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27: 不機嫌なマリローズ

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「ねぇ、聞いた??バドワイザ小伯爵も運命の番と出逢ったって話!」

「勿論よぉ!見てコレ!自慢したくて持ってきちゃった♡」

「アーー!噂のスノードーム!!良いな良いな!嘘ぉ、貴方あの日城下街に行ってたの??」

「「見せて見せて~!わぁぁ綺麗ねー♡」」

「偶々あの日、遊びに来る親戚の為の準備でお父様がお茶菓子を買いに行ってたの!」

王都の城下街の隣、貴族向け繁華街のカフェで休憩していたマリローズは、聞こえてきた会話に人目も憚らず不機嫌を露にした。

(なによ、ムカつく。ちょっと前までは皆マリローズの事で持ち切りだったのに。)

リュート・セイロン侯爵家嫡男と運命の番マリローズの噂で持ち切りだったのはほんの少しの間だった。

本当はもう少し長い期間噂の的だったのだが、貢ぎ物を贈られ、後からやって来たリュート・セイロンに恭しく跪かれプロポーズされたのは辺境のスモモ村であったし、そのプロポーズを受けてセイロン領に向かった頃にはラートンはバドワイザ領でとっくにイオンウーウァとイチャイチャしていた。

そのせいでマリローズが自分の噂を楽しそうに囁きあってる獣人を見るのは、限られた期間だったのである。

これが他の人だったらマリローズはこんなにも苛立たなかったかもしれない。
マリローズは昔からイオンウーウァが嫌いだった。

スモモ村の狭い空間の中で、村長の娘というのはお姫様に等しかった。
そんな中で、マリローズと父である村長に唯一頭を下げなかったのがイオンウーウァの両親達だった。
そして、そんな両親達に可愛がられ育ったイオンウーウァもマリローズに媚び諛ったりせず、まるでお姫様がスモモ村に二人いるようだとマリローズは思っていた。

そして、マリローズはどうしてもそれが許せなかった。
だから、イオンウーウァが一人になって以来、何度も絡み、不用品を施し、這いつくばらせて礼を言わせ、何度も何度も、自分こそがスモモ村唯一のお姫様だと思い知らせてきたのだ。

そのイオンウーウァに、注目の的から引き摺り降ろされた。

それはマリローズを非常に苛立たせた。

「本当に綺麗ねー!……これ、無料で百人の通行人に配ったんでしょ?……はぁぁ♡凄いわよねぇ……」

(何よソレ……。りゅぅさまはそんなコトしてくれたコト無い……。ううん、そんなのする位ならアタシにもっと色んなもの買って欲しい!羨ましくなんか無いわ…!)

マリローズは不機嫌も露に、目の前のクッキーを鷲掴み、ボリボリと噛み砕く。

「マリローズ様、その様に沢山のクッキーを頬張られてはお行儀が悪いですよ。」

途端に、侍女兼護衛の龍人が眉を寄せて冷ややかな声で注意してくる。
その冷たい声には明らかな侮蔑が込められており、マリローズは更に苛立ちを募らせた。

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