親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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42: 才能

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「はーーっはっはっはっはっ!!」「きゃほーーーぅ!!」

ザザザザザザ……ザバーーンッ!ザザザザザザ……



「あああ……若様…ヒェェッ!!また波が来ますぞっ!ッーー!!」

エルゲン湾の港町から少し南下した遠浅の海岸線、その少し深くなった辺りの沖合いで、ラートンとイオンウーウァがシーサーペントの第一大漁丸に引っ張られた小舟に乗って大はしゃぎしていた。

小さな小舟にラートンが足を固定し、第一大漁丸が曳く縄を持って波間を滑走する。その逞しい腕の中に閉じ込められたイオンウーウァは上質の布で作った海女服を着て、上機嫌で諸手をあげていた。
後ろで一つに束ねた深緑の長い髪が、宙で翻る度に沖の船で見守ってるグーマがヒェェ……と、か細い悲鳴をあげる。

「いやいや、耐熱耐寒その他諸々エグい位に二人とも防御魔法掛けてるし、大丈夫ですって。」

「そうそう、かなりの勢いで海面に叩きつけられても露程にも痛まないし、絶対に溺れない様な付与まで付いてますから。絶対に沈まないし。」

背後で執事見習い二人が呆れ顔でグーマに声を掛けるが、グーマはひょええ、だの、うへっ!だのと騒いで全く聞く様子は無かった。

「キャーーー☆」「ああっ!ウーーァーー!」

一際大きな波が来て、ラートンとイオンウーウァを乗せた小舟が筒状になった波の中を滑り抜ける。
が、引っ張っていた第一大漁丸が波に負けて宙に放り出され、まっ逆さまに海面へと落ちてしまったせいで抜け切れず、ラートンが高々とふっ飛び、イオンウーウァは綱を掴んだまま小舟と共にひっくり返った。

「あれ??今若様が吹っ飛んだのに番様は耐えなかったか??」

「やっぱりそう見えたか??多分、若様は番様を道連れにしないように自分から手を離して飛んでったけど、その前、番様が若様が体重移動ミスった所をミスらなかったように見えたぞ!」

「おおー!番様は騎獣のセンスがお有りのようだな♪」

執事見習いの二人の会話に、後ろで作業をしていたサーペントの世話係も参加してカラカラと笑う。
そんな中、グーマだけが静かだった。


「………グーマ様?」「あっ……白目剥いてる…。」


「あー……グーマの兄さんはさ、昔っから肝っ玉の小ささが仕事の綿密さとか情報収集や分析の細密さとかー…えっと?慎重な判断とか?何かそーゆーのんに活かされるタイプの有能マンだからよぉ……。
この辺に寝かせとくか……。」

白目を剥いて静かに気絶してるグーマに執事見習い二人が驚いていると、グーマと旧知の仲らしきサーペントの世話係がポリポリと頬を掻きながらフォローの様な事を呟き、そっとグーマを抱えて休憩用の寝椅子に横たえた。

「キャッホッホーー☆」

「ハハハ!ウーァ凄い!一人でも乗れてる!僕の奥さんは才能に溢れ過ぎじゃない??サイッコーー!!」

一方、そんなグーマの様子など知らないイオンウーウァは立ち直った第一大漁丸が曳く綱をしっかり握り、小舟で波間を凄い勢いで疾走し、ラートンは波間をちゃぷちゃぷ漂いながら番の勇姿に称賛を送っていた。

「たーのしーー!!」


「意外とアクティブだよな、番様。」「最初の頃が嘘みたいだな…。」

波間をポンポンと弾むように滑るイオンウーウァを眺めながら、執事見習いは感慨深げに言い合うのだった。






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