親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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68: Goal!

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「イオンウーウァ!ウーァ!………あれ??ここは……」


フラフラと虹色の蝶を追い掛けるイオンウーウァを追い掛けてやってきたラートンは、イオンウーウァの幻影が消えたことに驚いて辺りを見回す。

いつの間にか辿り着いた神秘的な泉に、虹色の蝶が奥の木陰でヒラヒラと吸い込まれていく。

ラートンは訳も判らないまま、蝶を追い掛けて泉の奥へと向かった。
すると、数匹の虹色の蝶が淡く発光しながらくるくると小さな円を描いて飛んでいる下にイオンウーウァが横たわっていた。

「イオンウーウァ!?」

急いで駆け寄ったラートンは、苔の上に横たわったイオンウーウァを慌ててペタペタとあちこち触って異常がないか確認する。
幸い、イオンウーウァは眠ってるだけで特に異常は無い様だったが、魔法でもかかっているのかラートンが揺すっても気持ち良さそうな寝息を立てるばかりで一向に起きる気配が無かった。

(ほっ……どうやら僕の大切な奥さんは怖い目に遭わなかったみたいだ……。)

代わりにラートンが酷い目に遭ったが、イオンウーウァが無事だったのでラートンはさっきまでの苦難を全て忘れ去った。

(それにしても、ドレスがとんでもない事になってるな……。それに、ベールみたいなモノまで……。)

着心地の良い、綿や麻、竹などの植物繊維を使って作られていた筈のドレスは、繊維があちこち分解されて妖精の森固有の花とくるくると可愛らしく伸びる蔓があちこちに生えていた。

それらはイオンウーウァの灰紫がかった深緑の髪にも伝い、彩るように花を付けて、その姿はまるで本当に森の妖精の様だった。
又、掛け布団の様にさらりと掛けられたベールは、繊細な蜘蛛の巣に朝露がたっぷり乗った様な、人の手では到底作り出せない神秘的なもので…。

(妖精のお土産……。)

妖精の森に迷い込んだ者や揶揄われた者達が稀に持ち帰るという宝物。
気付かない内に持たされていたり、イタズラが過ぎた小妖精達を窘めながら大妖精がくれたり……逸話があちこちに残る。

ラートンはそんな伝聞を思い出していた。

(今思えば、僕の声に気付かず歩き続けるイオンウーウァからは匂いがしなかった気もするな……。あれはもしかして、幻影だったんだろうか。)

案内してくれたのか、揶揄いたかったのか、はたまた両方か……。とラートンは中々核心を突いたことを考えた。

そっとイオンウーウァを抱き上げ、帰ろうと振り返れば妖精の森の仄暗く仄明るい、神秘的な景色が目に入る。

沢山の精霊達が光の小さな玉となってあちこちに漂い、見たことも聞いたこともない妖艶な蘭達が淫らに発光しながら甘い匂いを振り撒く。
泉の静かな水面はふるふるとさざ波とも呼べない微かな揺れを見せ、そこに映る沢山の光の粒を穏やかに揺する。

何がどうしてその様な現象が起きるのかは判らなかったが、あちこちに小さな虹が沢山出現し、時に泉から跳び跳ねた小魚がその虹の輪の中をすいすいと泳ぐように飛んで何処かへと消えていく。

「………はぁ、なんて神秘的な景色なんだ……。イオンウーウァと二人で見れたら良かったのに………。」

思わず見惚れたラートンが無意識に呟く。

イオンウーウァはラートンの腕の中でくぅくぅと気持ち良さそうに眠ったままだった。
何故か、森から出れば魔法が解ける確信があったので起きなくても不安にはならなかったが、この素敵な景色をイオンウーウァと一緒に見れないのはとても残念だとラートンは思った。

(イオンウーウァも、寝ちゃう前に、この泉の景色を見てたなら良いけど……。)

そんなラートンの思いを読み取ったのか、ラートンを導いてからずっと近くの蘭の花に止まっていた虹色の蝶がヒラヒラと近寄ってきた。





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