親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

44: 今日も二人は。

「いただきま～す♪」

一頻りサーペントに乗り、満足したイオンウーウァとラートンは海路から港町へと戻り、さっと海水を温かいシャワーで流して着替え、海辺の屋台行脚へと繰り出していた。

イオンウーウァがガブリ！と特大フランクフルトにかぶり付き、豊かな肉汁と共に辺りにソーセージの食欲そそる匂いがふわりと漂った。

「美味しい！何だかプリッ！！としてるわ！」
「ヨシ！買って帰ろう！」

ラートンが即座に言い、バジルがこくりと頷いてサラサラと手帳にメモ書きをした。

「ラァト！見て！貝がパカッて！」「ヨシ！買ってみよう！」

ジュウジュウと音を立てて焼かれている貝に目を付けたイオンウーウァが指差せば即座にラートンが財布を出す。

「……はふっアチッ！「回復魔法！！」アチチ…ハフハフ……ア"ッ！「回復魔法！」

「ラァト！私この貝とこの貝とこの貝は好きだけど、これはあんまり…。」「よし、この貝以外を買って帰ろう！」

そうニッカリ笑って言うラートンの背後で、グーマがメモをサラサラと書く。

(でも、あの貝はラスカリー様がお好きだから、結局全部買っておこう。後で市場に…、と。)

「おお！見て！僕の可愛いウーァ♡あの綿菓子、カラフルだ！」

「きゃぁぁぁ♡♡」「待ってぇ！僕お財布を置いてっちゃダメだよー！」

(カラフル綿菓子導入を考える、とメモメモ……。)



「おお！見てごらん！可愛いウーァ♡♡海より蒼いクリームソーダだy「すいません！虹色ミルフィーユ下さい！！「ぇ、ソーダがここの名物「虹色！！」

(成る程、イオンウーウァ様は虹色がお好き、と……。)


「くじ引きだって！ラァト！くじ引きしてみたい！」
「ほいきた♪出でよ！財布ー！！」


「しゃてき？しゃてき？？ってなぁに？？」
「任せて可愛い僕の奥さん！どれでも好きなの取ったげよう！」「私も撃つーー！」


「だぁつ？投げるの？？……えい！！」「キャゥン！Why 奥さん！何故！？ウーァちゃん！真後ろに飛んだよ！？僕のデコに的中だよ！？？」


屋台を大体見て周り、イオンウーウァとラートンが満足した頃には、ぬいぐるみや浮き輪等の景品をラートンは山ほど抱え、イオンウーウァは沢山の菓子を抱えていた。

背後でバジルが買い物メモを握りしめて市場へと向かう。グーマは静かに書類を見比べ、アンズは少し前に買い物メモを持って市場へと向かって、まだ戻っては居なかった。


「ふぁー……楽しかった！………ふぁ…。」

興奮が少し落ち着き、イオンウーウァが海色のソーダを少し啜って溜め息を吐く。

「可愛い僕の奥さん♡ウーァさん♡少し疲れたんじゃない？」

「…………ぅーん。」

ラートンが優しく声を掛けるが、イオンウーウァはまるで出会った頃の様な無気力な顔でポソリと生返事を返すだけだった。
歩くスピードも段々ノロノロと遅くなる。

(可愛いなぁ、とっても眠い顔だ♡♡楽しくて無自覚だった疲労がどっと来たんだな…。)

港町の店巡りもしようかと思っていたが、ラートンはイオンウーウァの体力の限界を感じ、馬車に戻る事にした。

山の様な荷物を持ち直し、何とか開けた右手でそっとイオンウーウァの腰を抱いて誘導すれば、イオンウーウァは無表情の半眼のまま、ノロノロと導かれるままに歩き出した。

その顔はとても無愛想で憮然としているように見えたが、ラートンの目にはそんな姿さえとても愛らしく映っていた。

(表情筋が死んでる僕の奥さんも最高に可愛い♡♡♡)


顔が溶けるかと思うほどの蕩けた笑顔で無表情のイオンウーウァを馬車へと誘導するラートンを眺め、後ろでグーマもニマニマと嬉しそうに微笑むのであった。

(はぁ、ちょっとヤンチャで困るが、今日もうちの若様とイオンウーウァ様はラブラブだなぁ……ウンウン♪)