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9: 番は宣言する!
しおりを挟む「奥さん!奥さん!僕の可愛い奥さん!朝だよ!おはよう!」
シャシャーーっとベッドサイドまで一気に滑り込んできたラートンが、ベッドの縁に顎を乗せてニコニコと話し掛ければ、芋虫かチョココロネの様になったイオンウーウァがもそもそと布団の端をトンネル状にして、中から挨拶を返した。
「……おはよう、ラートン様…。」
「もう、様は要らないよぉ♡それに、好きにあだ名付けてくれて良いんだよ??」
「……じゃぁ、ラー様。……ラー様元気ね…。」
もそもそと揺れる布団の穴を覗き込むようにしてラートンがニコニコ話し掛ける。メイドはアナグマ族特有の巣穴大好き本能からくる一緒に覗き込みたい衝動をなんとか呑み込み、行く末を見守った。
「元気だよー!可愛い番がいるのに元気じゃない訳が無いよ!今日は何食べたい?何したい?何でも言って♡何でも叶えるよ♡」
「ねぇ……運命の番って相手がどんなでも愛想尽かさないってホント?……何をしても?どんなになっても?」
「勿論さ!」
布団の中から聞こえてきた質問にラートンはニコニコと即答したが、偶々様子を見に入ってきたアナとバジャーと先程から居たメイドは、その問い掛けにさっと顔を曇らせた。
「私がお布団からずーーっと出ないでも、我が儘放題にしても、例えば、町中のお菓子を買い占めてぶっくぶくの泥スライムみたいになっても好きでいてくれるの??」
「勿論さ!どんな姿でも愛おしいし、いっぱい我が儘言って、いっぱい叶えさせてくれたら嬉しいよ♡
僕の奥さん、今でも柔らかくて気持ちいいけど、もっと柔らかくふわふわになるなんて、楽しみだね♡♡お菓子が食べたいのかい??直ぐに王都中のお菓子を揃えさせるね!」
ラートンの言葉に、布団がそわそわと揺れる。
「……うん、お菓子沢山食べたい!じゃぁ、決めた!私ずっとお布団から出ないで寝てばっかりで美味しいもの沢山食べてぶくぶくになるわ!!」
イオンウーウァの宣言に、メイドやアナとバジャー、更に様子を窺いに覗いていたグーマと若い使用人達までもがげんなりとした顔をした。アナグマ族はイタチ系獣人の中でも筆頭の一族だ。そのアナグマ族の中でも筆頭の家門で、武力と豊かさを誇るバドワイザ家も此処までかもしれぬ、と。
「わぁ!僕が叶えてあげられる事なら何でも来いさ!」
イオンウーウァの酷い質問に嬉しそうに笑って答えるラートンに、使用人達は家門を守る為にラートンが使える金を制限するべきでは……と考えたり、溜め息を吐いたりしつつも、指示するラートンが本当に幸せそうだったので水を差せず、取り敢えず暫くは静観してみようと鈍鈍と動き出した。
「だが、何と無くだが、そんな酷い事にはならない気がするよ。」
そんな中、ふんむ……と考えながら呟いたバジャーの言葉は、イオンウーウァに好意的だったが、いつも沈着冷静な執事長とは思えない程楽観的に響き、他の使用人達には只の気休めにしか聞こえなかった。
「ねぇ、僕の可愛い奥さん!僕もお布団に入っても良いかい?」
「いいよ。」
ニコニコサラリと訊いたラートンに、アナ達が止める間も無くイオンウーウァがこれまたサラリと了承し、嬉しそうにラートンが布団のトンネルにモゾモゾと頭、上半身を突っ込み、次の瞬間に鼻血を噴いて慌てて出てきた。
「ねぇ、僕の奥さん裸!多分裸だ!見えなかったけど多分裸だ!!何で??何で裸なの??多分だけどお腹か脇腹がツルツルのふわふわだった!」
凄く焦った様に言うものの、ラートンの顔は凄く幸せそうで、こっそりグーマは笑ってしまった。
「そうでした!番様、昨日お風呂上がりにそのままお布団に!」
慌ててアナが着替えを出してきたがイオンウーウァは布団にくるまったまま出てこず、ラートンはお菓子と一緒に着やすい服を幾つか買ってくると言って出ていった。
イオンウーウァはその日、宣言通り殆んど布団にくるまって過ごし、覚悟していた様な我が儘は言わず、寧ろ食事も取らないで寝ているので使用人達が逆に心配する程だった。
夕方近く、色々抱えて帰ってきたラートンに使用人達は驚いたものの、どこも番に対してはこんなものだろうと思い直し、イオンウーウァが食事も取らずに寝ていることを伝えれば、ラートンはニコニコしながらイオンウーウァの部屋に駆けていった。
「可愛い僕の番!僕の奥さん!ただいまー!」
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