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59: あれ?愛称は?
しおりを挟む「ねぇねぇ、僕の可愛いウーァ♡」
馬車が走り出して暫く、イオンウーウァはラートンが呼び掛けた言葉にふと、疑問を抱いた。
「なぁに?ラァト♪」
と、取り敢えず返事をすれば、ラートンは蕩ける様な笑顔でイオンウーウァを見つめる。
「もう少ししたら、ちょっとだけ……。リザードランナーに乗るかい?」
道が滑らかだから…と、誘うラートンはとても優しくて、イオンウーウァは是非そうしたいと思ったが、如何せん、眠気が勝っていた。
「ごめんなさい、乗りたいけど、ちょっと眠いの……。」
そう言えば、ニコニコしながらラートンがイオンウーウァを抱き寄せてくれる。
「そっか、大分はしゃいだもんね…♡次の街フーディポリスも楽しいから、今の内に出来るだけ休んでてね♪」
トクトクとくっついた耳に優しく響くラートンの穏やかな鼓動と、ムギュッと暖かい筋肉の温もりにイオンウーウァの瞼がどんどん重くなっていった。
「ねぇねぇ、ラァト?……どうしてさっきまではイオンウーウァとか、奥さんって呼んでたの?」
眠い目を擦りながら聞いてみれば、ああ、と苦笑いが返ってきた。
「実はね、僕がウーァ♡って呼んでたもんだから、一般のイタチ獣人達がウーァって名前なんだと勘違いしちゃってね…。僕の目の前で、ウーァ様にも宜しければこれを…とかいって差し入れを差し出したりするものだから、ヤキモキしちゃって♡」
ヤキモキ……とうつらうつらしながらもイオンウーウァが繰り返す。
「そう。ほら、皆僕達の事を祝いたくて仕方ないんだけど、まだまだ情報が行き渡って無くてね…。
僕だけが呼べる愛称なのに、耳敏く聞き付けた奴等がニコニコ顔で"ウーァ様とおっしゃるんですか"なーんて言ってきてね?
それでいて、ウーァって呼んじゃダメだって言えば真っ青になって謝り倒すし…。
だから、婚約式までは二人だけの時に呼ぼうって思ったんだ。」
(婚約式……。)
「どうして婚約式までなの…?」
ずるずると倒れ込んで胡座をかいたラートンの腿を枕にしながらイオンウーウァが聞き返した。
ラートンが人差し指でゆっくりと耳の後ろ辺りを撫でるのが心地良い。
因みにラートンは密かに、この状態のイオンウーウァを"ねんねの構え"と呼んでいる。
(何しててもウーァは可愛いけど、無意識に寝ポジを探してる時の可愛さは格別なんだよなぁ♡)
「婚約式に向けて、世界各地の親戚や知人にお手紙でラートンがイオンウーウァって人族の運命の番を見つけましたよー♡って報せてるし、沢山の吟遊詩人がその歌を歌って広めてくれてるからね♪流石に婚約式が終われば、イタチ系獣人でイオンウーウァって名前を知らないヤツは居なくなるよ♡♡」
「………歌??」
ラートンの言葉に、イオンウーウァが不思議そうに聞き返す。
「そう、歌。ウーァの村には吟遊詩人来なかった?彼らは、子供向けの数字や文字の歌、昔の英雄物語以外にも、いろんな時事ネタを歌にして世界の隅々まで届けてくれてるんだよ。特に、イタチ系獣人は文字の読めない人や辺境に住み着いてる人なんかも多いからね、僕の父上と母上が結婚した時や僕が生まれた時とか、バドワイザは事ある毎に歌を広めて貰ってるんだ。」
「へぇ、どんな歌があるの?」
イオンウーウァの眠そうな目が一転、キラキラと見上げてきて、ラートンは少し困ったように笑った。
「ぇえ~…エヘンッ、ンンン……
1♪1はすらりと筍一つ生え~♪
2♪2は湖面を進む白鳥のよう~♪
3♪3は蜜百合のめしべを横向けて~♪
……って数字書き方歌とかね♪」
歌は教養として嗜んでる程度で、余り自信のないラートンだったが、愛しのイオンウーウァの為ならば、と、昔良く口ずさんだ歌を少し歌う。
それを聞いたイオンウーウァが嬉しそうに顔を綻ばせて手をそっと叩いた。
その顔に、参ったな、とラートンは心の中で呟く。
「上手!素敵な声ね♪ラァトの歌も聞いてみたい♪歌ってよ!」
(やっぱり……。そう言われそうな気がしたんだ。)
イオンウーウァは好奇心のままにねだるが、自分が生まれたことを称える歌を自分で歌うのはかなりの羞恥プレイである。
「ちょっと恥ずかしいね…。でも、可愛いウーァが望むなら頑張るよ♪」
ラートンは気恥ずかしくてむずむずするのを我慢し、何とか呼吸を整え、歌い出した。
「ち、…治世34の年に~♪モフーラがバドワイザの~♪新たな星が産まれた~♪
それはそれは~♪太陽石の月の~8の日に~♪恵みの雨の降る昼下がり~♪」
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