親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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62: フーディポリスの夕食。

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フーディポリスに着いたラートン達一行は宿に馬車を付けると、宿のポーター達と一緒にシフォン、バジル、アンズが荷物を運び、グーマとラートンとラートンに抱かれてまだ眠るイオンウーウァはレストランへと向かった。

レストランはラートンとイオンウーウァが二人で個室を使い、隣室にグーマ以下四人という形式だった。

「がっかりするなよ、イオンウーウァ様と出逢う迄は皆一緒に食べてたけど、イオンウーウァ様と二人きりで食べたいからって部屋を分けられたんだ。
出るメニューはあっちも俺達もおんなじだからな。」

バドワイザはそんなケチじゃないんだ、とアンズが言うが、シフォンは次期当主と同じメニューを食べるとは思ってなかったので、逆に驚いてしまった。

しかも、別室なせいでイオンウーウァの世話など気にせずに食べられるし、レディファースト精神で叔父や兄や従兄弟が手厚くもてなしてくれるので、これでは侍女どころか旅行に来た令嬢の待遇だった。

(良いのかな……。こんなオイシイ思いをして……。)


リザードランナーで普通の男性ならヘトヘトになる程の長距離を駆け、荷運びやリザードランナー達の世話を手伝い、イオンウーウァのスケジュールや財産を管理する激務を気にしないシフォンは、ワインを注いで貰いながら、そんな事を考えていた。


ーーーーー
ーーー


「じゃーーん♪ウーァ♡見てみて!」

一方、隣室ではラートンが覆いを開けて大きなTボーンステーキをイオンウーウァに披露していた。

じゅわぁぁ……!

ラートンがイオンウーウァに切り分けようとナイフを入れれば肉汁が滝のように溢れ、鉄板皿に当たって芳醇な肉の薫りを漂わせる。

「うわぁぁぁ♡」

イオンウーウァがお口の中を大洪水にして歓声をあげ、ラートンはふふん♪と格好を着けて塩を振りかけた。

「さ、どんどん食べてね♪」

ラートンが巧みなナイフ捌きで肉を細かい一口サイズにしてイオンウーウァの皿に乗せてゆく。

背後で給仕達が戸惑いつつも壁の花となっていた。

(うわぁ。細かいなぁ。ほぼ微塵切りじゃないか…。)((仔猫の餌レベル……。))

獣人達の様に牙が発達していない人族の身の上、天涯孤独となって以来、柔らかい油の実や森の苺等をメインに食べてきたイオンウーウァの弱々しい顎の為に豪快なステーキをかなり細かくしてからサーブしていくラートンに、給仕達は戸惑いつつも黙って見ていた。

本来であれば、家長が肉を切り分けるのがルールの家門でもサーブは給仕に任せるのだが、ラートンがイオンウーウァの専属給仕と化しているために、彼等は本当にすることがなかった。
揃って飲み物を見詰めるが、イオンウーウァは余り飲まないし、ラートンは肉を切り分けるのに忙しい。

(暇だ……。高位貴族の給仕で手持ち無沙汰ってのも珍しいよな……。)

(お二人のやり取りを邪魔しないようにするしか仕事がない……。それにしても、仲良いなぁ…。)

((俺達よりナイフ捌きが巧みだから本当に手が出せない…。俺も番が欲しい…))

「ふふふ、僕の可愛い奥さん♡お肉頂~戴っ♡♡」

「はい、あーーん♪」

「あーーーん♡♡♡……むぐむぐ…フフッ有り難う♪」

イオンウーウァ用に小さく切る合間に時々大きな一切れを作っておき、それをイオンウーウァにあーん♡して貰うという、部外者に砂を吐かす為としか思えない行為に若干げんなり、運命の番との出逢いへの憧れ半分で給仕達はそっと二人を見守ったのだった。


ーーーーー
ーーー


「ワッハッハ!……ん?希少部位?…ああ、私は良いからお前達で食べなさい。私はこのワインがあれば十分♪んー…それにしても、美味しいワインだ♪……お、有り難う。ワッハッハ!それにしてもあの時のアイツの顔と言ったら!ワッハッハ!」

イチャイチャラートン&イオンウーウァの隣室では、グーマが大声で笑い、甥っ子姪っ子達も楽しそうに食べたり飲んだりと、気のおけない親族会と化していた。

アナグマ獣人は家族仲が良く、朗らかだ。

それ故に、どんな時も直ぐ様アットホームな雰囲気になってしまう。それを防ぐ為に仕事中は家族関係は忘れる様にしているのだが、ラートン達が居ない今は仕事中ではないという事らしく、グーマはすっかり酔っ払った親戚の叔父さんに成り果てていた。

親族が集まる宴会で、大きな笑い声のBGMを担当している方々である。

「お待たせしました。フーディ名物のチーズフォンデュとラクレットの食べ比べでございます。」

「わぁ~~♡」「「おおーー!!」」「ワッハッハ!!」

とろとろのチーズが運ばれてきて、三人が嬉しそうに声をあげ、その様子にグーマが楽しそうに笑う。

ラクレットをタラリと野菜に垂らせば、じゅるり、とアンズが興奮の余り垂れたヨダレを慌てて拭う。

そのアットホームな親戚の集まり感に給仕達はそっと頬を綻ばせるのだった。







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