親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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63: フーディポリスの夜。

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「ワッハッハ!ワッハッハッハッハ!」

レストランの出口、足取りはしっかりしてるのに、夜風が気持ちいいのかグーマが楽しそうに笑い続けている。

「ちょっと!アンズ、バジル!今日はもう良いからあのワハワハうるさいのを連れてどっか二軒目行ってくれ!ほら、これ。こんだけあれば足りるだろ?……良いか?安居酒屋に行くんじゃないぞ?声の洩れない防音がしっかりした店に行くんだ。
………はぁ、全く。ムードがぶち壊しだ…!」

ラートンがムッカリした顔でバジルとアンズに良い、じゃり、と金を手に握らせる。

「「「はっ…!………スミマセン、若様。」」」

バッと頭を下げたバジル兄妹とアンズは金を受け取ると慌ててグーマを連れて雑踏の中に消えていった。

それを見届けてから弾む足取りでイオンウーウァの元に戻ったラートンは、出口横の釜で焼かれている豚を一心に見つめている彼女の腰をそっと引き寄せる。

「お待たせ♡僕の可愛い可愛い奥さん♡♡まだお腹余裕があるのかい?」

こんがりテラテラと炭火に照らされる豚を見ていたイオンウーウァにラートンが聞けば、イオンウーウァは恥ずかしそうに微笑んだ。

「お腹はかなり膨れてるんだけど、あの豚さんが、凄いなぁって思って…。」

「じゃあ、その貴重なお腹の隙間に何を入れるか少しお散歩しようか♪ほら、お手をどうぞ♡僕のお姫様♡♡」

蜂蜜に粉糖をまぶしたみたいに甘く蕩けるラートンの声音と台詞に道行く人々がそっと窺い、囁き合うのがさわさわと聞こえる。

ラートンと出逢って少しの頃は、嫌みのないひそひそであっても気になってしまっていたイオンウーウァだったが、もう最近は慣れっこになっていた。

獣人の中に占めるイタチ系獣人の割合は多い。イタチ系獣人と関わりが深い小動物系獣人達も含めれば大半を占める。

その頂点に立つと言っても過言ではないバドワイザの次期当主と番なのだ、どうしても、何処へ行っても、人々に注目されてしまう。

(でも、ラァトと一緒なら頑張れる。最近、ちょっと、そう思えるようになってきたのよね……。)

ラートンに手を引かれ、微笑みながらイオンウーウァは考えた。

(もっといろんな事を教えてもらって、ラァトを少しでも手助けしたいわ……。)

「ほら、豚の丸焼きを少しだけカットしてくれる屋台があるよ♪」

「いよっ!御両人!こっちのケバブも美味しいよ!えっ!?お腹いっぱい!??ダーイジョーブ♪するっと入っちゃうよ、この位。飲み物さぁ♪♪」

ラートンが一つの屋台を指差せば、隣の屋台からうちも買って、と声がかかる。

「まぁ、可愛らしいお嬢さんだわ!お似合いのお二人に、是非うちのフルーツジュースをどうぞ♪安くて新鮮、甘いわよー♪」

「このシナモンロールを見とくれ!小さくて一口で食べれちゃうのに、白蜜がこぉんなに掛かってるよ~♪」

「あれあれ、困ったね……。僕達本当にお腹いっぱいなのに…。……じゃぁ、折角だし少しだけ……ね、イオンウーウァ♡」

あっという間に商人達に囲まれ、それでも嬉しそうにあれやこれや頬張る二人に、通りすがりの獣人達が微笑ましく見つめながら囁き合う。

「見てごらんよ、アナグマ獣人だ。彼等の若様にこないだ運命の番が見つかったせいか、何処へ行ってもアナグマ獣人はお祝いムードだねぇ…。」「そうね、あの人達も身形からして貴族だろうに、あんな屋台ものを嬉しそうに頬張って…。見てたらこっちまで財布の紐が緩んできちゃうね♪」「どれちょっと、儂もあのケバブを買おうかな♪」

二人に注目した野次馬の中から、チラホラ屋台ものを購入する者が現れ、その隙にラートンとイオンウーウァは急いで屋台通りを抜け出した。

手にテイクアウト用に包まれた屋台モノいっぱい抱えて……。


ーーーーー
ーーー



「ふぅ………。いやぁ、流石に満腹だねぇ……!本当はこれを見に来たのに……。」

「アハハ、本当にお腹いっぱいでもう入らないわ♪……え?
う、うわぁ~~~☆凄い!なぁに!?此処!」

屋台通りを抜けて幾つかの小路を右に左にくねくねと。
苦笑いするラートンに手を引かれて進んだ先に、ぽわっと明るい光の数々を認め、イオンウーウァが歓声をあげた。

「フーディポリス名所、ランタンの森へようこそ♪」











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