親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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57: いってらっしゃい。

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モカが風呂から上がると、シフォンがパタパタと忙しそうに動き回っていた。
どうやら荷物を整理しているらしい。気にせずシフォンは新しいドレスを引っ張りだし、いそいそと着替える。

(今度のドレスは黄緑系なの♪もしかしたら甘過ぎないこっちのがラートン様は好みかもしれないわね♪)

ドレスはドレス、化粧品は化粧品、と二人分の荷物が入れられていた鞄から、シフォンとモカの荷物に分け直しているらしきシフォンを認識したものの、特に気にせず、モカはそんなことばかり考えていた。

一方、シフォンは何だかんだ言っても可愛い妹の為、荷物を吟味しながら分けていた。

(今日着たドレスは私が持って帰ってあげて…、モカのドレスは嵩張るから持たすなと言われたし、代わりに私のワンピースドレスを入れておいてあげよう。シフォンの趣味じゃないかもだけど、これなら嵩張らないし。)

何かの時にはモカが自分で荷物を待つことも考えて最小限を残し、他は全て馬車に詰んでいく。

その何度も部屋と馬車を一人で往復する姉の姿を、ご苦労様だなぁ、なんて思ってモカは眺めていた。

ラートン達にとってこの宿は、湯浴みの為に取っただけの様なもので夕食は別の街で取る予定である。

と、言うことは、夕食までには着かなければいけないので、そうノンビリはしてられないのだが、そんなことすっかり忘れているモカは、引っ張り出した化粧道具を直しもせずにベッドに腰かけてお菓子を齧っていた。

(お夕食の後、さっきはすみませんでしたって謝ってぇ、ラートン様にシンシューポリスの夜の街散策に行きませんか?ってお誘いするでしょー?それでぇ……♡)

「じゃあね、モカ。私はもう行くからね…。」

不意に妄想を突き破ってシフォンがモカに声をかける。
モカはぱちくりと瞬きして現実に戻り、手を振って姉を見送った。

「うん、いってらっしゃーい。」

(何かお使いかな?大変ね♪その点、私はラートン様直々に休んでていいって言われたし~♪)


ーーーーー
ーーー



パタンとドアを閉めて溜め息を吐いたシフォンに近づく人影があった。

「シフォン、モカの様子はどうだった?」

バジルの問いに、シフォンが顔を上げる。

「お兄…バジルさん…。」「今は兄で良い。」

お兄様と言いかけて直したシフォンに、バジルが家族としての質問だと示す。

「元気です。初日にクビになったとは思えない位…。でも、内心はどう思ってるかは……。」

ラートンは昔から、物腰や言葉遣いは柔らかいが考え方はハッキリしているタイプだった。
そして、"残念だ、もういい。"この二つの単語の組み合わせが解雇通牒なのは商会や領では割と有名な話だった。

それ故に、シフォンはモカがクビになっても気にしていない素振りを見せていると思っていたが、実際は、モカは全くクビになったとは思っていなかった。
寧ろ、ラートンに労られ、好感度はメキメキ上がって恋人になれるのも近いと思っている。

バジルはシフォンの勘違いも、モカの思い込みも、どちらも把握していたが放置することにした。

クビになったと気付かない方が余計な騒ぎをモカが起こしたりしないからである。

(今正さなくても、もう少ししたら嫌でも痛感するだろうからな……。)

バジルは先程、支配人がもふん!と胸毛溢れる胸を叩いて任せろと言ってくれたのを思い出し、笑みを浮かべて、妹の手荷物を持ってやった。


「さあ、若様もイオンウーウァ様も待ってる。行こうか。」


シフォンはこくんと頷き、二人は仲良く階段を降りた。


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