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3: ★終話 僕は幸せになろうと思う。……あれ?
しおりを挟む元薬師だった祖母から受け継いだ、家や小屋というより部屋と言った方が相応しい小さな建物はあっという間に燃えてくれ、数々の証拠を隠滅してくれた。
一応僕は参考人として手配されたものの、数少ない燃え残りと行方不明者の素行から、乱痴気後の火の不始末だろう、僕は小柄で華奢だったから、不憫にも骨も残らず焼けたのだろうと云うのが大体の意見だ。
一方の僕は森に潜伏したまま、樹の実や薬草、魚を獲って飢えを凌ぎ、街道に沿って移動した。
そうして、元居た街からかなり離れた街に、僕は別の人物として降り立った。
薬草で伸ばした髪を綺麗に飾って、爪を爪紅で染め、煌めく花粉を調合した化粧で目元と唇を彩る僕はどこからどう見ても森の薬師の民で。
真面目で何処か頼りない顔に描かれた、自身の手配書が貼られた関も難なく通り抜けた。
自分の手配書を眺める僕に、暇を持て余した門番さんが
「何でも小屋が燃えて複数人が死ンでたらしいが、家主の少年の骨が無かったンだそうだ。一応、放火殺人や、無実だが自分が疑われると思って逃げた可能性があるってンで貼られてるが、多分火元に近くて骨が残らなかったンだってよ…。
可哀想によ~。悪い男に惚れちまって、食い物にされてたンだってよ~。
アンタも悪い女や男に引っ掛からンようにな~。」
と教えてくれたので、ありがとうと言って僕はそのまま街へと入った。
以来、リコリスと名乗り、薬草摘んだり簡単な薬を作って売ったりしながら森や街を点々とする。
放浪生活は、本当に森の薬師の民であるかの様に僕を気ままにした。
好きなだけ食べるようになったせいか、背も少しだけ伸びて、健康的な肉と骨の太さになった。
醸す雰囲気も大分変わったと思う。
初めてマンドラゴラの実を食べて以来、すっかりあの爽やかな味に魅了された僕は、森で見つける度に幾粒か薬にせずに自分で食べていた。
そのせいかな、妙な色気が増したらしく、森で、街で、人が寄って来るようになった。
襲われれば殺して金目の物を奪い、良い人とは良い付き合いをした。
そういう生き方が身に馴染んで数年、僕は、今住んでいる街が気に入っていて、このまま此処に根を下ろしても良いかな、なんて考えている。
「どうしたの?何か素敵な事でも有った?」
交易が盛んで鋼のように硬い大木や切立った崖に粗末なテントや小屋をビッシリ貼り付けた奇妙な街。
幾重にも重なる吊橋と雑多な商店テントの列を見下ろしながらそんな事を考えていた僕の身体に、スルリと滑らかな腕が巻き付く。
「ん……別に。ちょっと、…この街は住みやすいな~、このままここで暮らしちゃおっかな~って考えてただけ。」
振り向けば唇がそっと唇を塞ぎ、その甘い感触を楽しみながら答える。
「良いね、僕もこの街好きだよ。住みやすいし、何より、君が居る…。」
穏やかに笑い、そう言って唇を再び重ね、そっと舌で唇をノックしてくるのはアイリス。
この街で出逢った色男。
先日、屋台でご飯を食べてたら隣の席の男が、一人で食べるのは苦手なんだと話し掛けてきた。それが彼。
僕が捨てた名前と同じアイリスって名前に惹かれて、それ以来、出会ったら軽くお喋りするように。
でも、その穏やかな眼差し、笑い方、物腰の端々に何故か、幼馴染みの花屋の息子のエヴァンを思い出して、僕はあっという間にアイリスが大好きになった。
サラリとした金髪、淡い泉みたいな水色の瞳、ソバカスの無い白い肌。
エヴァンより少しだけ背が低く、細身に見えるけど鍛えられた身体。
その外見は、日焼けしたがっしり筋肉質の長身に、クシャクシャの灰色の癖毛、ソバカスの浮いた顔に深い緑の瞳のエヴァンとは全然違うのに…。
アイリスの隣は、昔からそこが僕の居場所だったみたいに心地好くて、彼も僕を憎からず思ってくれていたようで、僕達はあっという間に身体を触れ合う関係になった。
そして、多分僕は今から、彼に抱かれる。
ーーーーー
ーーー
ー
するり、
はらり、
アイリスの白くて長い指が僕の服を1枚1枚脱がせてゆく。
その、まるで大切な贈り物のリボンでも解くような優しい指使いに、僕はクスクスと笑みを漏らした。
擽ったい。
体も、
心も。
(そう云えば、エヴァンも僕に触れる時、こんな風に大切そうに触れてくれたっけ。)
幼かった頃、僕の好きな花だけで花冠を作ってくれた幼馴染みを彼に重ねる。
優しく、けれどまるで愛撫するみたいに触れる指先、伝わる熱、幸せそうに笑ってくれる笑顔…。
思い出せば出すほど、目の前のアイリスとエヴァンが重なっていく。
(馬鹿だな、エヴァンはとっくにお嫁さんを貰って、花屋を継いでるのに……。)
僕みたいな野良薬師が、その辺の薬草と簡易な道具で作る薬以上の効果効能を求められた時、僕はいつも
「そう言えば、腕利きの老舗らしいよ。又聞きだから良く知らないけど。」
と、エヴァンの花屋を教えた。
「花屋だろぉ?」
と訝しがる客に、
「知らないの?あの地方の花屋は皆薬師なんだよ。ほら、貴重なお花も薬も畑や温室で育てるでしょ?」
「僕等森の薬師の民は森に生えてる分しか使えないけど、それを年中使えるようにしたり、他の土地の貴重な薬草を栽培したりするついでに、資金稼ぎで花を育てて売ったのがあの辺の花屋の始まりなんだって。おばあちゃんが言ってたよ♪」
なんて言って。
「へぇぇ。じゃあ、いっちょ仕入れに行ってみるかぁ?うーん。その老舗、俺みたいな新米行商人に売ってくれそ?」
森の薬師の民が薦めるなら、と皆簡単にその気になってくれる。
「知らないよぉ。僕は腕利きで老舗って噂を聞いただけで行った事もないんだから。寧ろ、どんなお店だったか土産話期待してる~。お酒でも飲みながら、さ♪」
「酒?!一緒にか?ヘヘ…おっしゃ!ならダメ元で行ってみっかぁ!」
「いってらっしゃーい♪」
そうやって時々得た情報で、エヴァンとエヴァンの家の花屋が元気で繁盛しているを確認するのが、僕の放浪生活の密かな楽しみ。
何でも、僕が部屋に火を付けて逃走した直後、火事に気付いたエヴァンが僕を助けようと火の海に飛び込んで大火傷を負ってしまったらしい。
暫く寝たきりだったそうだが、その間に出来た婚約者のお嬢さんの献身的な看病で痕一つ残らず回復し、今は結婚して、そのお嬢さんの生家の商会と協力してとても繁盛しているそうだ。
あの頃、僕を大切そうに見つめて笑ってくれていたエヴァンの視線の先に、今は違う人が居る。
その事実はちょっと切ないけれど、それでもあの頃の思い出が燻む事もなく、エヴァンが僕にとって大切な人である事も変わらなかった。
エヴァンが幸せだと知って、僕も幸せな気持ちになれた。
そして今、僕の隣にはアイリスが居る。
どちらかと言うと、黒髪の彼を思い出させるスラッとしたタイプの美丈夫の中に、エヴァンを思わせる穏やかな慈愛を詰め込んだ僕の恋人。
あの狂おしい程の愛しさ、燃え盛る炎は胸に感じないけれど、麗らかな陽溜まりの様に居心地好い。
全てを判り合ってるという盤石の安心感は無いけれど、互いを探り合う恋の駆け引きが心を擽り、弾けさせる。
「なぁに?又考え事だ……。」
するすると僕の肌の上を指で味わいながら、アイリスが僕の耳に囁く。
唇が耳を掠めて、吐息が掛かって、僕は思わず下唇を噛む。
その見かけよりもずっと低音の声と、指先の滑らかな感触が背骨にゾクゾクくる。
「ん、……ごめ、ちょっと懐かしい人を思い出してた…。」
ぶるっ、と身震いして謝れば、少し悪戯心を宿した瞳が僕を射抜く。
「ふぅん……。僕に、似てるの?」
ちょっと不機嫌な声。
こんな時に気もそぞろで、興を削いじゃったかな?
「うん。似てる。……ぁ、見た目は結構違うんだけど…ハ、ぁ、…アッ!」
ごめんね、と啄むキスをアイリスの唇に落として、似てると答えた途端に噛み付く様なキス。舌が、まるで此処は自分の陣地だと言わんばかりに僕の口の中を蹂躙する。
こんな激しいキスは初めてだけど、アイリスのキスはいつも気持ちイイから、力を抜いて身を委ねる。ふわふわ、じんわりと脳味噌の芯が痺れる、いつもの感覚。僕を好きだって全力で伝えてくるアイリスのキス。
でも、いつものキスより今は、素肌をゆっくり撫でくり回されてるせいか、背骨を疾走るゾクゾクが僕のナニに凄い勢いで溜まって来ていた。
涼しい顔したアイリスの前で、僕だけ半裸で、真っ赤で、だらしない顔して、ナニもちょっと屹立ちあがりかけてるのがとても恥ずかしい。
平常を取り戻そうとして、ふと、先程の会話を思い出す。
だから、見た目は結構違うと会話を続けたのだけど、何故かそれはアイリスを興奮させたようだった。
指先が胸の先端や腰骨などの際どい所に迫り、ピリピリとした快感に思わず腰が跳ねる。
「ふぅん♪…見た目は違うんだ…それって、好きだった人?」
あれ?ちょっと機嫌悪かったよね?と思う程、指先の動きが弾み、何だか嬉しそうな声が降ってくる。
応えようと見上げれば、何だかニマニマと嬉しそうで。
それでいて、応えさせる気はあるのかと思う程、指先はスリスリと敏感な所を刺激して。
「ぁ、ぁ、ァ、アッ!…ヒッ、ヒァッ待っ、てぇ、ァアッーー!」
「ねぇ、好きだった、人?」
「あ、あ、ァア、ッ、た、大切な…お、さな、馴染み…なン!ーーッ!!」
ねぇ、ねぇ、と耳元で応えをせっつくのに、手は僕のナニを弄ぶ。
にゅち、にゅちっ、と自分が垂らした先走りが絡む音を態とらしく響かせられ、恥ずかしくて、気持ち良くて、何もマトモに考えられないまま必死に応える。
でも、言い終わらない内に先端をぐりぐりと刺激され、僕はアイリスの顔を見たまま盛大に果ててしまった。
「フフ、可愛いよリコリス♪」
脱力する僕を見下ろしながら、アイリスが囁く。
その声が何だかとても上機嫌で、僕は、少しだけ嬉しくなった。
つい、とアイリスが僕の先走りと白濁に塗れた白くて長い指を滑らせ、会陰から後ろへと僕の肌をなぞる。
「ハァ…ッ……」
つぷり、侵入りこんだ指は細長い見た目に反して思ったより太さを感じる。
つぷ、つぷ、くぷり。何処から出したのか、香油らしき物を僕の後ろに塗り込めるアイリス。
(良い匂い、何だっけ……この花の香り……。)
ふわり、鼻を掠める花の香りに意識を向け、ゆっくり息を吐きながら後ろの力を逃がす。
(ああ、思い出した。ラルバの花だ。)
花の香りと花粉にリラックスと痛みを感じにくくさせる作用がある、花弁の大きな華やかな花で、貴族なんかの初夜のベッドに敷き詰める習わしがある。
そんな花の香油で初めてを致すなんて、アイリスはなんて洒落者なんだろう……。こういう所がモテる所以なんだろな、なんて考えながら、ゆっくり僕のナカを解していくアイリスの指を受け入れていると、ふと、アイリスが手を止めた。
「結構、慣れてる?」
何でも無い様な口調のその一言に、僕のふわふわした幸せ気分はあっという間に鉛になった。
「まぁ、それなりにね…。」
「ふぅん、そっか。」
「気になる?」
「……いや、別にどうでも良いよ。」
「アッ!……!」
再開とばかりにアイリスが、くぱっと二本の指で僕の後ろを拡げるので、上擦った声が出てしまった。
恥ずかしくて赤くなる顔を腕で隠せば、クスクスと楽しそうな声が聞こえてくる。
僕が初めてじゃないって知って、急に態度を変えるヤツには今迄何度か遭遇した。
手荒く抱いたり、変な事をしようとするヤツは、殴ってサヨナラするか、殺すかで。
……今迄はそれでオシマイだったけど、アイリスの事は大好きだから、少しだけ手荒くなる位なら、我慢してもイイかな、なんて思ってしまう。
(僕ってホントに馬鹿だなぁ…。)
でも幸い、そんな考えは杞憂だったみたいだ。目の前のアイリスの瞳がじゅわり、と愛しそうに蕩ける。
「……いやね、経験ありそうって思ってたんだけど、リコリスってば、何処触っても初心な反応するしさ。意外と慣れてないのかな~なんて思ってたら、後ろ触られるのには抵抗無いし、何か混乱しちゃって~♪アハハ」
「ばっ、なっ…!~~っ、ァ、アイリスの指が擽った過ぎるんだよ!それに、ちょっと久しぶりだし、君とは初めてだし、なんかその、一応ちょっと緊張してるんだよ!!」
「フフフ…♡」
アイリスの指遣いに敏感に反応してしまい、正直自分でも驚いてた所を指摘され、咄嗟に口から見栄と言い訳が飛び出す。顔が火が出る程熱く、そんな顔の前に思わず持ってきた腕まで赤い。くぅ~~恥ずかしい!!
「くぅ……んヒッ!」
そんな僕を、アイリスは嬉しそうに見つめながら笑って……徐ろに僕のナカの指をぐりん!と回転させた。ひどい。すっかり油断してた僕は仰け反った弾みに手が滑り、ベッドに仰向けに寝転ぶ形になってしまった。
すかさず上に覆い被さって、僕をベッドに縫い止めるアイリスの笑顔が、背骨にゾクゾクしたものを走らせる。
いわゆる、雄の顔って感じの、肉食獣みたいな獰猛な微笑み。
「アッ……ン、…んハァ…。」
アイリスの空いてる方の手が腹を滑り、ピン、と僕の胸の桃色の尖端を弾く。転がして、周囲をなぞって、又肌を滑ってから尖端を弾く。
その甘やかな刺激に声が漏れれば、アイリスがニマニマ笑いで囁く。
「リコリスったらビ・ン・カ・ン♪
けど、皆、余り前戯には時間かけなかった感じ?触られ慣れてない感じだね…」
背中や首筋、耳なんかをスリスリこしょこしょなぞりながら問うアイリスの水色の瞳は、何処か哀れみを宿していて、まるで僕のあの真っ黒な過去を見透かしているようだった。
そんな訳ない、と頭から追い出し、一呼吸。
「色々あったから……。」
「そっか。」
僕の声色から察したのか、ニコリと軽い雰囲気で笑ってアイリスが会話を切り上げてくれる。
その居心地の好さに、またエヴァンが重なるのを、首を振って追い出す。
(彼はもう幸せなんだ。
そして、僕も、……アイリスと幸せになって良いんだ…。)
「あっ、……!!」
目の前の彼に集中しようと意識を体に向けた途端、コリリとイイ所を探り当てられて思わず腰が跳ねる。
「僕が開拓するトコ、一杯有りそうで嬉しいよ…♪」
もしかして、さっきから下腹部とか会陰とかをゆっくり押さえてたの、何か意味がある??
愛しそうに微笑んでくれるアイリスに、何故かゾクゾクするものを感じて思わず摺り上がれば、直ぐに足を引っ張られて前よりも距離が近くなる。
足を開かされ浮かされた腰は、下から見るとアイリスの顔のすぐ前にあるように見え、僕は思わず枕で顔を隠す。
「ちょっと、顔を隠さないでくれよ。寂しいじゃないか。」
ふと思い出す過去。枕カバーで顔を隠された、あの……。
寂しいから顔を隠さないでと枕を優しく引っ張る、白くて長い指。
何かが相殺されていくような気がする。
君を好きになって良かったと、小さく呟いて、枕を掴む指の力を抜けば、ゆっくりと視界が晴れて、アイリスの笑み。
啄むようなキス。キス。キス……。
沢山のキスが降り注ぎ、甘く、深く、変化する。
「可愛いリコリス。……愛してるよ。今迄も、これからも、ずっと。」
(今迄もだなんて大袈裟だよな、出逢ってからそんなに経ってないのに。)
でも、そんな大袈裟で軽い愛位が、今の僕には丁度いいのかもしれない。
そんな風に思ってアイリスの唇を唇でぱくりと挟めば、まるでそれが合図みたいに、ゆっくりナカにアイリスが侵入ってきた。
「ンァ…く、……ふぅ……。」
ゆっくり息を吐きながら力を逃がすが、それでも感じる圧迫感。
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「…ん……くふぅ…アッ!?」
ズン、と不意にアイリスがイイ所を狙い打つ。
その効果は抜群で、スッカリ蕩けて甘イキ寸前になってた僕の視界にチカチカと星が飛んだ。
「フフ、リコリスはココが好きなんだね…?」
ちょっと待って!今はダメ!
待ったを掛けたいのに咄嗟に声が出なくて、ふるふると小さく首を振ってアイリスを見詰めるけど、返って来たのは肉食獣の様な獰猛な眼差しと舌なめずりするような笑み。
「アッ…アァッ…ャアッアッアッアッ、ヒィ、ィ、ッ、ッーーー!!!」
ズリズリ、ゴリゴリとリズミカルにイイ所を狙い撃ちし、時々イイ所を確り掠めつつ強めに奥をノックするという凶悪な動き。
蕩けた所にこんな快楽、耐えれる筈もなく。僕はあっという間に絶頂に追いやられ、下りれなくなってしまった。
舌の根がひんやりして、世界が白くなって、星が飛んで、指先や爪先までひんやりする様な不思議な感覚。
背骨を駆け上る快感の雷が脳味噌を焦がし、火花を炸裂させる。
其処からはもう、滅茶苦茶だった。
何か必死に喚いたと思う。アイリスにしがみついて、奈落に落ちそうだと蛇みたいに全身でアイリスを締め付けた気がする。
嗤うアイリスに何度も白濁をナカに強請った。リコリスとして培ってきた男や女のあしらい方を忘れて好きだと何度も叫んだ気がする。
愛してるという言葉に、可愛いと言う言葉に、嬌声を上げてもっと言ってと強請ったのを覚えてる。
アイリスは何度も愛してる、可愛いと言ってくれて、跳ねる僕の全身にキスを降らせ、舌を這わせた。
僕を愛おしいと心から思っている様な蕩ける水色の瞳が愛おしかった。
何度も僕を求める屹立が愛おしくて、口に入り切らないそれを必死に唇と舌と喉で愛撫した。
アイリスは何度も、ぱくりと僕のナニを食み、嬉しそうに白濁を飲み干した。
白くて長い指で何度も僕に白濁を撒き散らさせ、先端を捏ねては潮を噴かせた。
何も出なくなっても舌で、指で愛撫され、ナカのイイ所を突かれ、空イキにナカイキにと披露させられ、最後は胸の尖端でもイきそうになるほどだった。
全身がガクガクと意志とは関係無く戦慄き、力の入らなくなった僕を俯せにしたアイリスが、尻だけを高く上げさせて何度も最奥を突いてくる。
激しいセックス。けれど、昔経験したモノの様な虚しさや苦しさを感じない。
何処かふわふわと温かくて、幸せで、まるで蜂蜜の海で溺れてる様な…。
ーーーーー
ーーー
ー
空が白白明ける頃。
もうお互い全身が白濁に塗れて、苦くて、塩っぱくて、キスも酷い味な筈なのに。
甘くて、とても甘くて。
僕達は舌を絡めるのが止められなかった。
ベタベタする唇と唇を何度も重ね、肌をくっつけ、
「このまま、全部くっついて、一つになっちゃったらイイのに。」
なんて言って笑い合って、気絶するように眠りに落ちた。
そんな激しい長時間運動の後、直ぐに回復する筈もなく……。
起きたらもう夕暮れで、上掛けもシーツもアイリスも僕もバリバリのメチョメチョのぐりょぐりょで。
「ぅゎリコリス、待って。僕の髪が君の腕とシーツに張り付いてるんだ、動かないでテテテテテテ……痛~…。」
「あ、イテテ、僕の髪もアイリスの腕にくっついてる!ゆっくり動いて!ゆっくりぃぃぃぃたぃたぃたぃ…!」
僕の望み通り、僕達は全部くっついて一つの塊になっていた。
ベッドも僕達も凄い様相と臭いで、二人でゲラゲラ笑いながら風呂に入って必死に洗濯して部屋中に香水を撒き散らした。
それでも微かに汗と何かの匂いが残るベッドに新しいシーツを敷いて、上掛けが無いから抱き合って、擽り合って、愛を囁やき合って、夜中までクスクス笑い合って、朝まで泥の様に眠った。
何だか、過去の全てがちゃんと過去になった気がした。
もう、何故あんなにも黒髪の彼に惹かれたのかと思い返さない気がする。
もう、エヴァンの近況を知りたいと思わない気がする。
全ては過去なのだと。
過ぎ去って、
どうにもならず、
どうでも良い事なのだと……。
温もりを感じて額を擦り付ければ、とく、とく、と胸板の向こうで脈打つ鼓動。
さらり、衣擦れがして、温かい腕が僕を抱き締める。
今、僕は、凄く幸せだ。
ー
ーーー
ーーーーー
「それ、ずっと着けてたの?大分ボロボロだね。」
朝、そろそろ起きて食事でも作ろうかと髪を纏める僕の胸元を見つめながらアイリスが呟いた。
視線の先には、鎖骨の間に収まるリコリスの花のペンダント。
「あぁ、コレ、お気に入りでずっと着けてるから……。」
気がつけば、彫りも薄くなって、赤い絵の具も大分はげちょろだ。
指先でツンツンと揺らしながら、鮮やかだった頃を思い出す。
「幼馴染がね、僕がリコリスの花が好きだって言ったのを覚えてて、作ってくれたんだ。
……懐かしいな、両手一杯にリコリスの花を摘んでくれたりしてね…。」
胸元にくすんだ茶色の塊。
でもこれは、僕の胸の中で綺羅綺羅と輝く想い出の結晶みたいなものなんだ。
だけど……恋人が、他の人からの贈り物を身に着けてるのって、余り面白くないよね。
ボロボロだし外した方が良いかな、なんてアイリスの顔色を伺えば、予想に反してニッコニコだった。
「ハハッ懐かしい。そんな事もあったっけ~♪
暖炉の傍にペンダントの燃え滓が幾つか転がってたから、てっきり全部捨てちゃったのかと思ってたよ~。もしかして、リコリスって名乗ってるのも、そのペンダントからとった?嬉しいな♪
良かったら今度、彫り直して色も塗り直すよ。それとも新しいのを作ろうかな。」
チュッ♡
嬉しそうに言って、僕の瞼に音を立ててキスを落とした後、アイリスはスルリと猫の様にベッドから抜け出した。スタスタと、遠ざかるスリッパの音。
「お腹減ったね♪マダ腰とか痛いだろ?僕が作るよ~。ポーチドエッグはどう?昔好きだったよね…あ、このベーコンと芋を炒めようか。それから……」
「…………………………………えっ?」
訳が判らなくてアイリスを目で追い掛ける。
そんな僕を、彼は水を鍋に汲みながらニマニマと悪戯の成果を愉しむかの様に見返していた。
~Fin~
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