親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

31: 餌付けされたバドワイザ商会の二大アイドル

「ねぇねぇ、おかぁさん！どうして豹紋リザードランナーの鱗はあんなにピカピカなの？？」

こっそりポケットにチーズの欠片を忍ばせて、実は鼻の良いラートンや獣人達が(ポケット、チーズ臭いなぁ……)なんてイオンウーウァの腰元を気にしてるなど露知らず、韋駄天丸の元へ急ぐイオンウーウァの耳に、子供の声が飛び込んできた。

「テリー、それはね……。」

続くおかぁさんらしき女性の声に思わずイオンウーウァも足を止めて耳を澄ませた。

「同じボールでも、軽く当たるのと強く当たるのとでは当たった時に痛さが全然違うでしょう？？
それと同じで、早く走れば走るほど、跳ね返った小石や小枝、木の枝に当たったり、飛んで来た虫なんかが当たった時にとても強い衝撃を受けるの。その為、リザードランナーは速ければ速いほど鱗の表面を魔力で何層にも強く硬くコーティングしてツルツルで、当たったモノを弾く力が強いの。それでね、豹紋リザードランナーはリザードランナーの中でも砂嵐の多い地域に生息しているせいで他の種より気性が荒く、鱗の透明コーティングが分厚く、この透明コーティングが分厚い理由は、その派手な体色と共に砂嵐の中でも識別しやすい様に進化したと考えられていて、あ、でも、あの派手な色が逆に保護色になるという説もあって。ここは学会でも議論が別れてるんだけど、今のところ、少しの光でもピカピカ反射して仲間に存在を教えていると考えられているのよ？そんなキラキラピカピカの豹紋リザードランナーがバドワイザ商会の専用牧場でとても大切に世話をされてるものだから、只でさえピカピカと蛍光ピンクとイエローの光を振り撒くボディが更に更にキラキラピカピカになっちゃって、三秒以上見詰めると高確率で目に光が突き刺さるのよ。(超早口)
……テリーにも判りやすいように説明するとこんな感じなんだけど、判ったかしら？」

イオンウーウァは半分位判らなかった。
テリーくんが目が点になりつつおかぁさんに微笑む。

「ぅ、うん。おかぁさんが豹紋リザードランナーが大好きって事が良く判ったよ…。」

「あ、おかぁさんは豹紋リザードランナーが好きなのではなくて実はリザー「もういい、もういいよおかぁさん！」

慌てておかぁさんの口を塞ぐテリーくんを、微笑ましく眺めていたイオンウーウァに、岩場から焦れた韋駄天丸のオネダリ鳴きが飛ぶ。

けこけこけこ……キューイ！(ツガイ！オヤツ！ナニシテル？？キテヨー！)

ぎょるぎょるぎょるーー♪(タッダイマーナノダ♪オ♡オヤツハケーン☆)

と、そこにサッと舞い降りてきた一頭のグリフィンが、ラートンとイオンウーウァの周囲をグルグル回り、ひょいぱくぱくとイオンウーウァのポケットに嘴を突っ込んでチーズを食べた。

ゲッキョーーーー！！？(ウソ、オヤツーー！？)

「おや、明けの明星丸じゃないか。と云うことは、荷卸しが終わったんだな。お疲れ様、明けの明星丸。」

ぎょるぎょるぎょる……どるるるるるん♡

トントンとラートンが尻尾の付け根を労るように叩き、明けの明星丸と呼ばれたグリフィンが嬉しそうに腰を高く上げ、甘えた声で鳴いて喉を鳴らす。

「ふふふ、明けの明星丸お疲れさ……」

嬉しそうにたてがみ交じりの首の羽根を震わせる明けの明星丸を撫でようとイオンウーウァが手を伸ばした瞬間、その手の下にショッキングピンクと蛍光イエローの閃光が潜り込んだ。

きゅけぇきゅけぇぇぇぇ……！(ツガイ！オレノオヤツーー！)

韋駄天丸が名前に恥じない猛スピードで岩場から抜け出してイオンウーウァの元へ駆けつけたのだ。

「あらあら、韋駄天丸てば甘えん坊さんね♪」

そう言って嬉しそうにポケットから明けの明星丸の嘴から逃れた貴重なチーズを出してイオンウーウァが差し出せば、韋駄天丸はその特有の金の瞳をしぱしぱ瞬かせて喜んだ。

けこけこけこ…キュイキュィ♡けっけこけーー♪♪(ミョーニクサッタミルク！ウマイ！！)

ぎょるるるる……♡(オレモナデテオレモナデテ♡)

「うわぁ！ボクの一推し！！明けの明星丸だ！四足全部獅子タイプのグリフィンの中で一番怪力で飛行スピードと距離どちらも一番の明けの明星丸だ！！やったぁ！ボクの今日のお目当て！こんなに近くで見れるなんて！！」

「テリーは本当にグリフィンが好きね…。おかぁさんはやっぱりリザードランナーのあの……」

どうやらグリフィン好きらしいテリーくんが跳び跳ねて喜び、おかぁさんがニコニコしながら横で一人語り出したのを見ながら、イオンウーウァはふと母親の事を思い出していた。

(そう言えば私もママに…、伝令で街道を偶に駆け抜けていく馬が好きで良く街道まで連れて行って貰ったっけ……。)