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第5章 ファイナイト
Interlude
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青緑のガキは勘違いをしていた。
わしのグラインドは「頑丈で治癒力が異常に早い」などという物ではなく、正真正銘「不死身」だったという事だ。
だからこそ、わしは今もこうして生きている。と言っても、既に身体は失った。意識とグラインドの力が結びつき、ここに存在する超高温の鉄かなんかの液体金属って奴の一部と化している。
その液体金属にも随分馴染んできた。このままいけば、わしは液体にも固体にも自由に変化できる身体を持てる。そうなれば、ここから這い上って地上に戻る事も難儀ではない。
そして、あの青緑のクソガキにリベンジマッチといこうじゃねぇか。あんな甘ったれたクソガキ、このわしが叩きのめしてくれる。
そう考えていた時だった。信じ難い現象が起きた。温度5000℃近くあるこの液体金属の中に、人がいた。初めは錯覚だと思ったが、間違いなく人の形をしている。
「ひやー、あっついあつい! なーんで僕がこんな熱苦しい所まで、わーざわざ来なくちゃいけないのかねー?」
喋った。この超高温の液体金属の中でだ。筋肉もない、ひょろひょろの身体をしてやがる。そして、なんとも趣味の悪い銀縁眼鏡をかけている。無造作な髪は綺麗に真っ白だ。
「ひょろひょろで悪かったねー。え? 想にリベンジマッチだって? ヌハハハハッ! やーめときなよ! 君が敵うわけないだろ?」
こいつ。俺の意識の声が聞こえているのか。なんだこいつは? 本当に、人間なのか?
「ブルータル、だったね。君の名前は」
と、そいつは銀縁眼鏡の奥からしっかりと、真っ直ぐに、わしを見る。この液体金属の中でわしを視認する事などできないはずだが、この白髪の男はわしの意識エネルギーの場所を確実に捉えている。
「想は勘違いしていると、言ったね? 半分正解だが、半分間違いだ。想は確かに君の能力を勘違いしていた。だが、勘違いする事によって己を奮い立たせ、結果的にこうして君をここに閉じ込める事に成功したわけだ」
こいつは、何を言っているんだ? あの青緑のガキと何の関係があるんだ?
「想は、ほぼ無意識のうちに君をここに閉じ込めた。だが、想のグラインドは理解していた。あのグラインド、『ラスト・スマイル・フォー・テラ』は最強だからね。何を理解していたかって? 不死身の君を殺す唯一の方法さ」
わしを殺すだと? 馬鹿げている。不可能だ。不死身のこのわしを殺す事などできない。
だが、銀縁眼鏡をかけた白髪の男は、そんなわしの意識の声を嘲笑うかのように、静かに微笑んでいる。底知れぬ不気味さを携えていた。
「ファイナイトの裁審期間中だったからねー。他のオリジンは地球に直接干渉できない決まりなんだ。だから、そのファイナイトを倒すまで、君をここに閉じ込めておくことが最も得策だと、想のグラインドが判断したんだ」
ファイナイト? 知らない名前が出てきた。誰だ? わからん。
グラインドが判断だと? そんな事が出来るわけない。生き物でもあるまい。
「つまりだー。君を殺す唯一の方法、それはー……この僕を使うって事なのさ!」
そう言うと、奴は何が面白いのか腹を抱えて笑い出した。
「ハハハハ! 実に愉快だと思わないか? 自分の望みのために、憎悪のために、この僕を引っ張り出したんだ! すごい男だよ想は!」
この男は、異常だ。いや、わしにもその理由はわからないが、わしの内に残っていた何かが、危険だと訴えかけている。
「なぁ、君は僕の大事な人を殺したんだ。わかっているのかなぁ? 僕もさー、すごく頭にきているんだ。ずっと君を殺したかったけど、我慢していたんだ。だから、想の思惑には喜んで乗るよ」
あぁ。その言葉を聞いて、そして奴の光のない瞳を見てわしは理解した。ここで闘いを挑んでも、絶対にわしは、こいつに勝てない。わしはこれから、確実に死ぬ。
そして、死ぬ間際に浮かんだのは何年も前に死んだ女房の顔ではなく、よりにもよってあの倅の顔だ。あいつもわしを殺したい程憎んでいた。
「さぁ、とくと味わえブルータルよ! これが! 死だ!」
白髪の男が狂気の笑顔を浮かべ、今までに感じた事のない恐怖がわしを襲っ――――。
All things lead to "C"
わしのグラインドは「頑丈で治癒力が異常に早い」などという物ではなく、正真正銘「不死身」だったという事だ。
だからこそ、わしは今もこうして生きている。と言っても、既に身体は失った。意識とグラインドの力が結びつき、ここに存在する超高温の鉄かなんかの液体金属って奴の一部と化している。
その液体金属にも随分馴染んできた。このままいけば、わしは液体にも固体にも自由に変化できる身体を持てる。そうなれば、ここから這い上って地上に戻る事も難儀ではない。
そして、あの青緑のクソガキにリベンジマッチといこうじゃねぇか。あんな甘ったれたクソガキ、このわしが叩きのめしてくれる。
そう考えていた時だった。信じ難い現象が起きた。温度5000℃近くあるこの液体金属の中に、人がいた。初めは錯覚だと思ったが、間違いなく人の形をしている。
「ひやー、あっついあつい! なーんで僕がこんな熱苦しい所まで、わーざわざ来なくちゃいけないのかねー?」
喋った。この超高温の液体金属の中でだ。筋肉もない、ひょろひょろの身体をしてやがる。そして、なんとも趣味の悪い銀縁眼鏡をかけている。無造作な髪は綺麗に真っ白だ。
「ひょろひょろで悪かったねー。え? 想にリベンジマッチだって? ヌハハハハッ! やーめときなよ! 君が敵うわけないだろ?」
こいつ。俺の意識の声が聞こえているのか。なんだこいつは? 本当に、人間なのか?
「ブルータル、だったね。君の名前は」
と、そいつは銀縁眼鏡の奥からしっかりと、真っ直ぐに、わしを見る。この液体金属の中でわしを視認する事などできないはずだが、この白髪の男はわしの意識エネルギーの場所を確実に捉えている。
「想は勘違いしていると、言ったね? 半分正解だが、半分間違いだ。想は確かに君の能力を勘違いしていた。だが、勘違いする事によって己を奮い立たせ、結果的にこうして君をここに閉じ込める事に成功したわけだ」
こいつは、何を言っているんだ? あの青緑のガキと何の関係があるんだ?
「想は、ほぼ無意識のうちに君をここに閉じ込めた。だが、想のグラインドは理解していた。あのグラインド、『ラスト・スマイル・フォー・テラ』は最強だからね。何を理解していたかって? 不死身の君を殺す唯一の方法さ」
わしを殺すだと? 馬鹿げている。不可能だ。不死身のこのわしを殺す事などできない。
だが、銀縁眼鏡をかけた白髪の男は、そんなわしの意識の声を嘲笑うかのように、静かに微笑んでいる。底知れぬ不気味さを携えていた。
「ファイナイトの裁審期間中だったからねー。他のオリジンは地球に直接干渉できない決まりなんだ。だから、そのファイナイトを倒すまで、君をここに閉じ込めておくことが最も得策だと、想のグラインドが判断したんだ」
ファイナイト? 知らない名前が出てきた。誰だ? わからん。
グラインドが判断だと? そんな事が出来るわけない。生き物でもあるまい。
「つまりだー。君を殺す唯一の方法、それはー……この僕を使うって事なのさ!」
そう言うと、奴は何が面白いのか腹を抱えて笑い出した。
「ハハハハ! 実に愉快だと思わないか? 自分の望みのために、憎悪のために、この僕を引っ張り出したんだ! すごい男だよ想は!」
この男は、異常だ。いや、わしにもその理由はわからないが、わしの内に残っていた何かが、危険だと訴えかけている。
「なぁ、君は僕の大事な人を殺したんだ。わかっているのかなぁ? 僕もさー、すごく頭にきているんだ。ずっと君を殺したかったけど、我慢していたんだ。だから、想の思惑には喜んで乗るよ」
あぁ。その言葉を聞いて、そして奴の光のない瞳を見てわしは理解した。ここで闘いを挑んでも、絶対にわしは、こいつに勝てない。わしはこれから、確実に死ぬ。
そして、死ぬ間際に浮かんだのは何年も前に死んだ女房の顔ではなく、よりにもよってあの倅の顔だ。あいつもわしを殺したい程憎んでいた。
「さぁ、とくと味わえブルータルよ! これが! 死だ!」
白髪の男が狂気の笑顔を浮かべ、今までに感じた事のない恐怖がわしを襲っ――――。
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