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58: モカたちの冒険はここからだ!
しおりを挟むコンコンコンゴンゴツン……。
シフォンが出掛けてから暫くして、モカがそろそろおやつ時だけどおやつは出ないのかしら?と考えていたら扉をノックする音が聞こえた。
「はぁい、どうぞー?」
ちょっとノックの後半に不穏な音がしたが誰だろう、なんて首を傾げながらモカが応えれば、ガチャリと扉を開けて、身なりの良い羊獣人とむさ苦しいラーテル獣人と熊獣人が入ってきた。
「ぇ………誰?」
「こんにちは、支配人のラムチョップンです。
お嬢さん、困りますよ……チェックアウトの時間は三時だと最初に宿に入られた時にバドワイザ小伯爵様が仰ってましたよね?
貴方の予定が変わってもチェックアウトは変わってないんですよ。ほら、すぐに荷物を纏めてください!」
「 え っ ? 」
モカは驚いて目をぱちくりさせた。
(ラートン様が言っていた……?そういえば、夕食は別の街でって……。やだ、急がなきゃ!でも……)
「私の予定が変わった…って、なぁに?」
きょとんとして言うモカに、支配人は下から二番目の妹と同じタイプだな、と思った。
「侍女をクビになったので帰宅すると聞きましたよ?
シンシューポリスから御自宅まで、貴方一人では帰れないだろうから、と、貴方のお兄様が帰宅の手配を私に依頼したのです。
良いお兄様ですよねー!!お兄様に感謝ですよね!!本当にお兄様とは有り難い存在ですよ!!」
(何だかお兄様を凄く推してくる……。ううん、それより、クビってどう言うこと??)
支配人はちょっと兄と言う存在に対する熱き思いが洩れたようだった。
彼は第一子で下に八人の妹が続き、その下に弟二人と妹三人という家族構成で未だに弟達は幼く、長年妹達の自由奔放ぶりに孤軍奮闘を強いられてきていた。
彼は妹達を愛してはいたが、もう少し兄に対する感謝が有って良いと常々思っていたのだ……。
そんな、思わず兄への感謝を求めて暴走した支配人と、ぱちくりキョトンとするだけで動こうとしないモカを後ろで見ていた熊獣人がため息を吐いて部屋にズカズカと入ってきた。
「はーぁ。急がないと日が暮れちまう。俺はビア。お嬢さんは荷物を纏めたりなんかしたこと無さそうだし、俺らは金貰ってるし、俺らが荷物纏めてやるよ……。」
そう言ってのそのそと小物を手に取り出したビアにモカは一瞬にぱっ♪と笑顔になるが、それはすぐに曇ることになった。
「え"」
ビアは何処からともなく、ポンポン叩けばモフンモフン埃が出そうな薄汚い麻袋を取り出し、そこにモカの可愛い化粧品達をポイポイカシャカシャンと放り込んでいく。
ビアには喧しい姉と妹が一人ずついた。
そのせいで彼は、若い娘にとって何が一番ダメージとなるかをよぉく知っていたのだった。
「え"え"っ」
余りの事に引き攣った声を出したモカは、慌てて自分も荷物を纏め出したが、如何せん、普段したこと無いのでもたついて捗らない。
そうこうする内に、ラーテル獣人のケイン迄ポイポイギュッギュッと荷詰めを手伝いだした。
畳むと言う概念を知らないラーテル獣人の武骨な手がドレスをもしゃ、わしゃ、と近くの鞄に詰め込む度にピリリ、パリリと繊細な破壊音が聞こえる。
彼は男だらけ10人兄弟の真ん中育ちで、彼が物心着いた時には家に繊細なモノ、壊れるモノなど一つも残って無かったし、その後も出会うことは無かった。
故に、彼は純粋に好意で荷詰めは大変だろうと手伝ってあげたつもりだったが、彼が一番モカの精神と持ち物にダメージを与える事となった。
ーーーーー
ーーー
ー
「さて、行こうか。荷馬車に夕食も用意してある。」
ビアが低く轟く声で言い退室を促すので、モカは緊張でカチコチになったままソロソロと部屋から出た。
「じゃ、いってらっしゃいませ♪大丈夫、安心安全を第一に出来るだけ早く帰宅できる様にと依頼してますからね♪」
パタン、と後ろでドアを閉めて支配人がニッコリとモカに言う。
その扉の閉まる音がまるで、モカへの断罪の音の様にいつまでもモカの中で木霊する。
今や、モカは断頭台へと引き摺られていく悲劇のヒロインの様な気分だった。
実際は、少々我が儘が過ぎるので甘やかさないでくれと支配人から言われて少しラフに接したものの、ビアもケインもモカの事を令嬢としてそれなりに丁寧には扱っていたのだが……。
そもそも冒険者を初めて見るモカは、二人のその様な気遣いには全く気付かずビビりまくっていた。
「ガッハッハッハ!!俺達に任せて、ドーーンと大船に乗った気でいな!」
「そうそう、俺達の気配で大抵の魔物や盗賊達は逃げていくからな♪」
安心しろ!とニコニコ厳つい牙を見せて笑う二人に、私も逃げたい、と思いながら荷馬車に積み込まれるモカだった。
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