【R18完結】リコリスの花は微笑む〜執着クズ攻に酷い目に遭わされて悪堕ちするけど悪堕ちした幼馴染攻が追掛けて来て幸せになる話〜

syarin

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2: 地獄の様な幸せとの決別。

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「……?」

「あ、気が付いた?おはよー。」

僕はマットレスにテーブルクロスが掛けられたままのベッドに腰掛け、眠りから醒めたらしき彼に声を掛けた。

ゴミや家具を全て一箇所に寄せて大きなスペースを作った室内、等間隔で置いた僕を犯した男達、中央に彼。

「っ!…………。」

彼は驚いたみたいだけど、何も言わなかった。
猿轡は僕が噛まされていたモノよりも薄いから、不明瞭ながらも喋れると思うのだけどな。

ソファに一人縛り付けられた彼の周りの男達は未だピクリとも動かない。

「大丈夫、生きてるよ。眠らせたっていうより、樹の実の毒で昏倒させたって感じだけど。」

チロリと男達を見た彼に状況を簡単に説明する。

いつもの裏通りでたむろしていた彼等の置きっぱなし&飲みかけの酒瓶に毒を入れて意識を失わせた後、一人ずつ部屋に運んだ事。

殺すつもりであること。

「殺すのは、君が起きてからにしようと思ってたから。」

僕のナニに棒を突っ込んだか、その時に僕を押さえてたか、な金髪君の髪の毛を引き摺って彼の前に運び、意識のない口にリコリスの根の摺り下ろしを流し込む。

ゴクリ。

喉にピペットを挿し込まれ、苦しそうに金髪君が喉を動かす。
後はもう、ただ見守るだけだ。

悪心、嘔吐、呼吸困難。吐血。
力の入らない手足を懸命にバタつかせ、のたうち回って床を汚すのを、彼の膝に座って静かに眺める。

元々意識のない状態だったけど、昏睡が更に深まり、それでも身体は訳も判らず生存への道を探して足掻く。

今、彼は正しく苦しみを感じているのだろうか。
若しくは苦しみが齎す悪夢に苛まれてるのだろうか。
それとも、あれは単なる身体の反応で、意識は深い眠りについている様なものなのだろうか……?

不安に震える指で彼の艷やかな黒髪を撫でる。

それでも耐えれなくて、黒髪に口付けし、頬ずりすれば、彼はもぞりと身動ぎした。

見れば、諦めたのか、何処か穏やかな眼差しで。
少し僕に寄り添う様な動きに感じたのは流石に僕の願望だろうけど……。

金髪君の死を見届けて、二人目に毒を飲ませる。
今度は茶髪の短髪君。

彼は誰なんだろう。ケインかトーラかジャスパーか、はたまた全く別の誰かか。

僕を犯した男は全部で5人。
名前が出なかった人達は特に特筆する個性が無かったのか、ケイン達ほど親しくないけど偶々居てたから誘ったのか……。
兎に角、彼等には犯された以外の恨みは無いし、殺す程憎くもないけれど、これも運が悪かったと思って死んでもらおうと思う。

彼等は僕の覚悟を決める為の踏台であり、間違い無く、且つ、スマートに本番を行う為の予行演習だ。

幸い、皆ちゃんと致死量を飲ませる事が出来、事前に摂取した毒との妙な相性で変な症状を出す事もなく、事切れていく。

一人、又一人。

のたうち回って、血を吐きながら床を移動し、その内、まるでお気に入りの場所でも見つけたかのように動かなくなり、思い思いの格好で静かな眠りにつく。

その度に心が少しずつ落ち着き、指の震えが収まっていった。

僕は退路を自ら断ち、練習を重ねて立派な殺人鬼になったんだ…。

気が付けば、汚い室内の真ん中に吐血の赤いカーペットが広がっている。
まるでリコリスの群生地みたいに見えるその様に、僕は少しだけ感動した。

森で見た夢にそっくりだったから……。

「さてと、君の番だよ…。」

艷やかな黒髪に口付けし、そっと彼の耳に囁く。

ああ、なんて愛おしいんだろう。
こんなにも彼の髪に触れていたのは初めてだ。
セックスせずに、こんなにも彼と長く触れ合っていたのも……。

そっと口付けしたまま降りてゆき、耳、こめかみ、それから頬へ、猿轡で伸びてる唇へとキスを降らせていく。

もっと嫌がるかと思ったけれど、彼はじっと動かない。
恐る恐る覗き込めば、見たこと無いくらい凪いだ蒼い瞳がジッと見返してくる。

「もっと、怒るかと思ってた。」

ポツリと呟く僕の言葉に、彼は少しだけ何か言いたそうだったけど、やっぱりやめたのか無言のまま、何も言ってくれなかった。

「愛してるよ…。僕も直ぐに逝くからね。」

彼とこんなに長い時間穏やかに過ごすのが初めてで、穏やかに見つめてくれる彼が初めてで、このまま殺すのは勿体無い気持ちになる。

けれど、生かしてしまったらきっと彼は又僕に酷いことをするんだ。

揺らぐ覚悟を首を振って正し、僕はそっと用意していたリコリスの摺り下ろしをピペットで吸い上げた。

「本当に、怒らないし抵抗しないんだね……イイの?」

ピペットを猿轡の隙間から挿し込んでも大人しく嚥下する彼に、僕は本当に不思議な気持ちになって聞く。

だけど彼は、小首をかしげる僕を変わらず凪いだ青い瞳で見つめ、それからそっと伏せた。
長く黒い睫毛から垣間見える瞳が、深い海の色を湛えて、こんな時でも美しい。

それから暫く、僕は彼の膝の上に座りつつ、彼を抱き締め、見詰め合い、束の間の蜜月を味わった。

暫くして彼の顔色が悪くなり、悪心や呼吸困難に苦しみだしたので、拘束を解いてあげようと僕は膝から降りた。
だけど、これがイケなかったらしい。
拘束も、僕という重しも無くなった彼は藻搔いた弾みでソファから落ちてしまった。

彼には固くて冷たい床ではなく、良く座っていたこのソファで死なせてあげようと思ったのに…。

慌ててマットレスの上のテーブルクロスやバスタオルを彼の下に潜り込ませ、ソファの座面を外して枕にしようとして失敗し、アレコレ何度も奮闘し、どうにかこうにか、上半身を起こした彼を抱き抱えた僕が座面に座って背後のソファに靠れるという形で安定した。

もっと苦しまない毒があれば良かったのだけど、等と思いつつ、彼の身体を摩り、髪を撫で、何度も額に口づけして愛してると囁やく。

苦しそうに息をしながらも、甘えるように僕の首筋に額を擦りつけてくる彼が本当に愛おしく、死にゆく彼には申し訳ないけれど、僕は今人生で一番幸せだ。


ーーーーー
ーーー



「……ッ!…!」

不意に、彼が僕の首筋に埋めていた頭を持ち上げ、身体を起こして何かを伝えるかのように口を動かした。

見詰める青い瞳は朦朧としていた先程までとは打って変わって熱意が籠もっていて。
僕の心臓がドキリ、と跳ねた。

何を伝えたいのか、ブルブルと震える拳を持ち上げ、

そして彼は、

一際大きく血を吐いて事切れた。



殺した。

彼を殺した。


息を吸って、息を吐く。


彼は血を吐いてコホコホと咳した後、ゆっくり息を吐きながら、身体の全ての力を失って行った。

まだその蒼い瞳はキラキラと澄んでいるけれど、もうそこに命はなく、急激に只の美しい造り物と化した。
まだ温かく、柔らかく、先程までと何ら変わりがないのに、先程までとは大きく違う。

そっと瞳を閉じてあげてマジマジ見詰めれば、まるでちょっと疲れて眠ってるだけの様だった。

でももう彼は還らない。

彼は死んだ。

僕が殺したんだ。

僕は終わらせたんだ。


「おやすみ、愛してるよ。」

そう声掛けて、彼の口を袖で拭って口付けする。

目を閉じてゆっくり、自分のしたことを噛み締めながら口付け、ソファに靠れて息を吐く。

これで終わりだ。


彼の後を追う為に残しておいたリコリスの摺り下ろしを取ろうとして、僕は己の変化に気付いた。

「……あれ?」

ごとり、と僕の腕の中から落ちた死体が床で重い音を立てる。

不思議な事に、僕の中から、彼に対する想いが綺麗サッパリ消えていたのだ。あんなにも燃え盛って、何をしても消えないと思ってた炎が。

「なぁんだ……。」

無理な体勢を続けていた為に軋む身体を伸ばしながら立ち上がり、僕はヤレヤレと足元を見下ろす。

コツリ。

死体の下敷きになっていた足を引き抜いた弾みに、握り締めた手が緩んだのか、死体から何か転がり出てきた。

「ナニ?コレ…」

何となく見覚えが有って拾ってみれば、それは僕が暖炉に捨てたオニキスのピアスとカフスだった。
熱で溶けたのか、灰に塗れて歪になり、何だかザラザラしている。

「態々灰の中から拾ったの?」

問い掛けても、死体は眠った様な顔して答えない。
只僕の独り言だけが部屋に響いた。

良く見れば、彼の耳には失くした筈のもう片方のピアスが嵌っていたし、カフスをリメイクしたらしきブレスレットをしている。

以前まではこんなもの、着けてなかった筈なのに……。

取り敢えずもう一度握らせて置こう。
そう思って開いた彼の手は幾つか火傷を負っていた。

まるで、火の中の熱された小さいものを拾って、握り締めたような痕。

「燃えてるのを拾ったの?うわぁ、無茶するなぁ。」

問い掛けても誰も何も答えない。

どうして失くした筈のピアスとカフスを彼が身につけてるんだろう。

どうして態々火の中から拾ったんだろう。

どうして最後、これを握り締めて僕に見せたんだろう。

どうして抵抗しなかったんだろう。

怒らなかったんだろう。

最期、何が言いたかったんだろう。



結局僕は、最後まで彼を理解することが出来なかった。



はぁ……。

ため息を一つ落として、再び立ち上がる。
握らせても握らせても弛緩した指の間からピアスとカフスは擦り抜け、もう諦めた。

転がるピアスとカフスと死体になっても美しい彼。
でも、その艷やかな黒髪も、整った横顔も、何ら僕の心を動かさない。

一体、何故あんなにも狂おしく愛しかったのか。

一目みて衝撃を受け、その後色んな酷い事をされても冷めなかったんだから、この見た目が好きだったんだと思うんだけどな…?

愛してた記憶はちゃんとあるのに、後を追うつもりだったとか、考えただけでもゾッとする程僕の気持ちは冷え切っていた。

死体に口付けたのを思い出し、唇を袖で荒く拭って総毛立つ二の腕を擦る。

どうしてこうなったのか考えても判らなかった僕は、キッチンにヨロヨロと向かって一粒残っていたマンドラゴラの実を口に放り込み、ゆっくりと風呂に入る。

そして、しっかり洗って清潔な服に着替えた僕は、最低限の物だけポケットや巾着に突っ込み、部屋に火をつけて森へと逃げ込んだのだった。





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