親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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53: 苦くて塩っぱい。

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あるだけ全部買うと言って鮎の塩焼き屋台の店主を驚かせ、皆でワイワイと鮎の塩焼きを手に取り、ガブリガブリと頬張ったシフォンは無常の幸せを噛み締めていた。
パリパリのヒレのキュッ!と唇が痺れる塩っぱさに、商会事務員が入れた冷やしたお茶を流し込めば、汗を沢山かいた身体が生き返る様だった。

隣でモカがしょっぱい、苦い、食べるとこない、食べにくい、と文句を言っていたが、皆、若様と番様が食べてたように、と、頭からまるごと食べたので、食べにくいのはモカだけだった。

全部買ってくれたのだから目の前で焼いて焼き立てをすぐに渡したい、と屋台を押して商会前まで移動してきたカワウソ獣人の店主が、先程の二人がバドワイザ小伯爵と運命の番様だったのか!!と驚き、それならお代は受け取れない、いやいや、目出度い時こそ金を受け取って貰わねば、とグーマと押し合い圧し合いするのを笑ったり、金を受け取った店主が御祝いだと菓子屋に走って買ってきた饅頭を食べたり、それはもう、シフォンは幸せだった。

商会で働くと言う念願に近い体験を、鮎と饅頭付きで堪能できたシフォンの横で、アンコ嫌いのモカはチミチミと未だに鮎を齧っていた。

ラートンの傍に居れると思い、侍女の仕事に色々ドリーミンしていたモカには、鮎も、今日の体験も、とても苦いものだった。


「おや、可愛い僕のイオンウーウァさん♡どうやら、デザートには少し遅かったみたいだよ。」

少しおどけたラートンの声に、モカがぐるりと首を回して振り返れば、従業員全員にと、松毬林檎と大苺を串に刺して凍らせたモノを差し入れに来たラートンとイオンウーウァがそこにいた。

二人とも仲睦まじく腕を組み、顔面はなにやらキラキラと輝いて頬に湖の景色が描かれ、頭にピカピカ光るカチューシャ、背中にピカピカ光を反射するペラペラの蝶と妖精の羽根、腕に浮き輪の様な人形とビカビカ光る腕輪の数々、腰には光るおもちゃの剣と色取り取りのヨーヨー、カラフルな飴玉が沢山詰められた透明袋、ペロペロキャンディに金平糖にグミ。

更には、何処かの店のサービスだろうか、ラートンの抱えてる箱には様々な飾り付けをされたりんご飴や苺飴、チョコバナナやロリポップの類いが針鼠の様にぶすぶすと突き刺さっていた。

イオンウーウァも両手になにやら沢山の菓子やらおもちゃを提げたり抱えたりしている。

二人が存分に楽しんで来たのは明らかだった。

「「やったぁー!食べます!食べたいです!ありがとうございます!」」「遅くないです!ナイスタイミングです!」「うわぁ!ありがとうございます!!」「「やったー!」」


喜びに沸く職員達の中、モカだけはラートンを見詰めて下唇を噛んだのだった。



だからだろうか、このシンシューポリスの宿屋で軽く休憩して、夕飯と宿泊は別の街に移動してから取ろうという事になり、イオンウーウァの湯浴みを手伝ったモカは、イオンウーウァの髪を梳かす際に、むくむくと沸き上がる黒い気持ちを抑えられなかった。






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