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ここから番外編(腹黒王が割と出ます)
02: 出迎えたのは
しおりを挟む「いらっしゃ~~い♡♡」
ま さ か
急遽舞い戻ったヒルトゥームで、門兵よりも誰よりも真っ先に迎えてくれたのは、まさかの、この国の王だった。
パーリエス・ヒルトゥーム国王陛下が、馬車の扉をがばりと御自ら開いてニコニコと笑っている。
え、嘘だろ!?いや、知ってたぞ??何かミューに対する溺愛っぷりが凄いっていうのは知っていたぞ!?
だが、此処までとは正直思っていなかったので俺は面食らってしまった。
まさかヒルトゥームついて一番に見る景色が国王のご尊顔だとは思っていなかったろうキュルフェが俺と同じ様に硬直している中、ヒルトゥームで一番高貴な御人はニコニコとクッタリ眠るミューを抱き締めた。そのままあっという間にミューを抱いて待たせていた馬車に向かっていく。
「おーおー、かーいそーになぁ。天使くん、今パパがお城に連れてったるからなぁ♪」
さっさとミューを運ぶ国王の後を、俺たちは慌てて追いかけて上等な馬車に乗り込む。
ふんわり香る爽やかな柑橘とひんやりとした冷気。特殊な効果が付与されてるらしき馬車に、俺とキュルフェは互いに顔を見合わせた。
「んぅ……。あれ、パパ?」
魔法でひんやりと冷えた寝台に寝かせられたミューが目を開け、不思議そうに辺りを見回す。
久しぶりに見るその具合のよさそうな顔に、俺とキュルフェは少しだけ息を吐いた。
道中ずっと、旅を続けれない程ではないが少し具合が悪い、という状態をキープし続けていたから…。
「せやろな~思てん♡やっぱ天使くんもサンアントニオが濃いから妊娠初期は冷却と柑橘の香りを好むんやなぁ♪でや?ちっとマシになったやろ??」
「へぇ……。そうなの?凄い、気分が良くなったよ。
でも、不思議だね、ひんやりしたいとも柑橘の香りがほしいとも思わなかったのに……。」
首をひねるミューに、王が甘くほろ苦そうなレモンシャーベットを手ずから食べさせながら言う。
「ほーん。本人は判らんのかぁ。ほなどうしたらエエか判らんし知らんから大変やったやろ。フロレンスはあんまそーゆーのロレンツォやフランクに言わんかったみたいやしなぁ。
ほれ、ちべたいシャーベットお食べ。お前のおばぁさんなんかも、こうやってレモンシャーベット食べ食べ乗り切ったんやでぇ?ああ、後はプリシラのおばさんとかなぁ……。」
一口一口シャーベットをミューに食べさせる王に、何だかすっかり存在をスル―され寂しく思いつつも俺は気分の良さそうなミューを眺めながら幸せな気分になっていた。
「母上やプリシラのおば様もこうなったの??何だか嬉しい♪」
そういって笑うミューと、連綿と受け継いだ知識を総動員してミューを気遣う王に、とても割って入れない親愛の情を感じたからだ。
幸せそうに、シャーベットの口どけを堪能するミューが、何だか愛おしくて眩しい。
俺やキュルフェを孕んだ父達も、こんな風に先達の知恵に助けられたのだろうか……。
あの陰謀渦巻くハレムナィトで、俺達を孕んで、少しでもこんな風に安らげた時があったのだろうか…。
「サンアントニオやからなぁ、皆。…ほら、お城までちっと寝とき♡」
「うん。ご馳走様。……パパ、ありがと。」「こんなんで何を言いますの♪」
ミューのふわふわの前髪を愛おし気に撫でる王。
その姿とその血脈に積み重ねられた知識は、この時ばかりは悪どく底知れない王を慈悲深い聖母に見せた。
「「お、お義母様……。」」
どちらともなく呟いた言葉は、キショい呼び方すんなや、と一蹴されてしまったが。
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