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14: 幸せな朝
しおりを挟む夜明けより少し前、パタパタと急いで此方へやってくる足音にバジャーが入ったばかりの執務室から顔を出せば、先触れがやって来たとの事だった。
「若様に運命の番が現れたと聞き、旦那様と奥様方が戻って来られました。」
聞けば、ラートンの父母、グズーリヤ・バドワイザ伯爵とラスカリー・バドワイザ伯爵夫人が各商会の抜き打ちチェックという名の諸国漫遊から戻られたという。
バジャーの指示の下、使用人やメイド達が音を立てずに慌ただしく準備に奔走しだした。
そんな中、グーマがうろうろと彷徨い、使用人やメイド達に声を書けていた。
「誰か、若様見なかったか?」
行き交う使用人やメイド達が首を振り、練武場では、とか執務室にはいらっしゃいませんでしたか?などと口々に推理しては去っていく。
「起こそうと思ったら部屋にいらっしゃらなかったんだよ…。参ったな…。旦那様が帰られるというのに…。」
「若様の事だ、先触れに気付いて先に済ませておきたい仕事をもう始められてるのでは??」
「……うーーん。だとしたら何処に行かれたのか…。離れか?それとも…ふぅむ……。」
「お見かけしたら、グーマ様が探していたとお伝えしますね♪」
「ああ、頼むよ。」
グーマと使用人のそんなやり取りを聞きながら横を通ったメイドは、「私も、お見かけしたらグーマ様がお探ししてたとお伝えしておきますね♪」と軽く会釈して、イオンウーウァを起こす為にいそいそと廊下を急いだ。
いつもより早起きだが、何て言ったら素直に起きてくれるだろうか?
旦那様と奥様に会うだろうから、少しおめかししないと…。
ドレスは何にしよう?髪飾りは……。
まるで幼子の世話でもするかの様にそんな事を考えて入室したメイドは、寝ているであろうイオンウーウァに声を掛けようとして腰を抜かさんばかりに驚愕した。
弾けるような筋肉とふさふさの胸毛に腕毛、腹毛……。
夜閉めた筈のカーテンが中途半端に開き、そこから差し込む登ったばかりの朝日にふさふさとパツパツを黄金色に煌めかせて、ラートンが寝ていたのだ。
「…………!!!?」
幸せそうなラートンの寝顔とその腕に抱かれふさふさの胸毛に顔を埋めて眠るイオンウーウァの姿に、congratulation♪だとか、まぁ、お似合いだわ♪とか、でもどうしよう、グーマ様やアナ様が怒る!だとか、そもそも起こすべき??部屋を出るべき??だとか考えてアワアワするメイドに、同じくイオンウーウァの起床を手伝おうと入ってきたアナが気付き、ベッドの様子を見て同じく驚愕した。
「まっ…………だのようね…。」
驚きつつもクンと一嗅ぎしてそう呟き、胸を撫で下ろすアナに、メイドは真っ赤になりながら部屋のカーテンを開けることに集中した。
その気配でラートンが目を覚ます。
「おや、アナ、おはよう♡幸せな朝だね♡♡」
((ええ、そりゃ幸せでしょうよ……!))
うっとりと目を細めて言うラートンに、メイドとアナは心の拳骨に息を吹き掛けながらそう思った。
「ん……ラー様、おはよう…。」
アナがラートンをベッドから引き摺り出そうと腕捲りをしていると、目覚めたイオンウーウァがニッコリとラートンに微笑んで挨拶し、キョロキョロと辺りを見回してブラシを見つけると、嬉しそうに胸毛を梳かし始めた。
ふわふわに梳いて、嬉しそうに撫でる。
そのまま、次は頭髪ともみあげ、獣耳は手で優しく撫でて、背中、尻尾、ハーフパンツ一丁で布団に潜り込んでたラートンの脚毛まで丁寧にブラッシングしていく。
「くふふぅ~♡♡」
まるで風のない湖に揺蕩うスライムの様に蕩けきった締まりのない顔のラートンから、これまた締まりのない声が洩れる。
獣人にとって、グルーミングはセックス以外での最上の愛情表現だ。
それをこれだけ全身丁寧にして貰ってるのだから、それはそれは幸せだろう…。
そう考えてアナは、ふぅ、とため息を吐いた。
(若様が凄く毛深いだけで、普通獣人はそんなに全身ふさふさじゃないし、グルーミングも頭と尻尾の毛繕いをするだけなんだけど……。)
嬉しそうに全身のふさふさ毛を梳かすイオンウーウァと幸せに蕩けるラートンに、とてもそんな野暮なことは言えないな、とアナはベッド横に散乱するラートンの服を拾いながら独り言ちた。
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