親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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40: ラートンの夜ルーティン

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「ラー様、明日は海に行くの?」

腹もそこそこ膨れ、コトリとカトラリーを置いてイオンウーウァが訊ねれば、ラートンがニコニコと頷いた。

「そうだよ!エルゲン湾のセントエルゲンていう港町に行かなきゃなんだ。だから、終わった後にシーサーペントに乗りに行かない?」

「シーサーペント??それって海の怪物で、勇者の行く手を阻んで海を荒らした山のように大きな背を持つ首長龍でしょ??危なくないの??」

イオンウーウァは父の書斎にあり何度も読んだ英雄譚を思い出して思わず前のめりになってラートンに聞き返した。

そんなイオンウーウァを見て、グズーリヤがウンウンと頷く。

「あー…それは古代イスカル帝国の勇者カンダルの物語かな?イオンウーウァちゃん、中々渋いお話を知ってるねぇ…♪」

「へぇ、今度読んでみようかな!イオンウーウァが読んだ物語だなんて、僕も読みたいな♡
でも、シーサーペントはそんな怖いもんじゃなくて、レッサーシーサーペントっていう小さめのサーペント属を品種改良した牽獣達でね、ちょっとぬるっとしてるけど、大人しーい子達だよ♪」

「そーなのね!乗りたいわ!」

ラートンの言葉にキラキラと瞳を輝かすイオンウーウァだったが、背後でグーマはげんなりとした顔をしたのだった。




「ハァ、……明日も波乱の1日になりそうだ……。」

「……海だけに?フプッ」「「うるさいよ、兄さん」」






ーーーーーー
ーーー



ハァ…………くっ……ーーーーっ!!……はぁ~~…。



ハァハァと荒い息が室内に響く。
ラートンは苦悶の表情で起き上がると、長い長い満足の溜め息を漏らした。

楽しく美味しい食事が終わり、日課の筋トレに励んでいたラートンが、最後の一回を終えたのだ。

「ラー様、良く頑張りました…♪」

イオンウーウァが誉め言葉と共に冷えた牛乳を差し出せば、ラートンが嬉しそうに飲み干してニカッと笑う。

「んく、んく、んくっ……ぷはぁ~~!毎日ありがとう!僕の可愛いイオンウーウァ♡僕の奥さん♡♡ふぃ~…イオンウーウァが手伝ってくれるから、今日も自己ベスト更新出来たよ!流石僕の奥さんだね!」

滝の様な汗を流しながら言うラートンに、イオンウーウァがタオルを差し出せば、嬉しそうにラートンがタオルに顔を突っ込んだ。

(あ、そうでは無かったんだけど……ま、いいか。)

渡すつもりだったんだけどな、と思いながらもイオンウーウァは優しくラートン耳の後ろを拭いてやり、その豊かな金髪に汗が伝って落ちていく様を眺めた。
ふわり、と蜂蜜とオレンジを混ぜたような汗の匂いが漂う。

人族のイオンウーウァには、獣人と違って番の匂いだとかフェロモンを感知する事が出来ない。
だからイオンウーウァは、ラートンの汗の匂いを嗅ぐのが少し好きだった。

(何だか、ラー様のフェロモンだとか云うのを感知出来てる気がするのよね……。)

実際、ラートンのフェロモンは部屋に充満し、筋トレの重し代わりに抱っこやおんぶされてしっとりラートンの汗にまみれたイオンウーウァにもラートンのフェロモンが染み着いていた。

だが、そんな事を一切感知出来ないイオンウーウァは露知らず、獣人達なら鼻を摘まんで顔をしかめる匂いにイオンウーウァはそっと浪漫を感じるのだった。




「さぁさ、若様、イオンウーウァ様。トレーニングが終わりましたらお風呂になさいましょう。さ、今日もしっかり磨いてあげますからね~。」

(その汗臭さをしーーっかりとね!!)

そんな浪漫を感じてるイオンウーウァと、イオンウーウァにフェロモンをたっぷり着けて悦に入ってるラートンを追い立てるようにして風呂に誘導すると、アナは窓を全開にしてしっかり換気をするのだった。


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