い物を摂取させられてる気分のバジルの目の前で、メイドが手早くイオンウーウァの髪を整え、その様子をシフォンと一緒にラートンが真剣な眼差しで見ている。
「まだ自信無いですが……、頑張ります……!」
「僕の可愛いイオンウーウァの髪はどんな髪型にしてても最高だよねぇ……。毎日どんな髪型にするか迷わない?どうやって決めたら良いんだろう……。」
髪結いを覚えねばと真剣にメイドの手元を見つめるシフォンと、真剣な顔して髪型の決定方法を悩むラートン。
噛み合ってないのに二人してうんうんと頷き合う。
「どんな髪型もお似合いになる方ですから、その日の装いや、行動等で絞り込むと宜しいのでは…?」
最近、何かと邸内でイオンウーウァの世話をしているメイドの一人が苦笑いを浮かべながら言い、ラートンがなる程!と盛大に手を叩いて喜んだ。
「おいこら!バジル!何こんなところでボーッとしてるんだ?酷いじゃないか、こんな爺さんを働かせて……!」
「そうだぞ、バジル!俺ですら働いてるのに、しれっとサボるなよー!」
バタバタとやってきたグーマとアンズに怒られ、バジルは慌てて手に持ってた書類鞄を馬車に運びにいく。
「さ、僕たちも行こうか♪今日の夕食は美味しいドラゴンステーキだよ♡」
「ドラゴンって食べれるのね…。楽しみだわ♪」
背後でラートンがイオンウーウァをエスコートし、シフォンが荷物を持って立ち上がる気配がした。
「イオンウーウァ様、いってらっしゃいませ。」
少し寂しそうなメイドに見送られ、一行は階段を降りた。
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