親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

文字の大きさ
上 下
56 / 128

56: 急な依頼と思わぬ同志。

しおりを挟む


「バジル、居るかい?」

「はい、若様。どうなさいました?」

カタ、コト、と荷物を置く音がして、バジルが顔を出した。
どうやら先程ラートンの入浴を手伝った後片付けをしていたらしく、手に畳み掛けの服を掛けている。

「悪いけど、モカはもう帰ってもらって良いよ。シフォンは専属侍女として雇おうと思う。」

ニッコリ笑顔で言うラートンに、ひくっ、とバジルの喉が引き攣った音を出した。
アンズはカリカリガリガリとペンを走らせ、自分は仕事が忙しくて何も聞いていない振りをしている。

「………………判りました。すぐに帰します。」

「うん、宜しくね。僕らはもうすぐ出発だから、後は僕がやるよ。片付けご苦労様。」

ラートンがバジルの腕から畳み掛けの服を受け取ると、バジルは足早に部屋を出ていった。



(ァァァアイツゥゥゥ!!何したんだよぉぉぉ!!)

叫びだしたくなるのを心の中で絶叫するだけに留め、バジルは音無く滑るように階段を下りると、フロント前でニコニコしている支配人に突進して行った。


ーーーーー
ーーー



「ギルドに依頼を頼めるか!?」

「ンひぇっ!?」


おやバドワイザ商会の…と階段を降りて此方に来るバジルを視認した途端、眼前にスレスレでビタッ!!と止まったバジルに言われ、ホテルの支配人の羊獣人は文字通り飛び上がって驚いた。

「ギ、ギルドに……どんな……ご依頼で……?」

ドッドッドッドッドッ……と未だ収まらない動悸を抑えつつ支配人が聞けば、バジルは令嬢を一人バドワイザ領迄に送り届けたい、と顔が溶岩で出来てるんじゃないかと思うほどの熱気を込めて宣った。

ジリジリと炙られる思いで支配人が疑問を口にする。

「バ、バドワイザ領でしたら、それこそ、お宅の商会が一番速くて安全でお安いのでは……??此処からなら、普通なら一週間もかかっちゃいますよ…?」

「いや、妹は我が儘な所があるからな……商会の職員は皆身内みたいなものだから、知られると後々縁談に響きそうなんだ……。」

そう言って、実は、と事のあらましを説明された支配人はひどくバジルに共感した。

実は支配人にも癖の強い姉妹が何人かおり、何度も胃を痛めた経験があったのだ。

「成る程成る程……。確かに妹さんの性格なら、不満たらたらで要らぬ事を全部喋っちゃいそうですねぇ…。」

そう、今なら只単に兄姉に着いてきて、ちょっとお仕事体験しただけという体でうまく収まるのだが、もしモカが商会の職員達にブーブーと不満を漏らし、侍女として付いてきたものの勤務初日にクビになったなんてバレたら何処にも嫁に行けなくなる。
バジルはそうならない為にも、守秘義務を課した契約で安全にモカを家まで送り届けたかったのだった。

支配人はふわふわの胸毛が詰まった胸をもふん!と叩いて笑った。

「貴方の境遇はとても他人とは思えません、私に任せて下さい♪」

正確な依頼費が直ぐに見積もれないので、取り敢えず前金にある程度を、と言う支配人に、バジルが金を差し出す。

にお送りしますが、道中ちょっと令嬢には快適とは言えないかもしれません。お風呂とか、食事の豪華さとか……。しかし、それが一般的な旅というものですから、仕方ありませんよね?」

ニヤリと悪~い笑みを浮かべて言う支配人に、バジルもニヤリと同じ笑みを浮かべて頷いた。

「ああ、少々は仕方ないだろう。旅はそう言うものだからな。宜しく頼むよ♪」




しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

政略結婚だと思っていたのに、将軍閣下は歌姫兼業王女を溺愛してきます

蓮恭
恋愛
――エリザベート王女の声は呪いの声。『白の王妃』が亡くなったのも、呪いの声を持つ王女を産んだから。あの嗄れた声を聞いたら最後、死んでしまう。ーー  母親である白の王妃ことコルネリアが亡くなった際、そんな風に言われて口を聞く事を禁じられたアルント王国の王女、エリザベートは口が聞けない人形姫と呼ばれている。  しかしエリザベートの声はただの掠れた声(ハスキーボイス)というだけで、呪いの声などでは無かった。  普段から城の別棟に軟禁状態のエリザベートは、時折城を抜け出して幼馴染であり乳兄妹のワルターが座長を務める旅芸人の一座で歌を歌い、銀髪の歌姫として人気を博していた。  そんな中、隣国の英雄でアルント王国の危機をも救ってくれた将軍アルフレートとエリザベートとの政略結婚の話が持ち上がる。  エリザベートを想う幼馴染乳兄妹のワルターをはじめ、妙に距離が近い謎多き美丈夫ガーラン、そして政略結婚の相手で無骨な武人アルフレート将軍など様々なタイプのイケメンが登場。  意地悪な継母王妃にその娘王女達も大概意地悪ですが、何故かエリザベートに悪意を持つ悪役令嬢軍人(?)のレネ様にも注目です。 ◆小説家になろうにも掲載中です

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

処理中です...