親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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54: 小さな出来心、大きな心配心。

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「ぁ、痛っ…!」

不意に頭皮に走った痛みに、イオンウーウァが小さく悲鳴をあげた。

「あ、ごめんなさぁい♪」

クスリ、と笑ってモカが謝罪とは思えない軽い口調で謝った。




事件の少し前、楽しくシンシューポリスを満喫したラートンとイオンウーウァは近くの宿屋に入り、軽く湯浴みして着替え、少し休んでから次の街へと移動しようという事になった。

直ぐ様シフォンとモカは仕事を切り上げ、イオンウーウァの入浴の補助と着替えの準備に入った。

そうして、初仕事に緊張するシフォンと器用だが不満たらたらなモカに洗われ、拭われ、手入れをされていたイオンウーウァだったが、シフォンが瓶を倒したりモタモタしてしまっても決して怒らず、気にしなかった。

ハッキリ言って、入浴の補助を受ける身分の者の大半がそうであったが、そんなことをされた際には文句の8つや9つは吐いちゃう文句たらたら系暴君モカは、それですっかりイオンウーウァを舐めきってしまっていた。

隣のシフォンは聖女と崇めんばかりになっていたので、正に真逆の姉妹である。

そうしてイオンウーウァを舐めきったモカは、頭皮マッサージを終えて髪を梳かす際に、少し絡みかけた場所を見かけ、出来心が生じてしまったのだった。

「あ、そこ……!」

モカの方が器用だから、とブラシを奪われ、横で大人しく見ていたシフォンが絡みかけた部分に気が付いて何かを言おうとしたのを無視してそのままモカはブラシを上から下に動かした。

ガズッと引っ掛かる小さな音共に、頭を少し引っ張られたイオンウーウァがちょっと驚いた様に小さく肩を跳ねさせた。

ちょっと痛くてビックリした。

ただそれだけだった。
ボサボサヘアの頃のイオンウーウァなら日常茶飯事だったが、ラートンと出会ってからは丁寧に絡みは解されて居たので痛みを感じるのは初めてだった。
そのせいで少し驚いただけで、イオンウーウァは謝る事ですらないと感じていたので、モカの謝罪が軽かろうと気にも止めなかった。

そして、この事件とも呼べない事件はそのまま終わる筈だった。

だがこの世界に一人だけ、こんな些細な事もそのまま流せない人物が居た。


だかだかだか…バン!!

 「イオンウーウァ!!大丈夫!??」



 「「「ふぇっ??」」」



バーーン!と勢い良く扉をブチ開けて、ラートンがイオンウーウァの部屋に突入してきたのだ。

ズカズカと部屋を横断し、バスルームの扉もバン!!と開いてパウダールームで腰掛けていたイオンウーウァの元に駆けつける。

「僕の可愛いイオンウーウァの悲鳴が!!無事!?大丈夫??怪我した??痛かった??大丈夫かい??!」


呆然とする娘三人の背後、ゴトリ、と重い音を立てて壊れたドアノブがカーペットの上に落ちた。





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