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5: 月猫の嫉妬と変態マイコー

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「仔猫君、君に祝福と加護を。…どうか、ムルーンな日々を送り給え……。」

アレキサンダー殿の歯がカシカシと俺の毛を櫛けずり、ざらざらの舌がつぁりつぁりと整えてくれる。
それと同時に、アレキサンダー殿のスーパーハイパーパーフェクトキャットな気が俺の中に流れ込み、祝福と加護を与えてくれる。むふふ、なんてムルーンなんだ。

あ、猫族の毛繕いや喉を鳴らす行為は他人の為にすると祝福と加護を与えてくれるんだ。
後、毛を相手に付着させたりするのも守護の効果がある。
猫同士だと、この毛の交換は絆を深め合う行為なんだが、ニンゲンはあちこちハゲてるから……可哀想なんでついつい、一方的に守護をかけちゃうんだよね……。

それなのに、どうしていつもニンゲンは守護を躍起になって外すんだろう。
お風呂とかいって毎日沢山のお湯で洗ったりするし。
そんなんだから頭の天辺しか毛が生えないんだよ。全く……。

キキも、もっと全身ふさふさしてたら、俺と毛の交換が出来るのになー……。

「俺が毛繕いしてあげてるのに、他のヤツの事を考えるなんて……仔猫君は意外と尻軽だな…。」

「は!はわまわゎゎゎちちちがゃぁゎゎゎ……!」

うわ!アレキサンダー殿の毛繕いがなんかもう、究極に自然すぎていつの間にか存在を忘れてた!ヤバい!

ちょっと拗ねたみたいに強めに毛繕いするアレキサンダー殿によって、俺はこの後、小一時間程全身を揉みくちゃに毛繕いされてしまった。ひぇぇ!な所まで舐められるし。アレキサンダー殿!俺はそんなに仔猫じゃないよ!
月猫特有のメインクーンより大きい体躯で、俺のまだ育ちきってない体をコロコロ転がされ、ちょっと屈辱的…。

アレキサンダー殿と居る時に余計なことを考えない。タルト、覚えた。

全身アレキサンダー殿の祝福と加護でピッカピカになった俺は月猫の庭園から出て、一般猫達の集う噴水広場に向かった。
アレキサンダー殿は、俺からのお返し毛繕いで御機嫌を直した後、月猫の集まりへ行くと言って去っていった。まぁ、そういって別のところに行くのが猫って生き物なんだが。

噴水広場に行けば、アレキサンダー殿の祝福と加護でピッカピカに光ってる俺は目立ったらしく、慌ててマイコーとTIGERが駆け寄ってきた。他の一般猫も遠巻きに俺を見てヒソヒソ髭を揺らして噂してる。フフン♪

「ちょっとちょっと!なんでアンタ月猫様とあんな親しげにしてるの!?どーゆー関係!?」

「な、な、タルトタタン、ちょっと俺にも毛繕いさせてくれよ!フン!フン!フンムーン!ぁぁ…これが月猫様の移り香…!芳しい!!凄いな!全身隈無く祝福と加護で覆われてる!はぁぁ……これが月猫様のオーラ…くんかくんか…はぁぁ。良い匂い…舐め舐めしたぁい♡」

TIGERがチワワみたいにうるさく喚いて何だかイラっとするも、マイコーが興奮の余りヤバい変態と化してて…あわわわわ…!
ジリジリ後退るも、カウチキャットらしいオレンジの巨体を揺らしてズイズイ来る。翡翠色の目がヤバい狂気を孕んでギラギラしてる。
気がつけば、周りを同じくギラギラした目で毛繕いの隙を窺ってる一般猫達に取り囲まれていて……。

「ヒェェェ…!来るにゃぁ……!!」

俺は恐怖の余り慌てて種族サークルのリンクを切り離した。

(ひ、ヒドイや!!タルトタタン!!ちょっとすりっとする位の加護分けてくれたって良いだろ!)

(そうよー!ヒドイわ!)

ご近所会話サークル経由でマイコーとTIGERから文句がくる。五月蝿いなぁ!

(俺だって分けてやるつもりだったさ!マイコーが変態過ぎるからいけないんだ!変態!変態!変態!へーんーたーいー!!)

(まぁいいや、鼻の穴は祝福を少し受けたから……。)

やっぱり変態じゃないか!



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