親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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11: 使用人達の懸念と感想

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「はぁぁ…美味しかったぁ♡もう食べれないわ。……明日はあれとあれを食べようかな♪それと……。」

「あ、番様……。そちらは明日までは持ちませんかと……。」

嬉しそうに明日どれ食べようと選び始めたイオンウーウァに慌ててメイドの一人がケーキは日持ちがしないと説明する。
果物の入荷具合で作るメニューを変える店のケーキで、明日同じものを用意するのも難しいケーキが含まれていたのだ。
無理を通すには、かなりの金が追加でかかる。出来れば違うケーキを選んで、そのケーキは次回作った時に合わせて購入させてほしい。そう思ったメイドだったが、イオンウーウァは忽ち顔を曇らせた。

「え、これ全部私のでしょ??食べれなくなっちゃうの??イヤよぉ!そんなに直ぐ腐るの??腐るの止めて!ラー様!」

日持ちのするお菓子しか食べたことがなかったイオンウーウァが衝撃の事実に目を潤ませてラートンに訴えれば、

「判った!保存の魔法をかけてあげるよ!任せて!」

とラートンがケーキ一つずつに中級の保存魔法をかけ出した。
だが、ラートンの魔力量では精々十個かければ良い方だ。使用人達は慌てて魔力ポーションの用意やら、日持ちのするものの片付け、日持ちしないものの度合いでの仕訳など、忙しく動いた。

結局、運命の番によって高められるという奇跡のせいなのか、二十個程保存魔法をかけて力尽きたラートンと、見様見真似でトライして何とか一個保存魔法をかけれたイオンウーウァ。
そして、アナとグーマとバジャーが残りを手分けして保存魔法や冷却魔法をかけて何とか事なきを得た。

「はぁ、疲れた…。だが、ポーションも使わなかったし、毎日あの量のお菓子を買ったりしなくて良さそうだし、中々低コストに抑えられたと思わないか?」

魔力切れを起こして眠るイオンウーウァをベッドに運び、同じく眠るラートンを自室へと引き摺りながら言うバジャーに、そうね、とアナが首肯した。

「まぁ、確かに、最初覚悟してたよりは……悪くないわ。何だかんだで…若様の片想いじゃ無さそうだし。」

「そうなんだよ、姉さん。ちょっと生い立ちのせいであどけなさが目立って不安になるが…、番様は何だかんだで若様にかなり好意を示してはいるんだ。意外と若様は番様を御せてるし。……只、はっちゃけた若様を番様は御さないし、我々にもちょっと、中々……。」

アナの言葉に、グーマが嬉しそうに応える。
ちょっと気苦労は増えたが、それでも、幼少の頃から見守ってきたラートンに運命の番が出来たことは三兄弟にとっても慶事だった。

「まぁ、今のところ良い方向に進んでいるようだから、もう少し見守ろうじゃないか。」

バジャーが長男らしく纏め、三人はラートンを自室へと運び込んだ。


次の日、元気になったラートンがまだ夜も明けたばかりの早朝にイオンウーウァの部屋に飛び込む。

「おはよう!僕の可愛い番!僕の愛しい奥さん!あああ、離れたくない♡でも、お仕事に行かなきゃなんだよ!番さん、僕の奥さん♡行ってきますのキスをさせてよ♡ギュッてさせておくれ~♡♡♡」

「ぅう、うう、ぁうぁう。」

まだ仄蒼い早朝に暑苦しいテンションで叩き起こされたにも関わらず、何か言葉にならない言葉を発し、呻き、健気にラートンに腕を巻き付けてキスの嵐を顔面に受け入れるイオンウーウァに、夜番のメイドはそっと苦笑した。

(人族は運命の番を認識出来ないとは聞いてたけど、認識は無くても惹かれはするのかしら…。耳も尻尾も無いし表情も変化に乏しいけど、番様も何だか名残惜しそうだわ…。)

ラートンを押し戻したりせず逆に巻き付いていたイオンウーウァの腕が、離れていくラートンを惜しむかのように肩、腕、掌と撫でて行く様を眺めながら、メイドはラートンに一礼してそっと扉を閉めた。

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