親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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66: 瞳、瞳、瞳………。

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「ぬおぉおおおお!!負けるもんかぁぁぁ!!」

獣化を利用し、四つ足で獣の様に猛スピードで駆け抜けて難所を越えたラートンが、そのままイオンウーウァを追い掛けて森の奥へと突入する。

その様子に沢山の妖精達がコロコロ、リンリンとランタンや羽を揺らして喜ぶのだった。


ーーーーー
ーーー



「わぁぁ、何てキレイな泉!此処は…?………あら?……え?ラァト??」

一方、虹色の蝶に導かれたイオンウーウァは神秘的な泉に辿り着き、ラートンに泉の詳細を聞こうとして、ふと、自分がはぐれてしまっている事に気がついた。

「困ったわ…。右を見ても左を見ても、鬱蒼とした茂み、茂み、妖精、茂み……………………妖精??」

どうするべきか、と周囲を見渡したイオンウーウァは、近くの茂み横に大人のバランスのまま子供の背丈まで縮めた様な仄かに発光して耳先が長くて大きなトンボの羽を生やした男か女か曖昧な美しい人が立ってジッと此方を見ていることに気が付いた。

それはまさしく、書籍の挿し絵などで見た妖精の姿だった。



「……………え?本当に妖精さん??」


自分の目が信じられなくて思わず目をゴシゴシと擦ってからイオンウーウァはゆっくりと目を開けてみた。

すると、先ほどの妖精が消えてないどころか、同じ様に黙ってジッと見つめて、何十何百の妖精達がそこここに佇んでいた。

「…………………………ヒエッ。」

木の枝に座る者、茂みから顔だけ出す者、空に浮かんでいる者……。

ぞろりと揃って真顔でこっちを見つめてくる異様さにイオンウーウァは、何とかはくはくと小さく口を動かしたものの、何を言えば言いか判らなかったし、声も出なかった。

(ち、ちょっと目が…怖い…。何をそんなに見てるのかしら??私、此処に来ちゃいけなかった???)

少し動かないで様子を伺ってみるも、何十何百の妖精達も微動だにせず表情の無い顔でジッと此方を見詰めてくる。

(ちょっと微笑んでみよう………こ、こんにちは~………ひ、ヒェェエッ!!!)

そんな妖精達におずおずと微笑めば、ぞろりと揃って無表情のまま口許だけキレイな三日月形に歪められ、イオンウーウァは恐怖の余り金縛りに遭った様に動けなくなってしまった。

と、ふわりと花の香りがして、そのままなんだか意識が遠ざかる。

(ぇ、何だろう…………眠い………………)

「ちょっとお前達!人が蝶に呼んで貰ったお客を怖がらせるんじゃないよ………。ちょっと近くで見てみたかっただけなのに……。」

とさり、と柔らかな草の絨毯に膝をついてゆっくりと眠りにつくイオンウーウァの背後に、普通の人サイズの大きな妖精が現れる。
大きな虹色の蝶の羽を背中から生やした、男とも女ともつかない美貌の人物は、数匹の虹色の蝶を従えてやれやれと溜め息を吐いた。

その者の言葉に、鈴なりになった妖精達がショボンとしたり拗ねてみたり誤魔化してみたりと、様々な反応を見せる。

「だって、私達も見たかったんだもん。」

「お前が、ちょっと無表情で見つめてやろうぜ~!なんて言うからだぞ……!」

「お前こそ、ビビってるビビってる♪って喜んでたじゃないか!」

「私知らないよ?私何にもしてないもん!」

「私だって!ちょっと見に来ただけよ!」


口々に言う妖精達を適当にあしらい、大きな妖精はイオンウーウァを抱き抱えてその寝顔をまじまじと眺めた。

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