親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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20: とある噂の発信地では…。(モブ回)

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「ねぇ、聞いた??バドワイザ小伯爵が遊歩道の所で、疲れた番の足を揉んで回復魔法を掛けてたんですって!!」


城下街でも人気のティーサロン、カフェ・ド・フルールでお茶を飲んでいた狐獣人のテレサは、スノードームを抱えて戻ってきた同じ狐獣人のマリーの言葉にピンと耳を立てて驚いた。

「回復魔法?!」

同じ狐獣人で、隣に座ってケーキ食べていたアリアが同じく耳を立てて驚く。その横、栗鼠の様にタルトを頬張った頬をモゴモゴさせているマリサの耳も立ち、目も真ん丸だ。

彼女達は仲良し四人組、揃いも揃って狐獣人の男爵令嬢だ。
良く来るこのカフェの店員や、他の店の従業員達から"子狐カルテット"と呼ばれているが、本人達は知らない。

「良かった!マリーもスノードーム貰えたのね♪」

今日は皆でいつもの様にお買い物とお散歩をしに城下街へと来たのだが、マリーだけ家の事情で遅刻したのだ。

遅れてきたマリーは、皆が貰ったスノードームを見て、慌てて自分も貰いに行ったのだった。

「危なかったの……ラスト5個だったわ……。私95番目だったのね……。」

スノードームを撫で回しながら席に着くマリーに、テレサが紅茶を淹れてやり、マリサが頼んでおいたマリーのケーキをそっとマリーの前に置く。

「ありがとう…。それでね、回復魔法の話なんだけど……。」

マリーは並んでいた時に聞いた、通りすがりの貴婦人や紳士達の会話をペチャクチャとそれはもう詳細に語った。
身振り手振りも交えた彼女の熱弁はまるで、本当に紳士や貴婦人が喋っている様で、カフェに居る他の客まで、テレサやアリア、マリサと同じく真剣に耳を傾けた。

「あ、また子狐カルテット劇場始まってますよ…。」

「今日はマリーちゃんか…相変わらず人を惹き付ける演技力だなぁ…。」

「しーー!バドワイザ小伯爵の最新情報だぞ!」

四人とも噂話に花を咲かせているだけなのだが、それぞれ演技力や、声、仕草など、人を惹き付ける語りで、しかも割とホットニュースを語るので、いまや店や常連客の楽しみの一つとなっていた。

「………って事でね、回復魔法を掛けたけど、それは小伯爵様の番に対する愛故にって事だったのよ!」

そうマリーが締め括れば、三人がほぅ♡と溜め息を点いてうっとり紅茶を飲む。

「いいなぁ…♡運命の番かぁ…。」「ねぇねぇ、もし運命の番がいたら、どんな人だとおもう??」「えーー??えっとぉ~~♡」「やだぁ♡そんな卑猥~♡」「「「えっっ卑猥??」」」「え?」「ちょっと待って。一体どんな人を今想像したの??」「馬鹿ね、マリーあんた、絶対今裸で想像したでしょ~。」「卑猥よ卑猥!マリーの頭の中が一番卑猥ー!キャハハ!」

きゃいきゃいと盛り上がる子狐令嬢達と、それをほっこり眺める店員と客。

「ねぇ!私も入れて頂戴!取って置きがあるのよ♪」

ほっこりムードをぶち壊し、店の入口からではなく、彼女達が座ってるテラス席に店外から直接、観葉植物の間をすり抜けてズカズカと侵入する者が居た。

「ルイーザ!」

テレサの焦った様な声に、真っ赤な縦ロールに葉っぱを沢山着けたままフフンと胸を張った樽ボディの女、彼女はテレサの年子の姉だった。

「ムフフン♪聞いてよっ!もう、私見ちゃったんだから♪♪」

子狐令嬢達がドン引きするも構わず、ルイーザはガガガッ!と隣のテーブルから椅子を引っ張ってきてテレサの横に座り、当然の様にぶすりバクリとテレサの食べかけケーキにフォークを突き刺して一口で平らげ、テレサの紅茶をごきゅごきゅ飲み干した。

「……っぷはぁ~~♡美味しい♪ここのカフェ、いっつも満席だから入ったコト無かったのよねぇ♪あんた、良いところでお茶してたわ♡」

妹のモノは姉のモノ。お姉ちゃんは妹より絶対偉い。ルイーザはそういうタイプの、ある意味姉らしい姉だった。

「やめてよね、恥ずかしいじゃない……。」

友人や周囲に謝りながら姉の分の紅茶とケーキを頼むテレサを、周囲が同情の目で見ながら対応する。

そんな周りの空気などお構い無しにルイーザはふんぞり返って真っ赤な縦ロールを後ろに払って言った。

「ふーんだ!何よ、気取って。ま、いいわ♪そんなぶりっ子ぶっ飛ぶ位のビッグニュースなんだから。聞いて驚け~♪」

「お姉ちゃん、勿体振ってないで早く教えて♪」

そんなルイーザにソワソワしながらテレサが先を促す。

何だかんだで仲は悪くない姉妹だった。


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