【R18完結】リコリスの花は微笑む〜執着クズ攻に酷い目に遭わされて悪堕ちするけど悪堕ちした幼馴染攻が追掛けて来て幸せになる話〜

syarin

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1: ★僕の地獄の様な幸せ。

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ぐぅ~……うっ!うぅ…

意志とは関係なく喉から絞り出る音に、僕に覆いかぶさっていた男が獣じみた笑顔を浮かべる。

「お、ここかぁ?ここがイイんだな?…ハァ、奥が痙攣してきたぞ、超気持イイ…!」

なんて言って腰の動きを激しくする男が何処か、カクカク動く子供の玩具じみていて、僕の頭の片隅がクスリと笑う。

コレは快楽なのか、苦しみなのか。
アチコチ痺れて感覚が無くなり、じんじんとした熱を感じるばかりだ。
只、内臓を蹂躙される刺激に、圧し掛かられる重みに、身体が出鱈目に跳ねて喉から音が絞り出される。

一体どうしてこんな事に…。
確か、小遣い稼ぎのギルドの小間使いを終えて、久し振りに彼から呼び出されて……。

ぼんやり見える男の右肩の先、黒髪の男が少し離れたソファに座ってる。
何でも無い様な顔をして、タバコをふかす横顔。

「ふっ…ぐゥゥッ!!」

不意に身体の芯を貫く衝撃。
男が一際奥をこじ開けて、思わず僕はのけ反り、声にならない声をあげた。
腕を後ろ手に拘束され、足を開いたままギッチリと縛られた僕は、被せられたクタクタの枕カバーの中で猿轡にされたタオルを舌で精一杯押し、少しでもこの刺激から逃れようと身を捩る。
首を振った弾みに涙が目の前のカバーを濡らし、僕を蹂躙する男の鎖骨のホクロを一際ハッキリと見せてくれた。

そう、顔に被せられた枕カバーは使い古されて薄く、不明瞭ながらもかなり見えるのだ。
目の前の男の下卑た顔も、面白そうに此方を眺めながら酒を飲んでる順番待ちの男共の顔も、その向こうで平然とタバコをふかして暇を潰してる、僕をこんな目に遭わしてる彼の横顔も。

この布は、僕に彼等を見せない為のものではなく、彼等が僕に萎えない為の配慮なのだ。

彼は、僕を売った事も、それに対してちっとも罪悪感が無い事も、僕に隠すつもりが無いのだ。

その事がただ、ただ悲しくて。

涙が止まらなくて。

僕は枕カバーの中でタオルを噛み締めて泣いていた。


無造作に波打つ黒髪、端整な横顔、タバコをふかす白くて長い、角張った指。冷めた蒼い瞳。

ああ、それでも。

それでも狂おしい程彼を愛している自分が憎い。

胸の内から迸る彼への熱情が、燃え盛る炎が、どんな事をされても消えてくれないのだ。

一体何故彼なのか。一体何故僕なのか。

どうせなら、僕を好いてくれていた、何度も僕の為に泣いてくれた花屋の息子のエヴァンでも良かったじゃないか。
こんな平民の僕じゃなく、こないだ不貞を働いた挙げ句に勝手に婚約破棄を宣言したと廃嫡された王太子様に宿って公爵令嬢を生涯愛してたら良かったじゃないか。
きっとドラゴンを一撃で屠る様な最強の王子様が生まれてこの国の未来は超安泰だったんじゃないかな。良く判んないけど。

「おお、すっげ。奥の奥に出すと垂れてこないってホントなんだな。」

最後の一滴まで搾り出すような抽挿の後、ナニを引き抜いた男が僕の尻をしげしげ眺めながら言う。
その言葉に他の男達も群がってきて、人の体をやいやいと面白おかしく品評してくれる。どれも知ってる顔、知ってる声。騎士学校に通う彼の悪友達だ。

(ああ、借りた呑み代、金で返したくなかったのかな…。それとも、いつも奢ったりしてくれてるからちょっとお礼に、てトコかな…。)

僕の感度の良さに、良く仕込んだなと褒める声、次は俺だと嬉しそうな声、一巡するまでは余り汚してくれるなよ、と不満がる声。
どれも何処か遠くの会話のように心から追い出して、僕は只管タオルを噛み締める。


思い出すのは初めて出逢った日。

ミサの後、僕は急いでいて、いつも一緒だったエヴァンはその日風邪で休んでいた。
だから、いつもみたく寄り道せずに近道で帰ろうと裏通りを進み、そこで、教会に入らず時間を潰していた彼と出逢った。

一目彼を見た途端、まるで心臓が止まったかと思う程の衝撃。

ああ、ホント、あの時心臓が本当に止まってくれていたならば、僕はこんな苦しい日々を送らず、彼と出逢えた幸せの絶頂のまま人生に幕を降ろせただろうに……。


ーーー
ーーーーー


僕を犯す男達の楽しそうな笑い声が聞こえる。

タオルを噛み締めてくぐもった音を出すしか出来ない僕を快楽に溺れてる幸せ者だと言い、身を捩るしかできない僕から身を捩る事すら奪おうとしながら、その様が可愛いと笑う。

何度腹に白濁を注がれたか…。

僕の呻き、グポグポと奥を貫く音、卑猥な水音が埋め尽くす室内。
カランと涼し気な音が場違いに響き、耳にこびり付く。

彼は静かに高そうな酒を味わっていた。

ロックグラスの氷が、揺れる灯りを纏って艶りと回る。
仄かに上がった口角は、まるで僕達などココに存在しないようだった。

彼が、これ以上ガタイが良くなると萎える、と言ったから、頑張って食事を減らした細く華奢な僕の身体。

彼の為の僕の身体。

男達は軽々持ち上げ、ひっくり返し、様々な体位で嬉しそうに僕のナカに白濁を撒き散らした。

華奢で柔軟な身体は奥の奥が暴きやすいと、白い肌が赤くなって愛らしいと、僕だけに聞こえる様に男達が囁いてくる。
獣欲に塗れた瞳に一抹の愛着が見える。

ああ、せめて僕の熱情の矛先がこの男達の内の誰かだったなら、ここまで酷い目には遭ってなかったんじゃないかな。

なのに、どうして、僕はこんなにも彼を愛してやまないのだろう。

冷え切った肌に己の涙が燃える様に熱い。
彼は一度も、その冷めた蒼い瞳を此方に向けてくれない。

ああ、それなのに。

ああ、それでも。

それでも、僕は……。


ーーーーー
ーーー



それからどれ位経ったのか。
いつの間にか枕カバーや拘束を外された僕は、齎される刺激に、訳も分からず叫び声を上げる自分を頭の片隅の水底からぼんやり見つめていた。

ぽっこり腹が膨らむ程白濁を注がれた後、ただヤるのに飽きてきた男達の玩具となった僕は、勢い良く腹を押されて下品に白濁をひり出す様をゲラゲラと嘲笑われ、根本を縛ったまま只管ナニを扱かれ、ナカのしこりを押され、無限に続くかと思う絶頂を味合わされ乞われるままに卑猥な言葉や懇願を叫び続けた。

かと思えば、身体の中の水が全部出るのではと思う程白濁や潮を射出させられ、細い棒でナニの中を扱かれ、誰が一番上手くセルフ顔射させられるか選手権だ等と言って自分の顔面に何度も自分の白濁や潮を掛けさせられた。
上からも下からも沢山の白濁を注がれた。

今思えば、時々彼が参戦していた様な気がするが、朦朧としていた僕は只、齎される刺激に対して喘ぐだけだった。

何か言われた気がするが良く覚えていない。
もう辛くて、苦しくて、喘ぐ以外はずっと謝っていた様な気もするが、まるで夢でも見てたかのように、掴もうとすると記憶は霧散し、指の間からすり抜けて行く。

「イテテ……。」

だが、記憶は霧散しても、身体に刻まれたものは残る。
動きの怪しい関節、アチコチに散る赤い吸い痕、ベタベタを通り越してガビガビになった寝具に肌に髪…。

一体あの宴は何日続いたのか、散乱するゴミで見知らぬ部屋と化した自室をノロノロと進み、浴室へと向かう。

湯をためながらふと鏡を見れば、華奢だと男達に口々に褒められた身体は、至る所に手形と痕が付いていた。

乱れ散る小さな赤い吸い痕、大きな指の痕。

それはまるで、昔良くエヴァンと遊んだ森に咲くリコリスの花の様で、何だかストンと全てが腑に落ちた気がした。

赤いリコリスの花。
夥しい数が一気に咲いて森に赤いカーペットを形作る、ちょっとした衝撃でポキッと茎が折れてしまう程繊細で美しい花。

昔、僕が好きだと言ったら、エヴァンが両手いっぱいの花束をミサの帰りに摘んでくれたっけ。
あれは何処だったか、森の南西の大ナラと三つ子池の間だったような……。

二人で歩いた小径、木漏れ陽に揺れるエヴァンの麦藁色の襟足、ツヤツヤした葉っぱ色の瞳とソバカスだらけの笑顔、青い森の香り……。
もうどうあっても、あの頃の僕には戻れないのだと思うと、涙が出た。

至る所をヒリつかせながら、髪を洗い、身体を洗い、ナカを洗って全身を禊ぐみたいに水で濯ぐ。

そうして、ギシギシと身体を軋ませながら浴室を出れば、そこには気怠げな顔してソファでタバコをふかす黒髪の男がいた。

「汚ねぇ部屋。マダ片付けて無かったのかよ……。」

吸い殻が山盛りで灰皿が使えないからと、彼はテーブルに押し付けてタバコを消すと、無言でベッドへと向かった。

ガラガラどしゃん!と色々なモノが倒れる音がして重たい顔を上げて見れば、彼が汚れた布団やシーツを引っ剥がして床に投げ捨てていた。
転がってくるビール、ワイン、ウィスキー、ジン等の空瓶。
……僕はお酒を飲まないのだけど、酒瓶てこうやって見ると色とりどりで結構キレイなんだな。

「さっさとケツ出せよ。」

体も頭も回らなくて硬直していると乱暴に手を引かれる。

"あっという間"という言葉があるけれど、身体中が軋んで悲鳴を上げてる間に剥き出しのマットレスに押し倒され、ズボンを降ろした尻を高くあげた四つん這いにさせられる。
正直もう身体が限界で、少し休ませて、とか、手加減して、とか言おうと思ったら、何かがぼふんと頭の上に落ちてきた。
ソファに置いていたクッションだ。

グリグリと、マットレスに顔を埋めて窒息させる勢いの押し付けに涙が溢れてくる。

だけどそんなのお構い無しに、熱い屹立は僕のナカにゆっくりと侵入ってきて、開戦の合図みたくグルリと円を描いた。

まざまざと感じさせられる、彼のカタチ…。


僕の願いは一つ、彼の"特別"になりたかったんだ。

素敵な彼が、愛おしそうに微笑んでくれる存在に。

大事なモノでも扱うかの様に触れる存在に。

でもどうやら、どう足掻いても僕にはなれないらしい。
彼にとって僕は穴で、財布で、他人に貸したらちょっと喜んで貰える程度のモノなんだ。

「なぁ、俺のこと、愛してるか?」

なのに、不意に掠れた声が降ってきて、その一言だけで胸に熱いものが迸り、火花を散らす。
止まりかけた涙がぶわりと溢れて視界を滲ませる。
僕のナカがヒクヒクと波打って彼の屹立に抱擁をする…。

「……ぐすっ…あ、愛してる……!」

「へぇ、そりゃ…ご愁傷さま。」

悲しいけど嘘なんかつけなくて、苦しいけど胸の炎が消えなくて、僕は泣きながら吐露する。
そんな僕をせせら笑うように抽挿を激しくする彼。

でも、その彼の声が何処か安堵を孕んでいて、それだけで、何もかも許してしまう自分がとても憎い。

「オラ、もっと締めろよ!それともナニか?ケインのデカマラを知った後じゃぁ、俺のじゃ満足出来ないか?」

「ヒィッ!アッ……ぁアアッ!」

グポッと一際大きな音を立てて、奥を乱暴に暴かれる。
強過ぎる刺激に僕が背を弓形にして震えれば、落ちたクッションの向こうで満足そうに笑う気配がした。

「ほら腰上げろ!そのちっせぇチンコも可愛がってやるからしっかり締め付けろよ♪」

「やっ…も、ダぁぁアッーーー!」

「逃げんなコラ、トーラに前と後ろ両方されてあんなヨガってたろ。」

「それとも、ジャスパーがやってた尿道何とかってのの方が良かったか?誰に突っ込まれてもヒィヒィ嬉しそうに啼きやがって…!」

僕を激しく突き上げながら、彼が苛ついた声で色んな事を言ってくる。
だけど正直、悪友達と一緒にいる彼に声を掛けた事は何度か合ったけど、一度も紹介して貰えなかった僕には、誰がケインで誰がトーラでジャスパーなのかさっぱりだ。

辛うじて、ナニに棒を入れてきた人は金髪だった気はするのだけど、……でも、もしかしたらそれは暴れるなと僕を抑え付けてた人かもしれない。だから、やっぱり誰が誰だったのかさっぱりだ。

「おい、何とか言えよ。」

「ごめん、な、さ…ァァァ!ご、ごめんなさいぃ!」

僕をひっくり返してマットレスの上に仰向けにした彼が、僕の膝が顔の横にくる位に僕を二つ折りにして奥に叩きつけるように突いてくる。
その苛ついた態度に、誰がデカいなんて尻の感覚が麻痺して判らなかったとか、そもそも誰が誰とか判りませんなんて、とても言えなくて、僕はただ謝るしか出来なかった。

そんな僕を、いつもとは違う感情の篭もった昏い蒼の瞳で見つめてくる彼。
だけど、その感情がどういったモノなのか、自分で僕を売っておいて、この嫉妬にも見える行動はどういう意味なのか、僕には読取れなかった。

ただ狂おしい程愛しいだけで、僕は一度も彼を理解できた事等無いのだ。

ああでも、こんな風に感情を感じる瞳で見つめて貰えるのは後何回だろう。

リコリスの花を思い出した僕は何処か余裕で、ぼんやりそんな事を考えた。
息をするのも忘れるような鋭い刺激が脳髄を何度も貫き、手足が出鱈目に跳ね、口からは悲鳴に近い音が絶え間なく出たけれど、思考はまるで遠い泉の水底にあるようで、不思議と僕は何処か余裕だった。


そして……。



ーーー
ーーーーー


ふと気が付くと僕は一人真っ暗な部屋でベッドに寝ていた。

相変わらず軋む身体を起こせば、いつもこんな時はガビガビしてる体が心無しかスッキリしていて、剥き出しだったマットレスの上には仕舞ってたはずのテーブルクロスが掛けられ、その上に寝かされた僕はバスタオルを掛け布団にしていた。

起きれば、あれだけ転がってた酒瓶が一つも無くなってる事に気付く。

屋台のパンやサンド、惣菜などの包み紙は相変わらず散在しているけれど酒瓶が一つも無くて、まるで僕の部屋でも、あの見知らぬ部屋かと思う程荒れた部屋でも無い、又別の部屋に放り込まれた様な気分だった。
少しはスッキリしていたと言っても未だベタつく身体を浴室でゆっくりと洗い、部屋に戻る。

一瞬、ソファに座る気怠げな彼の幻を見たが、今回はそんな事もなく、僕は軋む身体を引き摺って文机へと向かった。

魔法の火種を火口に写し、ジワジワ火が熾る暖炉に引出しの中を全て捨てて、部屋を出る。

引出しの中に詰まった沢山のエヴァンから貰ったもの。
僕の思い出。

覚えたての拙い字で書いてくれた手紙、一緒に写した聖歌の楽譜、色んな花の木彫のペンダント…。
そして、そんなエヴァンからの思い出の片隅に転がる片方だけのオニキスのピアスとカフス。

要らないからとくれた、片方を失くしたピアスとカフス。
彼がくれたのはたったこれだけなのに、どうしてこうも僕の熱は彼に向けて燃え盛るのだろう。

だけど、そんな考えても仕方ない事を考えるのもこれが最後だ。

僕はもう、エヴァンと仲良く遊んでただけのふわふわと幸せな頃には戻れない。
けれど、こんな身を焦がす苦しみからもオサラバするんだ。

なんて考えながら歩き、ふと、久し振りに羽織った外套の内ポケットをまさぐれば、コロリとエヴァンがくれたリコリスの花を彫ったペンダントが。

そういえばコレは特にお気に入りで、何処かの服のポケットに入れっぱなしになってるのが常だったっけ……。
何だか捨てられなくて、そっと口付けをしてから首を通す。

そう言えば、退屈した彼が

「模様を足してやる。」

って言って違うペンダントにタバコを押し付けたから、あれ以来着けなくなったんだっけ……。

街の通りは沢山の人夫や馬車で溢れていた。どうやら目覚めたのは深夜で、ノロノロと身体を洗ってるうちに明け方になっていたようだ。
軋む身体を引き摺る身に街の活気は攻撃的で、何度もぶつかられ、怒声を浴びせられながら僕は森に辿り着く。

サクサク、耳に心地好い音。

踏みしめる草が青い香りを放つ。一歩街道を外れると、そこはもう静寂。

蒼い木漏れ陽が僕の強張った身体をゆっくり解してくれた。
ゆっくり歩きながら、手前で買った屋台のサンドイッチを頬張る。

ビックリする位の美味さだ。

思わず出た涙に、一体僕は何日ご飯を食べてなかったんだろうか、それともこの決心が極上のスパイスになってるのだろうか、なんて考えながら歩く。

森はとても優しく、僕は小川で喉を潤し、日の当たる丘や木陰でうたた寝して身体を癒やしながら進んだ。

「女神サマ~♪女神サマの~ォ♪」

ぺセリ、テージ、ローズメリーにトイム。野草に薬草、それから……。
聖歌隊を辞めて以来歌ってなかったから、低くなった声での歌い方が判らない。それでも調子っ外れの歌を口ずさみながら、僕は出会う薬用植物達を摘んでいった。

「あ~…美味しい♪」

カリリ、と翡翠色の球体が僕の犬歯に割られて口の中に爽やかな果汁をまき散らす。
群生する実付きマンドラゴラを見つけ、ありがたく頂戴した僕は、恋に効くとか媚薬だとかいう噂の効果は一切表れず、ただ身体の軋みや違和感が治って凄く元気になった。

そりゃそうだ、普通に回復ポーション類の基礎材料だもの。
何だか幸先良いな♪妖精にでも応援されてるんだろうか。

そんな感じで半ば休み、半ば遊びながら進んだせいで目的のリコリス群生地についた頃には日は傾いていた。
けれど、妖精の応援を信じて疑わなかった僕はそのまま、今はただの草むらにしか見えない群生地の真ん中でグッスリ眠ったのだった。


ーーーーー
ーーー



次の日、地中で眠る僕とリコリスの精が目覚めて一斉に咲き誇るという願望丸出しな夢を見た僕は、ご機嫌で街への帰路につく。

真っ黒になった手の中にリコリスの根茎、ポケットには沢山の薬用植物を詰め込んで……。

でも、僕のご機嫌は残念ながら長く続かなかった。
ちょっと考え事をしていた僕は、大通りの途中から誰かに尾行られてるのに全く気づかなかったのだ。

「あっ!」

部屋の鍵を開けた途端、ドン!と後ろから押し込まれる。
コロコロとアチコチに散らばっていく樹の実や種達。

床に転がった僕を見下ろしていたのはとても不機嫌な顔をした彼だった。

乱暴に髪を掴まれ、目の前にボロリと提示される彼の彼。
恐る恐る口を開ければ、息をする事すら許さないとばかりに顔面を下腹に埋められて。

その日はもうマットレスにすら上げられず、僕は床で上も下も蹂躙し尽くされた。


ーーー
ーーーーー

どの位床で寝ていたのか…。
着ていたものを全て裂かれ、裸で冷たい床に転がっていた僕の身体は自分史上屈指のボロボロ具合だったけど、マンドラゴラの実を数粒持ち帰っていたお陰で回復は早かった。

自分の為に使うつもりだったけど、やっぱり彼に使おうと思い直してリコリスの根茎を手にキッチンに向かう。
それから、全部の準備が整うまで三日掛かった。

まぁ、僕が途中で疲れて丸一日寝てたのもあるけど……。



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