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39: 何でもない夕食。
しおりを挟む「イオンウーウァ、これとっても美味しいよ♪ほら、食べてごらん?」
「イオンウーウァちゃん、これ、私が好きなチーズよ、食べてみて♪」
「イオンウーウァちゃん、今日も韋駄天丸で街道をブイブイ言わせて来たんだって?ラートン、明日はどこ行くんだい?」
バドワイザ家の食卓は賑やかだ。
グズーリヤもラスカリーもラートンもパカパカとワインを飲んでパクパクとチーズや肉や野菜の炒めものを食べていく。
それでいて合間にペラペラと喋るから、いつもイオンウーウァはあっぷあっぷしていた。
(今、食べてるから返事が出来ない…!美味しい!!ラー様美味しい!!)
「美味しい?良かった♡父上、明日はエルゲン湾に行こうと思ってます。」
「あ、慌てなくて良いからね♪イオンウーウァちゃん」
どんどん会話が進み、どんどん料理も消えていく。
イオンウーウァは美味しい食事をしっかり味わいながら会話に必死に追い付こうとし、何か訊かれる度にコクコクプルプルと首を動かした。
((番様…大分食事がしっかり取れるようになってきたな…。それにもっと食べたい、あれが食べたい、という欲が素直に出せる様になってきた……。))
グーマ、アナ、バジャーの三人と使用人達がチラチラとイオンウーウァの様子を窺い、そんな事を考えてニコニコしてるとも知らず、イオンウーウァは凄い勢いでスリムになっていく鳥の丸焼きを凝視していた。
(美味しそう……あれ、食べたい。)
今食べてるのを食べきったらアレを食べたいって言おう、そう思っているのだが、目の前でどんどんラートンによって削られていく鳥の丸焼きに、イオンウーウァの瞳に焦りの色滲む。
「……ハッハッハ、なら、次は銅45で手を打つって伝えておくよ、父上。」
「ああ、そうしなさい。流石に向こうも己の立場ってモノを理解するだろう……。」
「フフフ…所でそろそろ婚約式の衣裳を誰に頼むか決めておきなさいよ。出ないと喧嘩してうるさい事になるわよ~?」
「それなんだけど……」
ラートンは父母と和やかに語り、どんどん鳥の丸焼きを切り取っていく。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……。
イオンウーウァは鳥の丸焼きを凝視しながら必死に咀嚼を繰り返した。
「はい、僕の可愛いイオンウーウァ♡沢山食べてね~♡」
ドン!と目の前に鳥の丸焼きを切り取った山が表れ、イオンウーウァは驚きで目を丸くした。
どうやら、ラートンはイオンウーウァの為に丸焼きを切っていたらしい。
「…………ラートン?……粉雪みたいなカンナキ鳥の細片をどーもね…?」
差し出した皿に切った際に出たクズの様な細片を乗せられ、グズーリヤがジト目でラートンに礼を言うが、ラートンは気にせず言い放った。
「いいえ、父上いつも細かく切ってって言うから。」
「……細かくって、みじん切り以下のクズじゃん、これ……うう、ラスカリー…ラートンが苛めるよ…!」
シクシクとおどけた口調で嘆くグズーリヤに、ラートンもイオンウーウァもクスリと思わず笑う。
ラスカリーも少し口許を震わせながらがさっと丸焼きを一つ手元に寄せると、ナイフを入れながら言った。
「ハイハイ、もう一つカンナキ鳥あるんだからそっちを食べれば良いでしょ、グーズ、ほら、私が切ってあげるから♪」
「わぁい!嬉しいな!ラスカリー様様様!私にモモ肉下さい!」
嬉しそうにラスカリーに言うグズーリヤを尻目に、ラートンが蕩けた顔でイオンウーウァに再度鳥肉を薦めた。
「食べたいな~って顔してたでしょ♡はい、あーん♡♡♡」
「…っあーーん♪」「ハイ、ほら邪魔しないで。」
嬉しそうにラートンに向かって口を開けるグズーリヤに、ラスカリーが容赦なく骨付きのモモ肉を突っ込む。
それに少しだけ笑って、イオンウーウァはそっとラートンに向かって口を開けた。
「あーーん」
ラートンがイオンウーウァの口に合わせて切ってくれた鳥肉は、何だか、とてもジューシーで甘い気がした。
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