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54: 輝くブレスレットと貴族の手紙。

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「へへへへへへ……♡」

手首に輝く、ピンク地に黒でアニマル柄を描いた、エナメルのブレスレット。

「ふーーん。で、それがジュリアがくれた初デート記念のプレゼントなワケ?」

「むっふふふふふ♡」

呆れた様に言う恋心の言葉に、思わず笑いが洩れる。

「ヤダァ、ネオンたら。気持ち悪い声で笑わないで!全く……骨抜きにされちゃって…。」

透かさず乙女心が俺の肩をパシンと叩いて大袈裟に目を回した。
ゴメンね、自分でもちょっとビビる位気持ち悪い声出ちゃった。
そう思うものの、俺は汲み上げてくる嬉しさを抑えきれなくて、ニマニマニマニマとブレスレットを揺らしながら笑い続けた。

「それにしても、最近矢鱈とお手紙来るわよねー。五年間ほっぽりっ放しだったのに、今更何なのかしら。」

恋心の言葉に意識が現実に返る。

そうだ、そうだった。今日俺が此処、恋心と乙女心のアパルトマンでお茶してる理由。

「渋ーい封筒よね、ぁぁん♡微かに香る不特定多数のα臭…♡くんかくんか……ンハーー♡♡」

「どれどれ、んふーー♡イケオジα臭が複♡数♡ これ誰?誰の匂い??どれも渋いわぁ♡」

ぅゎ。変態かな?

「ちょ、父上からの手紙をそんな舐める様に嗅ぐな!それでなくても開けたくないのに、更に開けたくなくなるだろ……。多分父上と執事長とかの匂いじゃないかな…。」

くんかくんかする恋心と、その背後から我も我もと匂いを嗅ぎに来たビアホップに砂狐みたいな視線を向けつつ俺は二人から封筒を取り上げる。

はぁ、父上から手紙とか一人暮らしして以来、初めての事だから気が重い。一体何の用だろう。

深い落ち着いたピンクに焦げ茶と金で細かい地模様をあしらった我が父上専用封筒。俺は恐る恐るその封を切った。

……何々…、あー……そろそろデビュタントだからこの夜会にしなさい、以上、と。

うーん。夜会かぁ、ヤダなぁ…。気が重いなぁ。繁華街で過ごす夜は凄く楽しいんだけどなぁ。繁華街のパーティなら、ホントーーに、楽しいんだけどなぁーー!!

「デビュタントの夜会の指示だった!くぅ!ヤダァ!」

「あー…そっか、ネオンって貴族っても男爵とかじゃなくて、もっと上の貴族の家の子だったっけ……。」

俺の呻きにボソリとビアホップが呟く。その顔は、何処かまだ信じてない様な表情で。

まぁ、すっかり繁華街での生活に馴染んじゃって、俺ってば貴族らしさ皆無だもんな。あー…それにしても、実家が男爵家とかだったら俺みたいな出来損ないはとっくに平民コースだから、こんな夜会になんて出なくていーのに!

「大変ねぇ……。そんで?こっちの彼のはどーすんの??オキナ・タカサゴだっけ?あんたを弄んだクソヤローαのはさー。」

乙女心がピラピラとシンプルな水色の封筒を振って俺を現実に呼び戻す。

「いやいや、俺が勝手に片想いして勝手に失恋しただけで、別にオキナが弄んだとかクソヤローなワケじゃないからな?…けど、そーなんだよなー。又貸しバレて以来、急に手紙が来るようになったけど、どれも王都の流行りのカフェに行ったことあるかー?とか元気かー?とか世間話ばっかで、イマイチどーゆーつもりで手紙送ってくんだか…掴めないんだよなー…。」

はぁぁ、と溜め息混じりに手紙を受け取って、封を切りながら愚痴れば、俺の言葉に乙女心と恋心が信じられないよーな顔して見てくる。

ヤダァ…二人ともつけまつ毛凄いから目を見開くと目玉のお化けみたいだよ…?なぁに?俺なんかやっちゃった??

「……ヤダ、アンタ。ネオン、それ、お貴族様達の"会いましょう♡"って定型文じゃない。」

「……………………は?」

恋心の言葉に俺の全思考がストップする。

何だって??定型文??貴族の???

「 は? いやいやいや、習ってないけど??」

「いやいやいや、ビアホップも習いましたけど。常識ですけど???」

乙女心が口をぱくぱくさせるのを見て、ビアホップが参戦してくる。え?何処の貴族の常識よー…何処情報よー…。

「皆、踊り子見習いの時に習うよ。サキュレント貴族のお誘いの定型文。気付かなかったら損だもの。
"このお店をご存知ですか?"は行かない?ってお誘いで、"大変興味深いですね"とかはお店が気に入らないって意味になっちゃって、"貴方と二人で行けたらどんなに素敵な事でしょう"ってのがOK!ってお返事なんだよ。」

「は、初耳だよ……。」

ビアホップにつられてやってきた玉綴りが説明してくれ、良くできました♪と乙女心と恋心が玉綴りの頭を撫でる。

そんな、新人踊り子の玉綴りでさえ知ってる常識だなんて……。

「はぁ、まさか貴族のネオンが知らないとはねー…。」

うぐっ

呆れた恋心の言葉が、俺に突き刺さった。

えー…何でー??

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