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第5章 ファイナイト
5-38 最後の笑顔
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「クアルトとは何なのだ!? ぬしはさっきから何を言っているのだ!?」
そう狼狽えたファイナイトの腹を僕は容赦なく殴る。
「さぁ、決着をつけようか。ファイナイト」
僕の拳によってファイナイトは上空に跳ね飛ばされる。そのファイナイトに向けて、僕は光のレーザーを放つ。ファイナイトが扱う物と同等、いやそれ以上の物を、グラインド「ラスト・スマイル・フォー・テラ」によって生成する。
「小癪な! 我は、我は、負けぬ!」
ファイナイトは僕の放ったレーザーに対抗し、自身も光のレーザーを放っていくが、圧倒的な力の差に、ファイナイトのレーザーは破壊されていく。
「そろそろ降参した方がいいんじゃないのー? 今、地球上でそーくんに敵う奴はいないよー?」
姉が宙に浮かぶファイナイトへと追い付く。宙で身体を横にし、くるくると横回転しながら左右交互に蹴りの連撃を放った後、重力を込めた拳を何発もファイナイトへと浴びせる。
「くぬごぼあぁっ! て、弖寅衣 煉美ぃ!」
姉の名を叫んだファイナイトだったが、その直後に超重力を発生させられ、インテグラル・バース後方にある大きな円盤へと吹き飛ばされる。
インテグラル・バース中央に向かって斜めに突き刺すように聳え、後方に広がるその広大な斜面を駆け登る者がいた。シクスだ。
「ファイナイト、あなたに最早勝ち目はない。私達3人は、世界最強の姉弟だ」
そう言って、シクスは宙に飛ばされたファイナイトに向け、走りながら巨大なカノン砲と重機関銃を同時に連射していく。
「ぬがががあっ! なんだ、この銃弾は!? こんな代物、地球上には存在しないぞ!?」
シクスの銃撃を受けながらも、ファイナイトは光の球体をいくつも放って爆発を連鎖させていく。
「当然です。想のグラインド、『ラスト・スマイル・フォー・テラ』によって私達も強化されているからです」
そう言って、シクスは円盤の斜面から跳躍して爆発を回避する。その高さは100mを越えていた。
「だが、それでも! 我は、退かぬ! 我の、オリジン・グラインドを舐めるな!」
自身よりも遥か上空に跳躍したシクスに向け、ファイナイトはレーザーを無数に放つ。今までにない質量を有した無数のレーザーが曲線を描き、ある物は屈折を繰り返して、複雑な軌道でシクスに襲いかかる。
だが、シクスは落下しながらも身体を回転させ、ひらひらと舞い、そして器用に柔らかく四肢を曲げ、そのレーザー網の僅かにできた隙間を見極め、全て回避してしまった。
「覚悟しろ! ファイナイト!」
落下してファイナイトへと迫ったシクスは、巨大な戦車砲を振り回してファイナイトを横殴りし、さらに膝蹴りからそのまま爪先を蹴り上げる。
更に上方へ飛ばされたファイナイトに向け、ロケットランチャーを高速で連射する。現実ではありえない技を成し遂げてしまう。
「おぶぁがっ! くっ、図に乗るな!」
ファイナイトは光のブレードでなんとか切り抜け、シクスに向かって突撃する。だが、シクスは落下しながらもファイナイトの腹を蹴りで突き、さらにそこからファイナイトの首を両足で挟み込む。
「いつまでも私が相手をしていると怒る人がいるので、この辺にしておきましょう」
そう言ってファイナイトの首を両足で挟んだまま、高速でぐるぐると縦回転し、ファイナイトの身体を放り投げた。
「やーっとだよ! そーくん、いこっか!」
姉は待ちくたびれたように言ったが、時間は1分程しか経っていない。僕は姉と共に宙を飛び、落下してくるファイナイトへ一直線に向かう。
「せぇーのっ!」
姉の掛け声に合わせ、僕と姉は同時にファイナイトの横顔に向け、後ろ回し蹴りで挟み込む。
「ぐっぎゃ!?」
強烈な挟み蹴りを食らったファイナイトは情けない声を出す。そこへ姉は重力を拳に込めて圧縮させる。
「うおーらぁー!」
ファイナイトの腹へ姉の拳が放たれ、解放された重力によって空間が歪み出す。
「この程度で、我が……潰れてたまるかー!」
そこでファイナイトは自身の足を光り輝かせて振り上げる。
だが、姉とファイナイトの間に僕が割って入り、その太腿に向けて拳を放つ。
「ぐぬわぁっ!」
ファイナイトは悲鳴を上げた。それも無理はない。僕が放った拳によって、ファイナイトの太腿を真空エネルギーが貫通し、綺麗に穴が空いていたのだ。
「お前が破壊をやめないなら、僕はお前を消滅させる」
僕はそう言って、2発の蹴りでファイナイトの両手を破壊した。
「残念だったね、ファイナイト。お前は、敵にしちゃいけない人を敵にした」
そう言って姉がファイナイトの肩を片手で掴むと、そこに超重力を発生させ、空間ごとファイナイトの肩が歪み出す。
「ぬぅぐおー! う、宇宙の理は、絶対だ! 理が、折れる訳にはいかぬのだ!」
そう言ってファイナイトは自身の周りに光り輝く球体をいくつも飛ばし、失った両手の代わりにそれで姉を殴っていく。
だが、姉はそれを見極め、重力を纏った拳で弾き飛ばしていく。
「まだやる気なら、徹底的に潰す!」
そう言ってファイナイトの腹に拳を当て、そのままインテグラル・バースの表面へと叩き付け、そしてその表面にファイナイトを擦り付けるように突き進んでいく。
「うぬおっ! 我は! ぶはっ! ごべあっ! 認めぬ!」
ファイナイトの身体を周囲の巨大な突起物にぶつけ、それを破壊しながら尚も姉は拳を突き当てて猛進する。
そして、端に聳える円盤の斜面へと辿り着くと、そこで一気に拳に纏った重力を膨大化させ、ファイナイトの腹を殴って円盤の斜面に叩き付けた。膨れ上がった重力の衝撃で巨大な円盤は割れてしまう。
「宇宙の理だぁ? そんなもんは、あたし達がぶっ壊す!」
そう言ってファイナイトの背中に蹴りを放って奴の身体を吹っ飛ばした。とてつもないスピードで、ファイナイトは太い塔へと激突する。
「そうだ。僕達は、不条理を粉砕する」
そう言って僕はファイナイトの前に立つ。
「そんなものは許されぬ! 崩れる訳にはいかぬのだ!」
ファイナイトは自身の身体を急速に回復させる。両手も新たに生成し、その両手から巨大な2本のブレードが伸びる。
「死ね! 弖寅衣 想!」
「嫌だ。お前を潰す」
ファイナイトは両腕の巨大なブレードを広げ、僕に向かって突撃してきた。
僕は白く輝く球体をいくつも出し、それを向かい来るファイナイトへと解き放つ。
「なっ!? これは我の!?」
ファイナイトが表情を歪めた直後、奴の周りに爆発が連鎖する。
「舐めた真似をするなー!」
その爆発からファイナイトが飛び出し、2本のブレードは光の槍へと変化する。爆発を伴うあの鋭利な槍だ。
「言った筈だ。お前を潰す」
僕はそう言い、ファイナイトの周りに黒い蛾を出現させる。
「なんだこの力は!?」
黒い蛾は戸惑っているファイナイトを包んで黒い炎と化していた。大きな黒い炎に飲まれ、ファイナイトは悶え苦しむ。
「僕は、エネルギーを自由自在に操れるんだ。それも言った筈だ」
そんな僕の言葉を聞いていないのか、ファイナイトは宙を上昇し、上空から光のレーザーを放っていく。
それに対し、僕もレーザーを放つ。だが、ファイナイトと同じ光のレーザーではない。紫外線を超圧縮したレーザーだ。
「これはっ!? このグラインドはっ!?」
量子エネルギーのレーザーをいとも容易く、紫外線レーザーが撃ち抜いていき、ファイナイトを縦横無尽に襲う。
更にファイナイトがいる周囲だけに猛吹雪を降らせる。
「姉さんは僕に教えてくれた。想像力こそが、戦いにおいて最も大事なものだと。その言葉があったからこそここまでやって来れた。凶悪な敵を倒し、乗り越える事ができた。それは僕の力となり、想像力の一部になっているんだ」
そう言った僕の左手に、僕の身の丈4倍もある巨大な斧が出現する。それが高熱によって赤く熱せられる。
「なんだそれは!? なぜ、ぬしが奴らの力を使う!?」
猛吹雪に包まれたファイナイトに向けて、僕はその巨大な高熱の斧を振り下ろす。そこに水蒸気爆発が生じた。
ファイナイトは息を切らしながら塔の上に立ち、その手に光の槍が再び現れる。いや、それは一瞬で巨大化し、都市規模の破壊を発生させたあの光の柱となった。
「我は! 絶対的な存在なのだっ!」
そう言ってその巨大な光の柱を振り下ろす。その軌道上には次々と爆発が発生する。
「がはっ! ぐはっ! なんだ、これは!? どうなっている!?」
光の柱を振り下ろしたファイナイトだったが、その身体は無数の刃に貫かれていた。インテグラル・バースの突起物や円盤、太い塔から生えた幾千もの刃が奴を一瞬で突き刺していた。
「僕のこの想いも、絶対的な想いだ」
刃に突き刺されたファイナイトの背後に僕は移動し、光の球体から刃を伸ばし、ファイナイトを突き刺して爆発させる。
「ぐはぶがぁ! はぁ、はぁ、ぬしの想いなど、知ったことかぁ!」
爆発によって吹き飛ばされたファイナイトは空中に静止し、再び光の柱を掲げる。その柱の周りに幾つもの光の球体を纏い、レーザーを伴いながら僕に向かってくる。
先程ファイナイトを突き刺した幾千もの刃は僕の右手に集まり収束し、それは1本の白い刀となり、僕はその切っ先を天に向けて掲げる。
そして、僕はその名を口にする。今まで見てきたどの技よりも美しく、儚げで、破壊的な技の名を。
「恒河沙一刀流奥義――――デストロイ・ジ・オポジション」
高速で飛び出すと共に、強烈な振り下ろしによってファイナイトの巨大な光の柱を一刀両断し、さらにその刀を振り下ろした勢いを止めずにそのまま回転へと繋げる。
「うおぉーっ!」
僕は声を上げていた。強烈な高速回転によって生まれた斬撃は、ファイナイトの横腹にのめり込む。その傷口から膨大な量の量子エネルギーが溢れ出る。そのエネルギー量に、僕自身も吹き飛ばされそうになるが、僕が生成した刀はそれを破壊し、ファイナイトを腹の位置で両断した。
「あいつ、剣精の技まで使ったのか!?」
両断されて墜落したファイナイトの近くに降り立つと、サターンのそんな声が聞こえた。
「当たり前だ。今のそーくんに不可能はない! よっ! サターン! ついに会えたな!」
「あ? 誰だおめぇ?」
姉がサターンに近寄りそう声を掛けたが、サターンの反応は当然のものだった。
「ぐはっ! ごぼあーっ! 弖寅衣 想、ぬしめ、我の回復機能を削ったか」
上半身だけになったファイナイトが白い血を吐きながら宙に浮いて言った。
「あぁ、そうだ」
僕の言葉を聞いたファイナイトは顔を歪ませたが、すぐに無表情に戻る。そして、その上半身は再び光り輝き出す。
「ならば、もう我に残された道は1つ!」
そう言ってファイナイトは眩く輝き出す。
「まさか? そんな事はさせるか」
そう言って僕は上空に浮かぶファイナイトへと飛び立つ。あまりの眩しさに目の前の光景は一面真っ白だが、奴の巨大な力がひしひしと伝わり、その位置も感じ取れる。
「我に残された全ての力を使い、この星を破壊する」
ファイナイトの声が聞こえた。
「それを防ぐのが僕の役目だ。この地球が紡いだ歴史の凝縮点が僕だ。この地球の声が、僕だ。地球に生きた人類の想いを! 人が紡ぎし絶え間ぬ愛を! 確固たる希望を! 全てを繋ぎ止め、その全てがここに収束される! これが、星の歌だ!」
僕の身体に、地球という星が持つ膨大なエネルギーが流れ込み、それを力に変えてファイナイトへと解き放つ。それは目の前の光を分解し、新たにエネルギーを生成しながらファイナイトへと襲いかかる。そのエネルギー波は、星を破壊し、星を生む力に等しい。それが星の歌だ。
破壊と再生を司るエネルギーは、青白く輝きながら空間を駆け巡るように広がっていく。そして、ファイナイト本体を貫き、ファイナイト自身が内包する法則を破壊していく。
だが、ファイナイトが放つ量子エネルギーが奴のオリジン・グラインドによって最大限に増大し、光の爆発を膨張しながら僕の身体を傷付けていく。
「守ると約束したんだ。そして、あの2人とご飯をまた食べるんだ。だから、ここで止める! ファイナイト!」
「地球もろとも吹き飛べ! 弖寅衣 想ー!」
ファイナイトの量子エネルギーが、奴の存在概念と融合し、その力に僕は飲み込まれていた。
だが、それでも、僕は負けはしない。今の自分に持てる全てを出し尽くす。星の歌は屈しない。
そして、あの人の笑顔を思い出す。あの笑顔が、いつだって僕に一歩踏み出す力をくれた。それを想うだけで、絶対に勝てると確信した。
ファイナイトの最後の力と、僕の力が混ざり合い、その境界すら僕自身も分からなくなってしまった。
そして、2つの力が衝突して発生した融合爆発と、僕自身の身体との境界すらも分からなくなる。もう僕は膨大な爆発エネルギーの一部になっているのかもしれない。
このまま全てと混ざり合って、消滅してもいいのかなとさえ思ってしまう。
だが、僕の隣に姉がいた。シクスもいた。こんな激しい融合爆発空域に2人は駆け付けてくれたのだ。
「いつだって一緒だ。隣にいるから」
姉はそう言って、僕の伸ばしていた腕に手を添え、微笑む。
「想、いつでも、いつまでも、支えていますよ」
シクスも僕の腕に手を添える。彼の口元も少し緩んでいた。
2人が手を添えてくれただけで、僕はまだ人間の姿を保っているのだと、そう実感した。
そう狼狽えたファイナイトの腹を僕は容赦なく殴る。
「さぁ、決着をつけようか。ファイナイト」
僕の拳によってファイナイトは上空に跳ね飛ばされる。そのファイナイトに向けて、僕は光のレーザーを放つ。ファイナイトが扱う物と同等、いやそれ以上の物を、グラインド「ラスト・スマイル・フォー・テラ」によって生成する。
「小癪な! 我は、我は、負けぬ!」
ファイナイトは僕の放ったレーザーに対抗し、自身も光のレーザーを放っていくが、圧倒的な力の差に、ファイナイトのレーザーは破壊されていく。
「そろそろ降参した方がいいんじゃないのー? 今、地球上でそーくんに敵う奴はいないよー?」
姉が宙に浮かぶファイナイトへと追い付く。宙で身体を横にし、くるくると横回転しながら左右交互に蹴りの連撃を放った後、重力を込めた拳を何発もファイナイトへと浴びせる。
「くぬごぼあぁっ! て、弖寅衣 煉美ぃ!」
姉の名を叫んだファイナイトだったが、その直後に超重力を発生させられ、インテグラル・バース後方にある大きな円盤へと吹き飛ばされる。
インテグラル・バース中央に向かって斜めに突き刺すように聳え、後方に広がるその広大な斜面を駆け登る者がいた。シクスだ。
「ファイナイト、あなたに最早勝ち目はない。私達3人は、世界最強の姉弟だ」
そう言って、シクスは宙に飛ばされたファイナイトに向け、走りながら巨大なカノン砲と重機関銃を同時に連射していく。
「ぬがががあっ! なんだ、この銃弾は!? こんな代物、地球上には存在しないぞ!?」
シクスの銃撃を受けながらも、ファイナイトは光の球体をいくつも放って爆発を連鎖させていく。
「当然です。想のグラインド、『ラスト・スマイル・フォー・テラ』によって私達も強化されているからです」
そう言って、シクスは円盤の斜面から跳躍して爆発を回避する。その高さは100mを越えていた。
「だが、それでも! 我は、退かぬ! 我の、オリジン・グラインドを舐めるな!」
自身よりも遥か上空に跳躍したシクスに向け、ファイナイトはレーザーを無数に放つ。今までにない質量を有した無数のレーザーが曲線を描き、ある物は屈折を繰り返して、複雑な軌道でシクスに襲いかかる。
だが、シクスは落下しながらも身体を回転させ、ひらひらと舞い、そして器用に柔らかく四肢を曲げ、そのレーザー網の僅かにできた隙間を見極め、全て回避してしまった。
「覚悟しろ! ファイナイト!」
落下してファイナイトへと迫ったシクスは、巨大な戦車砲を振り回してファイナイトを横殴りし、さらに膝蹴りからそのまま爪先を蹴り上げる。
更に上方へ飛ばされたファイナイトに向け、ロケットランチャーを高速で連射する。現実ではありえない技を成し遂げてしまう。
「おぶぁがっ! くっ、図に乗るな!」
ファイナイトは光のブレードでなんとか切り抜け、シクスに向かって突撃する。だが、シクスは落下しながらもファイナイトの腹を蹴りで突き、さらにそこからファイナイトの首を両足で挟み込む。
「いつまでも私が相手をしていると怒る人がいるので、この辺にしておきましょう」
そう言ってファイナイトの首を両足で挟んだまま、高速でぐるぐると縦回転し、ファイナイトの身体を放り投げた。
「やーっとだよ! そーくん、いこっか!」
姉は待ちくたびれたように言ったが、時間は1分程しか経っていない。僕は姉と共に宙を飛び、落下してくるファイナイトへ一直線に向かう。
「せぇーのっ!」
姉の掛け声に合わせ、僕と姉は同時にファイナイトの横顔に向け、後ろ回し蹴りで挟み込む。
「ぐっぎゃ!?」
強烈な挟み蹴りを食らったファイナイトは情けない声を出す。そこへ姉は重力を拳に込めて圧縮させる。
「うおーらぁー!」
ファイナイトの腹へ姉の拳が放たれ、解放された重力によって空間が歪み出す。
「この程度で、我が……潰れてたまるかー!」
そこでファイナイトは自身の足を光り輝かせて振り上げる。
だが、姉とファイナイトの間に僕が割って入り、その太腿に向けて拳を放つ。
「ぐぬわぁっ!」
ファイナイトは悲鳴を上げた。それも無理はない。僕が放った拳によって、ファイナイトの太腿を真空エネルギーが貫通し、綺麗に穴が空いていたのだ。
「お前が破壊をやめないなら、僕はお前を消滅させる」
僕はそう言って、2発の蹴りでファイナイトの両手を破壊した。
「残念だったね、ファイナイト。お前は、敵にしちゃいけない人を敵にした」
そう言って姉がファイナイトの肩を片手で掴むと、そこに超重力を発生させ、空間ごとファイナイトの肩が歪み出す。
「ぬぅぐおー! う、宇宙の理は、絶対だ! 理が、折れる訳にはいかぬのだ!」
そう言ってファイナイトは自身の周りに光り輝く球体をいくつも飛ばし、失った両手の代わりにそれで姉を殴っていく。
だが、姉はそれを見極め、重力を纏った拳で弾き飛ばしていく。
「まだやる気なら、徹底的に潰す!」
そう言ってファイナイトの腹に拳を当て、そのままインテグラル・バースの表面へと叩き付け、そしてその表面にファイナイトを擦り付けるように突き進んでいく。
「うぬおっ! 我は! ぶはっ! ごべあっ! 認めぬ!」
ファイナイトの身体を周囲の巨大な突起物にぶつけ、それを破壊しながら尚も姉は拳を突き当てて猛進する。
そして、端に聳える円盤の斜面へと辿り着くと、そこで一気に拳に纏った重力を膨大化させ、ファイナイトの腹を殴って円盤の斜面に叩き付けた。膨れ上がった重力の衝撃で巨大な円盤は割れてしまう。
「宇宙の理だぁ? そんなもんは、あたし達がぶっ壊す!」
そう言ってファイナイトの背中に蹴りを放って奴の身体を吹っ飛ばした。とてつもないスピードで、ファイナイトは太い塔へと激突する。
「そうだ。僕達は、不条理を粉砕する」
そう言って僕はファイナイトの前に立つ。
「そんなものは許されぬ! 崩れる訳にはいかぬのだ!」
ファイナイトは自身の身体を急速に回復させる。両手も新たに生成し、その両手から巨大な2本のブレードが伸びる。
「死ね! 弖寅衣 想!」
「嫌だ。お前を潰す」
ファイナイトは両腕の巨大なブレードを広げ、僕に向かって突撃してきた。
僕は白く輝く球体をいくつも出し、それを向かい来るファイナイトへと解き放つ。
「なっ!? これは我の!?」
ファイナイトが表情を歪めた直後、奴の周りに爆発が連鎖する。
「舐めた真似をするなー!」
その爆発からファイナイトが飛び出し、2本のブレードは光の槍へと変化する。爆発を伴うあの鋭利な槍だ。
「言った筈だ。お前を潰す」
僕はそう言い、ファイナイトの周りに黒い蛾を出現させる。
「なんだこの力は!?」
黒い蛾は戸惑っているファイナイトを包んで黒い炎と化していた。大きな黒い炎に飲まれ、ファイナイトは悶え苦しむ。
「僕は、エネルギーを自由自在に操れるんだ。それも言った筈だ」
そんな僕の言葉を聞いていないのか、ファイナイトは宙を上昇し、上空から光のレーザーを放っていく。
それに対し、僕もレーザーを放つ。だが、ファイナイトと同じ光のレーザーではない。紫外線を超圧縮したレーザーだ。
「これはっ!? このグラインドはっ!?」
量子エネルギーのレーザーをいとも容易く、紫外線レーザーが撃ち抜いていき、ファイナイトを縦横無尽に襲う。
更にファイナイトがいる周囲だけに猛吹雪を降らせる。
「姉さんは僕に教えてくれた。想像力こそが、戦いにおいて最も大事なものだと。その言葉があったからこそここまでやって来れた。凶悪な敵を倒し、乗り越える事ができた。それは僕の力となり、想像力の一部になっているんだ」
そう言った僕の左手に、僕の身の丈4倍もある巨大な斧が出現する。それが高熱によって赤く熱せられる。
「なんだそれは!? なぜ、ぬしが奴らの力を使う!?」
猛吹雪に包まれたファイナイトに向けて、僕はその巨大な高熱の斧を振り下ろす。そこに水蒸気爆発が生じた。
ファイナイトは息を切らしながら塔の上に立ち、その手に光の槍が再び現れる。いや、それは一瞬で巨大化し、都市規模の破壊を発生させたあの光の柱となった。
「我は! 絶対的な存在なのだっ!」
そう言ってその巨大な光の柱を振り下ろす。その軌道上には次々と爆発が発生する。
「がはっ! ぐはっ! なんだ、これは!? どうなっている!?」
光の柱を振り下ろしたファイナイトだったが、その身体は無数の刃に貫かれていた。インテグラル・バースの突起物や円盤、太い塔から生えた幾千もの刃が奴を一瞬で突き刺していた。
「僕のこの想いも、絶対的な想いだ」
刃に突き刺されたファイナイトの背後に僕は移動し、光の球体から刃を伸ばし、ファイナイトを突き刺して爆発させる。
「ぐはぶがぁ! はぁ、はぁ、ぬしの想いなど、知ったことかぁ!」
爆発によって吹き飛ばされたファイナイトは空中に静止し、再び光の柱を掲げる。その柱の周りに幾つもの光の球体を纏い、レーザーを伴いながら僕に向かってくる。
先程ファイナイトを突き刺した幾千もの刃は僕の右手に集まり収束し、それは1本の白い刀となり、僕はその切っ先を天に向けて掲げる。
そして、僕はその名を口にする。今まで見てきたどの技よりも美しく、儚げで、破壊的な技の名を。
「恒河沙一刀流奥義――――デストロイ・ジ・オポジション」
高速で飛び出すと共に、強烈な振り下ろしによってファイナイトの巨大な光の柱を一刀両断し、さらにその刀を振り下ろした勢いを止めずにそのまま回転へと繋げる。
「うおぉーっ!」
僕は声を上げていた。強烈な高速回転によって生まれた斬撃は、ファイナイトの横腹にのめり込む。その傷口から膨大な量の量子エネルギーが溢れ出る。そのエネルギー量に、僕自身も吹き飛ばされそうになるが、僕が生成した刀はそれを破壊し、ファイナイトを腹の位置で両断した。
「あいつ、剣精の技まで使ったのか!?」
両断されて墜落したファイナイトの近くに降り立つと、サターンのそんな声が聞こえた。
「当たり前だ。今のそーくんに不可能はない! よっ! サターン! ついに会えたな!」
「あ? 誰だおめぇ?」
姉がサターンに近寄りそう声を掛けたが、サターンの反応は当然のものだった。
「ぐはっ! ごぼあーっ! 弖寅衣 想、ぬしめ、我の回復機能を削ったか」
上半身だけになったファイナイトが白い血を吐きながら宙に浮いて言った。
「あぁ、そうだ」
僕の言葉を聞いたファイナイトは顔を歪ませたが、すぐに無表情に戻る。そして、その上半身は再び光り輝き出す。
「ならば、もう我に残された道は1つ!」
そう言ってファイナイトは眩く輝き出す。
「まさか? そんな事はさせるか」
そう言って僕は上空に浮かぶファイナイトへと飛び立つ。あまりの眩しさに目の前の光景は一面真っ白だが、奴の巨大な力がひしひしと伝わり、その位置も感じ取れる。
「我に残された全ての力を使い、この星を破壊する」
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「それを防ぐのが僕の役目だ。この地球が紡いだ歴史の凝縮点が僕だ。この地球の声が、僕だ。地球に生きた人類の想いを! 人が紡ぎし絶え間ぬ愛を! 確固たる希望を! 全てを繋ぎ止め、その全てがここに収束される! これが、星の歌だ!」
僕の身体に、地球という星が持つ膨大なエネルギーが流れ込み、それを力に変えてファイナイトへと解き放つ。それは目の前の光を分解し、新たにエネルギーを生成しながらファイナイトへと襲いかかる。そのエネルギー波は、星を破壊し、星を生む力に等しい。それが星の歌だ。
破壊と再生を司るエネルギーは、青白く輝きながら空間を駆け巡るように広がっていく。そして、ファイナイト本体を貫き、ファイナイト自身が内包する法則を破壊していく。
だが、ファイナイトが放つ量子エネルギーが奴のオリジン・グラインドによって最大限に増大し、光の爆発を膨張しながら僕の身体を傷付けていく。
「守ると約束したんだ。そして、あの2人とご飯をまた食べるんだ。だから、ここで止める! ファイナイト!」
「地球もろとも吹き飛べ! 弖寅衣 想ー!」
ファイナイトの量子エネルギーが、奴の存在概念と融合し、その力に僕は飲み込まれていた。
だが、それでも、僕は負けはしない。今の自分に持てる全てを出し尽くす。星の歌は屈しない。
そして、あの人の笑顔を思い出す。あの笑顔が、いつだって僕に一歩踏み出す力をくれた。それを想うだけで、絶対に勝てると確信した。
ファイナイトの最後の力と、僕の力が混ざり合い、その境界すら僕自身も分からなくなってしまった。
そして、2つの力が衝突して発生した融合爆発と、僕自身の身体との境界すらも分からなくなる。もう僕は膨大な爆発エネルギーの一部になっているのかもしれない。
このまま全てと混ざり合って、消滅してもいいのかなとさえ思ってしまう。
だが、僕の隣に姉がいた。シクスもいた。こんな激しい融合爆発空域に2人は駆け付けてくれたのだ。
「いつだって一緒だ。隣にいるから」
姉はそう言って、僕の伸ばしていた腕に手を添え、微笑む。
「想、いつでも、いつまでも、支えていますよ」
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2人が手を添えてくれただけで、僕はまだ人間の姿を保っているのだと、そう実感した。
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