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46: 地獄の出勤タイム。
しおりを挟む翌朝……とはまだ言えない様な夜明け前。
バタバタとバジルが書類を片手に廊下を進み、ゴンゴンとシフォンの部屋の扉を乱暴に書筒でノックする。
「シフォン!準備出来てるか??後十五分で出発するからな!!」
「ハイ!すぐに参ります!」
元気良く返事が帰ってきたことに安堵し、バジルは食堂へと降りた。
すぐ背後でガチャリと扉が開き、シフォンが出てきた気配がした。
既に準備は出来ていたのだろう。
(俺が忙しいのを察して、ドアを開ける迄待たさない様に大声で返事してくれたのか。気が利くな♪)
今後一緒に働く時間が長いであろう妹に、少し好感が持てたバジルだった。
食堂に着けば、暗い中、テーブルにこんもりとした影が見える。
バジルが灯りを灯し、こんもり山のカバーを外しているとシフォンがやって来た。
「こんな時間に料理人達を起こせないからな、朝飯は作ってくれてるだけ有り難く思え。魔法で温めるのもナシだ。有事に後ちょっと魔力があれば…なんて事にならないようにしろ。」
「ハイ!」
簡単に食べれる様にと薄いパンに色々な具を挟んだ特製ミニミニサンドイッチを手に取りながらバジルが言えば、シフォンが新人らしい元気な返事をする。
それを嬉しく思いながらバジルはミックスジュースを注いだ。
「よし、五分で食べるぞ。食べ過ぎると馬車でキツいから足りなければ持っていって馬車降りてから食べるんだ。」
「…ハイッ!」
バジルの言葉に、ジュースを受けとりながらシフォンが頷き、二人はパーティのフィンガーフードの様にサッと食べれる特製サンドイッチを次から次へと口に放り込んだ。
ーーーーー
ーーー
ー
「で、何でお前が来るんだ、モカ!」
バジルに苛苛と言われて、該当の少女はぷく~っと頬を膨らませる。
「だってぇ、お姉さまだけズルいんだもん!モカも行くぅ!モカも番様の侍女になるぅ!おめかしの支度なら、お姉さまよりモカのが絶対に上手だし、センスもいいもん♪」
(番様番様って言ってるけど、みすぼらしい人族のデブだって言うじゃない。しかもラートン様とまだ清い関係……。お側に居れば絶対モカのが可愛いし、絶対ラートン様は私の事を見初めてくれる筈だわ♡♡)
この女、かなりの危険思考の持ち主だった。
だが、身の回りのお世話の話になるとシフォンは真面目だが余り身に構う質ではなく、それが判ってるバジルも言い返せなかった。
「~~っくそ、時間がない!一人増えるならその分馬はのろくなる。取り敢えず行ってから考えるぞ!シフォン!乗れ!」
出勤にケツカッチンな時に年の近い兄弟でエスコートもへったくれもない。
バジルは我先にと馬車に乗り込み、シフォンも新兵かな?という勢いで乗り込む。
「チッ!」
すぐに馬車の扉をバジルが閉めようとしたが、それを見透かしていたモカは飛び込むように兄姉の膝の上に乗り込んだ。
2人乗っただけでぎゅうぎゅう詰めの馬車の中、モカの固いペチコートや風船袖がゴリゴリとシフォンやバジルの体に食い込んだ。
「やぁ~ん、狭い~~!!何でこんな狭いのー??」
速度を出すために、二頭立てにしてはかなり小振りに造られた馬車が、その軽量ボディを存分に活かしたスピードでガタガタとバドワイザ邸に向かう。
その中は、掴まる所がいまいち見つからずゴンゴンと馬車の屋根に頭をぶつけるモカと、そんなモカのドレスの色んなパーツが体のあちこちに食い込んでグリグリと苛まれるバジル&シフォンというちょっとした地獄絵図となっていた。
「くそ、バカモカ!何でそんなゴリゴリ膨らんだ服着て来たんだよ、イタタタタ……。」
「だって、可愛いんだもん。」
「私はラーテル…私はラーテル…全てに耐えれる屈強なラーテル……ブツブツ…。」
バジャーもアナもグーマも、バドワイザ邸から近い所に居を構えている。
しかし、バドワイザ邸の敷地自体がそもそも、門からエントランスまで馬車でトコトコ三分程掛けて辿り着く広さである。そして、侍従達の家がお隣という訳にもいかない。
よって猛スピードの馬車で十五分程の出勤時間を三人は阿鼻叫喚しながら駆け抜けたのだった。
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