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2: 出逢いはムギュッと衝撃的で
しおりを挟む「僕の番だ!番を見つけた!!」
「若様!どうかお待ちを!!若様!!ア"ッ!」
何か騒がしいのが近づいてきたと振り返った娘に、弾丸の様に突進してきたソレはガバリ!と抱き着いた。
衝撃に驚いて身を固くした娘は、勢いで倒れたものの、何だかムギュッとした感触のものに取り囲まれ、重力か遠心力か、何度かゴロゴロ転がっているような不思議な感覚を味わった。
止まった様なので恐る恐る目を開ける。特に痛みはなかった。
(空が青くてキレイ…。良い天気だなぁ。木苺、無事かなぁ?)
「若様ァ…。」
ヒィハァと酸素を求めて喘ぐ身形の良い老年が、若様若様と呼びながら近づいて来るので、多分この巻き付いてるのが若様なんだろう、と娘は推測した。
(白い…何か。)
何かにガバッと覆い被さられて巻き付かれてゴロゴロしたのは判ったが、一瞬の事でよく見えておらず、今も、ガッチリ巻き付かれてるせいで身動き出来ず、娘には白い上質そうな布がぱつぱつと張っているのしか見えなかった。
ヒィヒィと苦しそうに駆けてきた老年と、数人の身形の良い男性に白い何かが引き剥がされ、娘はやっとこさ"白い何か"は白い上質の上着を羽織った体格の良い男性であった事を知った。
「あああ!嬉しい!番を見つけた!!なんて美しくて愛おしいんだ!!」
ニコニコと嬉しそうに娘を見つめる男性に、娘は不思議そうに首を傾げた。
「貴方だぁれ?…番?…なんの事?貴方、龍人さん?」
その、のんびりとした口調に、やっと息を整えた老年はそっとこめかみを押さえた。
(何ということだ……。若様の運命の番が、小汚ない人族で、どうやら頭も良くなさそうだ……。ああ、神よ!)
「申し遅れたね!僕の可愛い奥さん!僕は龍人ではないよ!ラートン・バドワイザ!サピエンの西隣のホサルートの西隣のモフーラの伯爵家で、今日は龍人の貢ぎ物行脚の護衛業で来たんだよ!ああ!なんて幸運なんだろう?運命の番への貢ぎ物行脚の護衛だなんて暇仕事で僕も番を見つけられるなんて!ああ♡可愛いね!僕の奥さん!好きだよ♡僕の奥さん!!」
体格が良いせいか、凄く通る声で、いちいち大声で語るラートンに、娘は圧倒されている様だった。
一方、ラートンも喜びに弾けんばかりの笑顔で、筋肉で弾けんばかりの肉体を娘の前に丸めてニコニコ愛を語るのに夢中の様だったので、老年は溜め息吐いてから補足を入れた。
「初めまして、番様。私、若様、ラートン・バドワイザ小伯爵様の執事、グーマと申します。突然の事で驚きでしょう。
我々は獣人のアナグマ族で、その中でもバドワイザ家は筆頭家門でして、領地運営の他に幾つかの商会、それとこういった主に商人の護衛業をする幾つかの傭兵団を保持しています。」
グーマと名乗る老年がそこで言葉を切り、チラッと娘を見るので、娘はコクコクと頷いた。
「所で、番様は現在お独りでございますか?……つまり、ご結婚は?してない。それは良かった。ご両親は?…いらっしゃらない。ではこの村にお一人でお住まいに?はぁぁ、成る程成る程…。」
(小汚ないと思ったら、身寄りが無いのか…。可哀想だが、此方としては好都合かも知れぬ。)
グーマはそっと娘を値踏みし、そう考えた。
「では、このまま、若様と共にバドワイザ邸にお越し頂きましょう。お住まいはどちらに?直ぐに荷物を纏めましょう。大丈夫。使用人も数名おりますので直ぐ済みますよ♪アナグマは力持ちなんです。ご存知ないですか?」
娘はグーマに当然の様に言われ、良く判らないながらも村外れのボロ家を指差し、案内しようと動いた。
そんな娘を、当然の様にラートンは横抱きにして歩き出す。
幸せそうなラートンの白のジャケットが、どんどん薄汚れていく様に、グーマを始めとした使用人一同は内心悲鳴をあげたり、頭トロくて伯爵という身分の凄さが判ってないのではないかと憤ったり、しかし、此方を値踏みしたり拒絶したりしないし、あのトロさだ、意外と御しやすいかも知れないな、と思ったりしながらボロ家へと向かった。
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