親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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16: アナグマの歓迎と歓迎を歓迎しない人。

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「初めまして、番さん。私はラートンの父、グズーリヤ・バドワイザだよ。私の奥さんはもう名乗ったのかな?まだ?…此方は私の妻でラートンの母、ラスカリー・バドワイザだよ…。宜しくね♪可愛い息子の番さん。」

そう言って笑うバドワイザ伯爵は、優しそうな垂れ目と少し丸みを帯びた鼻先がラートンにそっくりの小柄な男性だった。

(ラー様にそっくりだわ……)

なんて思ったイオンウーウァがニッコリ微笑めば、背後でラートンの耳が一瞬警戒の動きを見せたが、誰一人それに気付くものはいなかった。

「人族で獣人の国に単身嫁いで来るんだ、判らない事ばっかり、戸惑う事ばっかりだと思うが、どうか困った事があれば遠慮なく頼っておくれ「僕の奥さんだよ!僕を頼って貰うんだよ!ね、可愛い番さん♡♡」…そ、それにしても、芳しい森の薫りがするお嬢「嗅ぐな!」nだね…ラートンが夢中になるのも判るなa「判るな!寄るな!」なんて…ハハハ…い、痛い!ギャン!ギャォオン!」

笑顔で近づいた伯爵に、イオンウーウァの背後でラートンが牙を剥いて唸り、全身の毛を逆立てて威嚇する。

合いの手でも入れるかの様に自身の言葉を遮るラートンにもめげず、当主としての歓迎の意を表するグズーリヤだったが、イオンウーウァに近付き、鼻を寄せようとした途端、ラートンにボカリと頭を叩かれ髪を引っ張られ、悲鳴をあげた。

「ちょっとラートン!当主として歓迎の鼻寄せとグルーミングをしなきゃだろ!?」

「ウゥウゥウウウ…!!僕の奥さんだ!触るな!取るな!父上でも許さないぞ!グルーミングするな!当主が受入れの儀式をしなきゃいけないなら、僕が当主になったら良いんだ!今すぐ譲れぇぇぇ!!ギャゥゥゥ!!」

「やだ!何する…ギャン!ギャイン!痛ぁい!ギャォオン!奥さん!私の奥さん!助け…キャォォン!キャォォォ!!」

当主として必要だからと怒るグズーリヤに、イオンウーウァにグルーミングをすると聞いて怒り狂ったラートンが飛び掛かり、とうとう二人はベッド横で床を転げ回る大乱闘を始めた。
だが、中型獣人らしい小柄なグズーリヤと長身筋肉達磨のラートンでは勝敗は明らかで、直ぐにグズーリヤが悲鳴を上げ、愛しのラスカリーに助けを求める。

「伯爵夫人として、貴方を歓迎します♡…チュッ♡宜しくね♪」

だが、そんなグズーリヤを尻目に、ラスカリーはさっとイオンウーウァに近付くとコツリと鼻と額をくっ付け、頬をペロリと舐め、反対の頬に口付けた。

「アーー!!僕の奥さんを舐めた!!母上!何するの!」

「ホホホ、御馳走様♡さ、貴方?当主代理として私が歓迎の鼻寄せとグルーミングをしましたからもう行きましょ♪」

ブンブンと長く筋骨隆々とした腕を振り回して怒るラートンをヒョイヒョイと避けながらラスカリーは笑い、満足気にそういうとグズーリヤに退室を促した。

「隙あり!やだよ!私が当主なんだから!歓迎するよ、番さん!」

だが、グズーリヤはキラリと紺碧の瞳を煌めかせると、さっとイオンウーウァに近付いて額と鼻を合わし、頬を舐め、慌てて戻ってきたラートンをニュルリと避けると急いでラスカリーの陰に逃げ込んだ。

「ええい!去れ!去れ!!」

ホホホホあんなに夢中になって…ハハハハハハ……♪私を囮にしたよね…?

ガウガウと怒るラートンを伯爵夫妻はニマニマと笑いながら揶揄い、イオンウーウァに手を振りながら退室した。

ふぅ……と深く息を吐いてラートンが気を落ち着かせると、イオンウーウァはベッドから降りてそっとその尻尾を撫でた。

「ラー様、尻尾が凄いの…♡」

ブラシの様にパンパンに膨らんだ尻尾に感動したイオンウーウァが撫でれば、それは水に触れた綿菓子の様に萎んでいく。
それもまた興味深くて、イオンウーウァはラートンの毛と言う毛を撫でさすって整えた。

「雨に当たると葉を閉じる絹華の木みたいだわ…。」

ちゅるり、ちゅるりと掌で尻尾を撫で付けるイオンウーウァが嬉しそうに呟くと、ラートンが心地好さに蕩けながら今日のデート先を提案した。

「絹華かぁ、良い匂いだよねぇ…。僕の可愛い奥さん♡今日は王都にお買い物デート♡♡しに行かないかい?リザードランナーは見たことある?今丁度遠征していたリザードランナー達の疲れが取れた頃だからリザードランナーに乗って行こうよ♪速いよ~♡♡」

馬より速い大蜥蜴に乗ろうと誘われ、イオンウーウァは菫の瞳をキラキラさせて頷いた。


「よぉし!いざ行かん!素敵なモノとお菓子で溢れてる魅惑の都、ガウーガへ!!」









ラートンがイオンウーウァの肩を抱いて芝居がかった口調で言い、それをちぱちぱ手を叩いて喜ぶイオンウーウァ。

そんな二人を生温かく見守りながらお出掛け準備をするメイド達は、まるで砂糖の海で溺れる気分だ、と囁きあった。



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