親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

文字の大きさ
上 下
13 / 128

13: 手綱弛んで距離縮まる

しおりを挟む


グリフィンから降りて邸に戻る頃にはラートンは今までの頬や額等の顔面や指先、手の甲へのキスに加えて唇へのキス、耳や首等にもキスを雨霰と降らせる様になっており、イオンウーウァはラートンの頬や背の届く脇腹や腕にシャツ越しにキスをし、時々唇へのキスをねだる様になっていた。

キスを自分からする程であれば……。とその様を目撃した使用人達は考えた。

((相思相愛のようだし、少し若様の手綱を弛めてもいいかもしれない……。))


だが、使用人一同が、私だけは若様を多めに見ても良いだろう。なんて思ったせいで、手綱はかなり弛む事となった。



「やっほー♡僕の可愛い奥さん♪まだ起きてるかい??」

「あら、ラー様、起きてるわ。どうしたの?」

夕食が終わり、アナ率いる精鋭メイド部隊に風呂で磨かれた後、種々の手入れをされたイオンウーウァがベッドに潜り込んで暫く、ラートンが窓からひょっこり顔を覗かせた。 

イオンウーウァが応えれば、筋肉達磨の巨体に似合わずスルリと侵入ってきたラートンが、音もなくベッド横に来て顎をベッドにぽてりと乗せた。

「今日。グリフィンに乗って楽しかったけど、疲れちゃったんじゃないかと思ってさ♪
どう?大丈夫?一応、旅の疲れが取れるまで待ってから誘ったんだけど…。」

いつもの大声とは違う、囁くような小声で話すラートンに、イオンウーウァは何だかドキドキする胸を押さえて、応えた。

「そうなの…。旅の疲れがあったの?私…。判んないけど、確かにちょっと疲れてる気もするわ。……この、ここの辺りが重ーい感じがするの、疲れてるって事よね??」

疲れるというのは沢山森の中を歩き回ったりした時など、直接的なものしか知らず、じっと座ってる事でも疲れるとは知らなかったイオンウーウァは、言われて初めて、あれは疲れていたのか、と思い至った。

そんなイオンウーウァを紫紺の瞳を蕩けさせて見詰めるラートンが、そっと、握ったイオンウーウァの手の甲を親指で撫でた。

「僕の可愛い番さん♡明日も元気に遊べるように、マッサージをしてあげようか…?」

「まっさーじ?」

「そう、ほら……こうやって、今日可愛い僕の番さんが使った筋や筋肉を揉むんだ……気持ち良くないかい?」

揉む……その言葉に、幼き日に疲れたという父の肩を母が笑いながら揉み、一度訪れた祖父の肩を叩いてあげた時の家族のコロコロとした楽しそうな笑い声が思い出され、イオンウーウァは嬉しさに頬を染めてこくりと頷いた。

「…気持ち良いわ。」

イオンウーウァがそう応えれば、ラートンの紫紺の瞳がじゅわりと蕩ける。

「今日は沢山遊んだからね…。いっぱい揉んであげる♡」

親指の付け根、掌、手の甲、腕の筋……ゆっくりと、揉みながら這い上がってくるラートンの熱くて、大きくて、太く逞しい指に、イオンウーウァは何だかドキドキしながら微笑んで目を閉じた。

「可愛い僕の奥さん♡キス、しても良いかい?」

肩と二の腕の繋ぎめを親指でゆっくりと揉みながらラートンが聞けば、けぶる様な深緑の睫毛から菫色の瞳がキラリと覗いてラートンを見詰め、少しの羞恥と悪戯心を宿し近付いた。

「………♡♡♡」

イオンウーウァからの口付けに舞い上がったラートンがガバリとそのままベッドに乗り込み、イオンウーウァをベッドに押し倒す。

「可愛い奥さん♡♡大好きっ♡大好きだよっ♡♡……反対の腕は、キスをしながらしても良い?」

チュッ♡チュッ♡チュ♡チューーッ!♡♡と激しく音を立ててイオンウーウァの反対の手の甲や指にキスをしながらラートンがねだれば、イオンウーウァがはにかみながら頷く。

そうして、ラートンは腕、足、腰に背中、白い首筋にデコルテとたっぷりとイオンウーウァに触れ、イオンウーウァはお返しにブラッシングして欲しいと言うラートンの要望通りに尻尾や髪の毛、胸毛や腕毛に至るまでブラッシングをして過ごした。

感極まったラートンがイオンウーウァの頬を舐めれば、くすぐったそうな声をあげて笑った後、イオンウーウァもラートンの頬を舐める。

「嬉しいな♪可愛い可愛い奥さんが僕にグルーミングしてくれるなんて♡嬉しいな♪幸せだな♪♪」

御機嫌なラートンが歌うように囁けば、イオンウーウァが深緑の頭を揺らして笑う。

(幸せとラー様は言うけど、本当に…本当に今、幸せだわ…。)

窓から差し込む月明かりと揺らぐランタンの灯りの中、ラートンの胸毛をブラッシングしたりみつあみにしてみたりしながら、イオンウーウァはそっとそんな事を考えた。




しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

政略結婚だと思っていたのに、将軍閣下は歌姫兼業王女を溺愛してきます

蓮恭
恋愛
――エリザベート王女の声は呪いの声。『白の王妃』が亡くなったのも、呪いの声を持つ王女を産んだから。あの嗄れた声を聞いたら最後、死んでしまう。ーー  母親である白の王妃ことコルネリアが亡くなった際、そんな風に言われて口を聞く事を禁じられたアルント王国の王女、エリザベートは口が聞けない人形姫と呼ばれている。  しかしエリザベートの声はただの掠れた声(ハスキーボイス)というだけで、呪いの声などでは無かった。  普段から城の別棟に軟禁状態のエリザベートは、時折城を抜け出して幼馴染であり乳兄妹のワルターが座長を務める旅芸人の一座で歌を歌い、銀髪の歌姫として人気を博していた。  そんな中、隣国の英雄でアルント王国の危機をも救ってくれた将軍アルフレートとエリザベートとの政略結婚の話が持ち上がる。  エリザベートを想う幼馴染乳兄妹のワルターをはじめ、妙に距離が近い謎多き美丈夫ガーラン、そして政略結婚の相手で無骨な武人アルフレート将軍など様々なタイプのイケメンが登場。  意地悪な継母王妃にその娘王女達も大概意地悪ですが、何故かエリザベートに悪意を持つ悪役令嬢軍人(?)のレネ様にも注目です。 ◆小説家になろうにも掲載中です

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...