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52: 運命の番が齎したものと真逆の姉妹。
しおりを挟む(モカはこんな所で働かされてるのに、なんで二人して遊んでるのよー!!)
モカは自分の足元を見下ろした。
おろしたてのふわふわドレスは姉の掛け布団に、自分の敷き布団にと活用され、すっかり薄汚れてしまっていた。
ツヤツヤエナメルの靴も、セカセカ動き回るので足指の付け根辺りに幾筋もの皺が入っている。
視界に入るゆるふわ髪も少し汗ばんですっかりボサボサだ。
やっとこさ馬車酔いから復活したと思ったのに、休憩は終わりだとばかりにグーマに冷たい果実水一杯渡されて仕事を指示され、今に至る。
勿論、グーマの見立て通りにタフで強健なバジャーの娘であるモカもかなりのタフで、すっかり元気だったのだが内心不満たらたらだった。
誰がどう見ても働くのに相応しくない格好で来たモカが悪いのだが、ラートンに付いて観光名所であるシンシューポリスに行くと聞き精一杯お洒落したモカは、観光どころか食事さえ持ってきた簡素なサンドイッチを後で食べろと言われ、おめかしが台無しになった現状に泣きそうになっていた。
遠くで鮎を食べ終わった二人が仲良く店巡りしようとしていて、尚の事モカは悔しく思った。
「それにしても、若様が粗方荷物を運んでくれてるとは言え、細々した作業ってのはどーも気が滅入る。若様はさっさと番様と遊びにいっちまうし…、二人に手伝って貰えるのは有り難いなぁ。」
そんなモカを知ってか知らずか、職員の一人がモカとシフォンに聞こえるように言って、ありがとう、と笑う。
その笑みに、シフォンがぎこちなく笑い返し、モカがぷんすこと俯いて聞こえない振りをする。
「まぁ、でも、以前みたいに全部の作業を手伝ってくれるのも、お前はしんどいってぼやいてたじゃないか!」
誰かの返しに、違いない!そーだそーだ!と職員達がどっと沸く。
「だって、ちょっと手を休めて水を飲もうとしたら、すぐに若様が手伝いにやってくるんだ、しかも、一段落して一息着いてたらサクサクと次の仕事下準備し始めるし…。あれは何かもう、休んでられなかったろう??」
(若様、優しいけど合理的でハードワーカーだから…。)
パラパラと書類を分類しながら、シフォンはそう心中で呟いた。
職員達の話を纏めると、ラートンはその筋肉と魔力を活かしていつも荷降ろしの大物を粗方一人でやってしまうらしかった。
更に、手が空いたらすぐに職員達の作業を手伝う。
それだけ聞いたら立派な上司だし、ラートンも良かれと思ってやっているのだが、何せ体力お化けの筋肉達磨、休むことを知らない馬車馬の如く作業を次々終わらせて行く為、作業を終わらせて貰った職員達はすぐに次の作業に取り掛からないといけない気になるらしい。
ラートンは自分が代わるから少し休めというが、若様にそう言われたら、無駄口叩いたりせずにコンディションを整え、回復したらすぐに作業に戻ろうと思ってしまう、との事だった。
(まぁ、若様はイタチ系獣人全体の未来の王みたいなもんだもの、そうなるわよね…。)
それが、番様と出逢って以来、自分の仕事だけ終わらせたら後は頼むとばかりに帰宅したり番様と遊んだりで、お陰でこっちも少しゆっくり仕事が出来るようになった。
その分仕事が終わる時間も遅くなるが、全速力で仕事をするよりも楽に感じ、仕事終わりに飲みに行く回数も増えた。と頷きあう職員。
俺はその分、金が貯まらなくなったよ、と誰かが苦笑いし、又どっと沸く。
そんな会話に、黙々と書類を分けながらシフォンは聞き耳を立てていた。
そのピクピクと動く妹の耳に、バジルが苦笑いして声をかける。
「おまえも、適度に休めよ。なんだったらさっきの若様達が食べてた鮎とかいう魚を食べてきても良いぞ。」
言外に、最近は殆んど会話がなかった兄からの、初めての仕事で疲れてるだろうシフォンを労う気持ちを感じてシフォンはニッコリと笑って礼を言った。
因みにモカの仕事振りはサボるに似たり、といった感じだったので誰も休めとは言わなかったが、既に彼女は手を休めていた。
モカは絶対に無理をしないタイプだったのだ。
「そうだな、折角だし…あの屋台の魚あるだけ買ってきなさい、シフォン。皆で休憩しよう。」
バジルとシフォンのやり取りに絆されたグーマが、シフォンに財布を渡してお使いを頼む。
自分を休ませようとしているのだと察したシフォンはすぐに礼を言って買いに走った。
(新人の時だけだろうけど、何だか嬉しいな♪)
扱いが酷いと不満たらたらのモカと真逆に、バドワイザ商会の普段の過酷さを良く耳にしていたシフォンは待遇の良さに尻尾がパタパタするほど上機嫌だった。
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