親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

文字の大きさ
上 下
47 / 128

47: ラートンはおこ。

しおりを挟む


「う"ぅ~……ぉ"ぇ、……けほけほ」

馬車が止まった途端に飛び出たモカが、大理石の艶めく裏口の隅でおえおえと苦しそうな声を出す。

幸いにして、兄姉にお洒落して追い付くのに精一杯で何も食べていなかった空っぽの胃は何も吐き出さず、ちょっと大理石にヨダレが落ちた程度であった。

夜明け前の新鮮な空気と冷たい大理石の感触が、モカの不調を少しずつ回復させていく様だった。

「全く、そんなコルセットのキツい服来てくるからだ…。茶会じゃないんだぞ。」

呆れた様な小声で言うバジルに、モカはムキー!と苛立ちを露にした。

「ちょっとぉ!心配の言葉の1つもかけれないの?!」

暗い邸の裏口にモカの声が響き、バジルとシフォンか慌てたようにシーー!と唇に人差し指を当てた。

「おい…!まだ伯爵様達や番様は眠ってらっしゃる時間なんだぞ…静かにしろよ…!
じゃ、シフォン。俺は父さんやグーマおじさんがいる侍従長の執務室に行くから、お前は入って左に進んでアナおばさんが待ってる侍女長室にモカと一緒に行ってくれ。左に進めば、灯りがついてるのは1部屋だけだから、おのずと判るだろう。」

「ハイ、判りました。静かに行きます。」

バジルの言葉にシフォンがコクコクと頷く。
その時、暗がりからサクサクと芝生を踏み締めてラートンが現れた。朝の鍛錬上がりらしく、全身が汗まみれで、より一層筋肉達磨ぶりを強調していた。

「バジル?おはよう。何のだい?」

一見優しい笑顔と口調なのに、バジルがヒィッ!と毛を逆立てて飛び上がり、蒼白の顔で呟いた。
その横でシフォンもただならぬ雰囲気を察してカチコチに緊張しているが、モカだけは甘ったるい声を出した。

「「若様…!」」「あ!ラートン様ァ♡」

「やぁ、おはよう。もしかして……僕の可愛い奥さんの侍女として働いてくれるのかな?」

(ぉゎぁぁぁ怒ってるぅぅぅ!う、五月蝿かったんだ…!)

バジルがダラダラと冷や汗を流し、シフォンは必死に目でバジルに指示を乞うた。

(ふむん……。何度も商会で働きたいって言いに来ただけあってシフォンは使えそうだな…。でも、何故モカがいるんだ?バジル)

等と思ってラートンがチラリとバジルを見たが、ァヮァヮと妹の空気読まない醜態をどう止めるかばかり考えている様子だったので、軽く嘆息してラートンは無視することにした。

(まぁ、使えるなら使うし、使えないなら帰って貰えば良いか。)

ぐっすり眠っているイオンウーウァがもしラートンのこの心の声を聞いたら、余りの淡々とした態度に驚いただろうが、本来ラートンは合理主義の淡白ハードワーカーでビジネスに情などを持ち込まないタイプだった。

まぁ、そうでなくては規模の割に上層部が少数で、しかも親戚家族で経営しているようなバドワイザ商会並びにバドワイザ領を治められないので、これは次期伯爵として当然の資質だったのだが。

「はい!モカ、がんばりまぁす!!」

そんなラートンの内に秘めた冷たさに気付かず、モカが甘えた声で言う。

「そ、よろしくね。朝から元気に働けるのは素晴らしいけど、僕の可愛い奥さんはマダマダお眠り中だから、静かにしてね…♡(意訳:僕の可愛い可愛い奥さんをこんな時間に起こしたら容赦しないぞ☆)
…バジル、汗を流す用意と、喫緊の書類を処理するからその用意をしてくれ。行くぞ。(意訳:遅刻だ早く仕事にかかれ!)」

「ハッ!」

バジルはシフォンに目で(さっさとソイツを連れてアナおばさんの所に行け!!)と促し、慌ててラートンの後ろを足音たてずに着いていった。




しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

政略結婚だと思っていたのに、将軍閣下は歌姫兼業王女を溺愛してきます

蓮恭
恋愛
――エリザベート王女の声は呪いの声。『白の王妃』が亡くなったのも、呪いの声を持つ王女を産んだから。あの嗄れた声を聞いたら最後、死んでしまう。ーー  母親である白の王妃ことコルネリアが亡くなった際、そんな風に言われて口を聞く事を禁じられたアルント王国の王女、エリザベートは口が聞けない人形姫と呼ばれている。  しかしエリザベートの声はただの掠れた声(ハスキーボイス)というだけで、呪いの声などでは無かった。  普段から城の別棟に軟禁状態のエリザベートは、時折城を抜け出して幼馴染であり乳兄妹のワルターが座長を務める旅芸人の一座で歌を歌い、銀髪の歌姫として人気を博していた。  そんな中、隣国の英雄でアルント王国の危機をも救ってくれた将軍アルフレートとエリザベートとの政略結婚の話が持ち上がる。  エリザベートを想う幼馴染乳兄妹のワルターをはじめ、妙に距離が近い謎多き美丈夫ガーラン、そして政略結婚の相手で無骨な武人アルフレート将軍など様々なタイプのイケメンが登場。  意地悪な継母王妃にその娘王女達も大概意地悪ですが、何故かエリザベートに悪意を持つ悪役令嬢軍人(?)のレネ様にも注目です。 ◆小説家になろうにも掲載中です

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり
恋愛
公爵令嬢アイリスは、悪い噂が立つ4歳年上のカイル王子との婚約が嫌で逃げ出し、森の奥の小さな山小屋でひっそりと一人暮らしを始めて1年が経っていた。 ある日、そこに見知らぬ男性が傷を追ってやってくる。 その男性は何かよっぽどのことがあったのか記憶を無くしていた… 帰るところもわからないその男性と、1人暮らしが寂しかったアイリスは、その山小屋で共同生活を始め、急速に2人の距離は近づいていく。 一方、幼い頃にアイリスと交わした結婚の約束を胸に抱えたまま、長い間出征に出ることになったカイル王子は、帰ったら結婚しようと思っていたのに、 戦争から戻って婚約の話が決まる直前に、そんな約束をすっかり忘れたアイリスが婚約を嫌がって逃げてしまったと知らされる。 しかし、王子には嫌われている原因となっている噂の誤解を解いて気持ちを伝えられない理由があった。 山小屋の彼とアイリスはどうなるのか… カイル王子はアイリスの誤解を解いて結婚できるのか… アイリスは、本当に心から好きだと思える人と結婚することができるのか… 『公爵令嬢』と『王子』が、それぞれ背負わされた宿命から抗い、幸せを勝ち取っていくサクセスラブストーリー。

処理中です...