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1: 運命の番という奇跡は弾丸のように
しおりを挟む此処は人の国、サピエン。モの領、スモモ村。
村一番の器量良しにして村長の娘、マリローズが龍人の結構なご身分のお貴族様の運命の番だったとかで、村は今、祭りの様に沸き立っていた。
"運命の番"それは龍人や獣人族等の番う習わしのある種族における奇跡。
運命の番は、狂おしい程互いを求め、能力を高めあい、幸福を呼び寄せる。当人だけでなく一族にとっても繁栄と幸運の象徴。
そして、人族は番う習わしはないが、大抵優れた身体能力で高い身分や高い財力を持つ龍人獣人が、どんな身分、容姿に関わらず、無条件でひたすら溺愛してくれるというので、運命の番に選ばれるということは人族庶民の若い娘達の憧れでもあった。
「まっこと目出度い…流石村長んとこのマリローズだて……。」
「ほんに、見たかい?光ってるかと思う程の美しい御仁じゃった…。それに、あの貢ぎモン…。ピカピカしすぎて村長の目が潰れそうじゃて…ハハハ。」
スモモ村もご多分に漏れず、マリローズのシンデレラストーリーに若い娘だけでなく、男衆までもが嬉しそうに龍人のお貴族様の美しさや財力を噂していた。
又、その影で、龍人からの貢ぎ物を運んできた種々の獣人達は、折角の運命の番が人族であった龍人の貴族令息の不運をヒソヒソと囁き合っていた。
「龍人の中でも筆頭の青龍の、それもセイロン家の御嫡男でも、有るんだねぇ……。運命の番がど田舎の人族の庶民だなんて…。お可哀想な…。」
「シッ!誰が聞いてるかわかんねぇ…。滅多な事言うんじゃないよ。運命の番が見つかったんぞ?目出度いって顔しとかにゃ。ほら、笑え笑え、目出度い目出度い…!」
龍人獣人と違い、エルフや人族などの番わない種族の者が番に選ばれた場合、運命の番と感じるのは龍人獣人側のみである。
そして、中でも相手が強欲な人族の場合、龍人獣人達の溺愛を良いことに贅沢三昧や無茶な願いを繰り返し破滅を呼び込んだり、他の龍人獣人に目移りしてしまったりと云うことも時に起こり、運命の番という奇跡の中で、ある意味呪いとも呼ばれる面を持ち合わせた組み合わせだった。
そんな獣人達の羨望と同情の混じったやり取りや、村人達のお祭り騒ぎを小高い丘の上からぼぉっと眺めていた小汚ない娘は、ふぅ、と溜め息を吐くと、少し腰を伸ばしてから次の木苺の茂みへと向かった。
村外れのボロ家に住む親無しの小太り女には関係無い話だ。と、村人達のお祭り騒ぎを頭から追い出して木苺を摘んでいく。
只、村からマリローズが居なくなり、変なちょっかいを掛けられなくなるというのは素直に嬉しかった。
(いつ村から出ていってくれるんだろう。早く居なくなってくれれば良いのに……。)
そんな事を考えながら、木苺を摘んでいく。
同じ年のマリローズは、嫌いなら関わらなければ良いのに、いつもわざわざ娘のところにやってきては娘を貶し、罵り、要らないものを無理矢理押し付けては感謝の姿勢を強要した。
娘はそれが本当に煩わしく、つい、マリローズが居なくなると言うことに笑いそうになる。
が、まだマリローズは村に居るのだ。どこで誰にマリローズが居なくなるのが嬉しそうだったと告げ口されるかもしれない。
娘は、マリローズから何度も毒沼に浮かぶ藻の様だと貶された髪を耳に掛け、木苺を摘むことにだけ集中しようとした。
そんな娘にも今、奇跡が弾丸の様に突進して来ているとは露とも思わずに。
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