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47: ラートンはおこ。
しおりを挟む「う"ぅ~……ぉ"ぇ、……けほけほ」
馬車が止まった途端に飛び出たモカが、大理石の艶めく裏口の隅でおえおえと苦しそうな声を出す。
幸いにして、兄姉にお洒落して追い付くのに精一杯で何も食べていなかった空っぽの胃は何も吐き出さず、ちょっと大理石にヨダレが落ちた程度であった。
夜明け前の新鮮な空気と冷たい大理石の感触が、モカの不調を少しずつ回復させていく様だった。
「全く、そんなコルセットのキツい服来てくるからだ…。茶会じゃないんだぞ。」
呆れた様な小声で言うバジルに、モカはムキー!と苛立ちを露にした。
「ちょっとぉ!心配の言葉の1つもかけれないの?!」
暗い邸の裏口にモカの声が響き、バジルとシフォンか慌てたようにシーー!と唇に人差し指を当てた。
「おい…!まだ伯爵様達や番様は眠ってらっしゃる時間なんだぞ…静かにしろよ…!
じゃ、シフォン。俺は父さんやグーマおじさんがいる侍従長の執務室に行くから、お前は入って左に進んでアナおばさんが待ってる侍女長室にモカと一緒に行ってくれ。左に進めば、灯りがついてるのは1部屋だけだから、おのずと判るだろう。」
「ハイ、判りました。静かに行きます。」
バジルの言葉にシフォンがコクコクと頷く。
その時、暗がりからサクサクと芝生を踏み締めてラートンが現れた。朝の鍛錬上がりらしく、全身が汗まみれで、より一層筋肉達磨ぶりを強調していた。
「バジル?おはよう。何の騒ぎだい?」
一見優しい笑顔と口調なのに、バジルがヒィッ!と毛を逆立てて飛び上がり、蒼白の顔で呟いた。
その横でシフォンもただならぬ雰囲気を察してカチコチに緊張しているが、モカだけは甘ったるい声を出した。
「「若様…!」」「あ!ラートン様ァ♡」
「やぁ、おはよう。もしかして……僕の可愛い奥さんの侍女として働いてくれるのかな?」
(ぉゎぁぁぁ怒ってるぅぅぅ!う、五月蝿かったんだ…!)
バジルがダラダラと冷や汗を流し、シフォンは必死に目でバジルに指示を乞うた。
(ふむん……。何度も商会で働きたいって言いに来ただけあってシフォンは使えそうだな…。でも、何故モカがいるんだ?バジル)
等と思ってラートンがチラリとバジルを見たが、ァヮァヮと妹の空気読まない醜態をどう止めるかばかり考えている様子だったので、軽く嘆息してラートンは無視することにした。
(まぁ、使えるなら使うし、使えないなら帰って貰えば良いか。)
ぐっすり眠っているイオンウーウァがもしラートンのこの心の声を聞いたら、余りの淡々とした態度に驚いただろうが、本来ラートンは合理主義の淡白ハードワーカーでビジネスに情などを持ち込まないタイプだった。
まぁ、そうでなくては規模の割に上層部が少数で、しかも親戚家族で経営しているようなバドワイザ商会並びにバドワイザ領を治められないので、これは次期伯爵として当然の資質だったのだが。
「はい!モカ、がんばりまぁす!!」
そんなラートンの内に秘めた冷たさに気付かず、モカが甘えた声で言う。
「そ、よろしくね。朝から元気に働けるのは素晴らしいけど、僕の可愛い奥さんはマダマダお眠り中だから、静かにしてね…♡(意訳:僕の可愛い可愛い奥さんをこんな時間に起こしたら容赦しないぞ☆)
…バジル、汗を流す用意と、喫緊の書類を処理するからその用意をしてくれ。行くぞ。(意訳:遅刻だ早く仕事にかかれ!)」
「ハッ!」
バジルはシフォンに目で(さっさとソイツを連れてアナおばさんの所に行け!!)と促し、慌ててラートンの後ろを足音たてずに着いていった。
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