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19: 噂は拡がるよ、何処までも。
しおりを挟む「ラー様、やっぱり私、疲れてるかも…。座ったら途端に……。回復魔法かけて欲しいな。」
「勿論!喜んで♡僕の可愛い奥さんの為なら千回でも一万回でも回復魔法を掛けてあげるから、疲れたら直ぐに言ってね♡♡」
(奥さんがおねだり♡♡僕におねだりしたぁ♡♡可愛いな♡幸せだな♡♡)
遠慮がちに、だが、叶えて貰えると信じて疑わない菫の瞳で見つめて頼むイオンウーウァに、ラートンはふさふさの尻尾を高速反復させて喜んだ。
その大きな掌からじわりと回復魔法がイオンウーウァの体に染み込んでいく。
「……わぁ、本当に疲れたの消えてく♪不思議ね、魔法って。ありがとう!ラー様。」
おもむろに立ち上がると嬉しそうにぴょんぴょんして足の疲れ具合を確かめるイオンウーウァとそれを嬉しそうに見守るラートン。
だが、微笑ましく様子を見ていた周囲は二人のやり取りに俄に騒然としていく。
実は、獣人達にとって、回復魔法を掛けて動き回るのはかなり手荒い行為という認識であった。
とても厳しいと噂の騎士団や軍で鬼隊長や鬼軍曹が新兵に回復魔法をかけながらオーバーワークさせて短期間で体を作ったりし、それが戦々恐々と語り継がれる。
回復魔法を使って更に動き回るという発想は血も涙もない鬼の様な合理主義で実力主義の者が行う行為だった。
更に、貴族達のデート等のマナーとして、令嬢が疲れたら直ぐに帰るのが、というより、疲れる前に帰るのが常識である。
折角遠出しても、遥々田舎から王都に来て直ぐだとしても、令嬢が疲れていたらすぐ帰る。もしくは宿泊する。
愛しい人の為ならいつでも、何度でも、何日でも来よう…と交通や滞在にかかる費用などを気にしないのが貴族としてスマートで良いとされていた。
元々獣人は男女共に体力が人族よりあるせいか、そうやって令嬢の体力の無さを深窓の令嬢アピールに使ったり、か弱さに庇護欲をそそられたりして出来た文化だ。
それが、今目の前で溺愛蕩けた名門貴族嫡男が愛しの運命の番に回復魔法をかけて更に動き回ろうとしているのだ。
その行動は衝撃的で、人々は二人に釘付けになった。
そんな中、ラートンとイオンウーウァは機嫌良く歩き出す。
「ラー様!私何だかお腹減っちゃったわ!それに喉も乾いちゃった!」
「じゃぁ、何処かカフェに行こう!僕の可愛い奥さん♡♡何食べたい?生クリームいっぱいかい??それともフルーツ沢山かい??お砂糖みたいな焼き菓子かい??」
大分素直に、そして滑らかに自分の思いを伝えられる様になったイオンウーウァを喜ばしく思いながら、まだお菓子の名前を覚えれていないイオンウーウァの為にラートンがざっくり食べたい物を訊く。
「あの!しょっぱくて煙の匂いのお肉!」
「おや、僕の可愛い奥さん意外と腹ペコだったね♡じゃぁ、少し早いけどレストランに行こうかな♪ブランチにガツンとしたグリル肉が食べれるトコ……んーー……」
そんな二人を見守りながら周囲の紳士淑女達は、この時間に肉???と驚く。
平民の肉体労働者が集まる区域ならいざ知らず、この城下街では難しいだろう。だが、常識的ではない、だとか、店がないから違うモノにしよう、だとか言わずに最大限イオンウーウァの願いを叶えようと頭を悩ませるラートンの姿は正に番フィーバーと言うに相応しい溺愛っぷりで……。
令嬢に回復魔法を掛けて動き回らせるなんて、運命の番!と溺愛しているのは演技で実は隠れてひどい扱いをしているのでは?!と色めきたった者達も、「でも、回復魔法を掛けてと頼んだのは令嬢の方からだしな…。」と思い直す。
「良く見れば、回復魔法を掛けて貰ってとても嬉しそうだ……。」
「そういえば彼女は人族の、我が国とは全く隣接していない隣の隣の国から来た外国人。我々の常識と違う行動をするのは当たり前よね…。」
「寧ろ、己の悪評が立つ事など気にせず番の願いを叶えようとするバドワイザ小伯爵は本当に番を大事にしてるのね…。はぁ……ロマンスだわ♡」
「良いわねぇ……♡私も運命の番に出会って、あんな風に身も心も捧げる様な感情に支配されてみたい♡♡」
「人族が運命の番でも、噂に聞くような悪いコトばかりじゃないんだな♡いいな、羨ましい…♡」
「気付いた?尻尾も耳も無いから判りにくいけど、あの令嬢の綺麗な菫の瞳、小伯爵様を見る時本当に嬉しそうに煌めくの♪……控えめだけど、本当に幸せそうな表情…。ちゃんとお二人は想い合ってるのね…。あれが運命の番なのね…♡」
人々が口々に噂する。
実はそれまで龍人のリュート・セイロン侯爵嫡男と運命の番マリローズの話題が王都一のホットニュースだったのだが、二人が購入した店、突如現れたスノードームがタダで貰える不思議な行列、遊歩道など、城下街の東端からオセロの様に話題が塗り替えられてゆき、あっという間にラートンとイオンウーウァの話は地方にまで広がっていった。
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