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第5章 ファイナイト

5-35 反射

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「ぐっはぁっ! がっ、あがっはぁ!」

  僕の腹から血がドクドクと流れ出し、口からも血が飛び散る。身体中が痛くて、熱い。

「弖寅衣 想。終わりだ。死ね」

  そう言って、ファイナイトは光のブレードを再び掲げる。だが、その時、

  ――――ズズズーン!

  揺れた。ファイナイトの爆発による揺れではない。

「なんだ今の……? 地震か?」

  少し離れた場所に転がっていたサターンが呟いた。

「地震だと? そんなもの、起きる予知はなかった。なんだ?」

  ファイナイトは訝しむように周囲を見渡していた。


「あっ……あ、あ……あぁ、あぁっ!」

  そんな声が聞こえた。その声を発したのは僕自身だったと気づくまでに4秒程かかった。

「想! くっ、どうした!?」

  トロイが這いつくばりながら僕に声を掛けた。

  あの地震が起きた時、僕の頭に異物が流れこんできた。それが何なのか全くわからない。形容できない感情なのか、はたまた未知の情報なのか。
  今まで、体験した事の無いものを一瞬で味わってしまったような、全く言葉にできない物が頭に湧き上がり、それが全身へ行き渡り、浸透していく。

「まぁいい。地震など瑣末な事。我が今から地球を破壊するのだからな」

  そう言って、ファイナイトは放心している僕に向けて光の球を飛ばして爆発させた。

「うぐあーっ!」

  爆発に身体が燃やされ、全身を灼熱と激痛が襲う。
  どこかの建物の壁に打ち付けられ、更に身体に激痛が走る。目を開け、上を見ると瓦礫の塊が落ちてきた。

「しっかりしろ青緑! こんなとこでくたばんじゃねぇ!」

  サターンの声だ。サターンは土星の環に乗って僕を引っ張り上げ、落下してきた瓦礫を別の環で破壊してくれた。

「まだだ。まだ、終わっちゃいねぇだろ! ここで俺たちが倒れたら、人類は終わりだ! 青緑! お前は……お前だけは、諦めんじゃねぇよ!」

「サターン……君は、本当は、すごく、いい奴なんだな」

「何わけわかんねぇ事言ってんだ! この戦いが終わったらまた敵だ! 今度こそお前をぶっ倒してやる!」

  そう言ってサターンは、ボロボロの身体でも獰猛な笑みを僕に向けた。

  だが、その背後にファイナイトがいた。

「いつまでも生き恥を晒すな。潔く死ね」

  そう言って、光のブレードを振り下ろした。

「ぐっはぁっ! ごっぐあぁ!」

  サターンは土星の環で僕を突き飛ばしていた。

「くっそ……! つくづく、運に見放されてんな……ハハッ、がはっ!」

  サターンはファイナイトのブレードで胴を袈裟懸けに斬られていた。彼は血を吐きながら倒れ、そこへ容赦なくファイナイトが再び光のブレードを振り下ろす。

「ファイ、ナイトーッ!」

  僕は目を見開き、腹の底から声を出しながら周囲の瓦礫を飛ばす。声を出すだけで、身体中の傷口から血が吹き出て激痛が走る。

「くっ! まだ力が残っているか!」

  ファイナイトは僕が飛ばした瓦礫をブレードで切り刻み、僕に向けて光のレーザーを放ってきた。

「ぐあぁーががーっ!」

  言葉にならない叫びを発しながら、目前に迫ったその光のレーザーを一心に見詰める。全神経を注ぎ、グラインドの流れを働きかける。

「なっ!? にっ!?」

  ファイナイトが放った光のレーザーは向きを180度変え、ファイナイトの身体を貫通した。

「ぐおっ!? なんだ!? 何が起きた!?」

  ファイナイトが自身のレーザーで撃ち抜かれた腹を押さえながら慄いていた。

「へへっ、やりゃあできるじゃねぇか。そうだよ、お前は、それでいい」

  倒れているサターンが弱々しくそう言う。

「ありがとう、サターン。これ以上、君に傷は負わせない」

  僕は全身の痛みに耐えながらも、辛うじて立ち上がる。

「弖寅衣 想、なんだ今のは? それがぬしの力か?」

  ファイナイトは腹の傷口を回復させながらそう言ってきたが、僕はその問いに無言で睨み付ける事で答える。
  あの時、シニックの刃を返す事ができた。力の流れを感じ取れれば、それをグラインドで返す事ができると、今それが確信に変わった。

「ファイナイト、お前には、負けない!」

  そう言って僕は再び周囲の瓦礫を幾つも突撃させる。それをファイナイトは回転しながら、両手のブレードで切り裂いていく。

「我の攻撃を跳ね返す事が、本当にできるのならやってみせよ!」

  回転しながら宙を上昇したファイナイトは光の刃と球を同時にいくつも放ってきた。

「ぐおーっ!」

  咄嗟の反射神経で、近くにあったコンクリートの壁を浮かせて防御したが、それは呆気なく破壊され、爆撃と斬撃が全身を襲った。
  痛い。身体が千切れ飛びそうだ。でも、それでも、集中しろ。

「うおーっ!」

  宙に飛ばされながらも、僕は迫り来る刃と球1つ1つに視線を注ぐ。それは見事に僕の思いのままに、向きを変えてファイナイトを攻撃する。

「くっ! 本当に返したか!」

  斬撃と爆撃を食らったファイナイトだったが、宙に飛ばされた僕の目の前に瞬時に現れ、僕の腹に向けて蹴りを放ち、地面に叩き落とした。

「がっ! がはっ、ぐあぁっ!」

  先程ファイナイトのブレードで斬られた腹の傷口を狙われ、激痛は更に増して血が弾け飛んだ。
  激痛に襲われながらも、上半身を起こすと、どうやら広場のような場所にある段差に打ち付けれたようだ。

「弖寅衣 想よ、諦めよ。どんなにぬしが我の力を跳ね返す事ができようが、ぬしに勝ち目はない」

  そう言ってファイナイトは頭上からレーザーを放ってきたが、僕はそれを再び跳ね返す。だが、そのレーザーをファイナイトは光のブレードで弾き飛ばした。

「ぐっ! サターンに、言われたんだ。諦めるなって……だから、どんなにつらくても、諦めるわけには、いかないんだっ!」

  身体の痛みと震えに耐えながらも立ち上がり、頭上のファイナイトを睨みつける。
  両サイドに立つポールを何本も動かし、それをファイナイトの左右から飛ばしていく。

「無駄だ!」

  ファイナイトは腕を広げ、両側にレーザーを放射状に放っていく。その隙に僕は別のポールに乗って飛び、ファイナイトの懐に飛び込んだ。

「みんなとの、明日のために! お前を倒す!」

  そう言って、ファイナイトの顔目掛けて右の拳を放った。傷だらけの拳は血を流しながらファイナイトの頬を捉えた。

「そんな生ぬるい理由で我を倒そうなどと思うな!」

  ファイナイトは僕に殴られたまま、光り輝く右拳を放った。その拳の線を僕は見極める。そして、空いている左手で受け止める。受け止めた瞬間に、左手から血が飛び散り、そこから痛みが全身に広がる。

「ごあぁっ! 生ぬるくて……何が、いけないんだ!」

  僕は左手で掴んだファイナイトの光る拳のエネルギーを、逆にファイナイトへと跳ね返していく。ファイナイトは爆発しながら吹き飛んだ。

「くうっ! 我は……宇宙の理なのだ! 我の行為は宇宙の法則なのだ! その大きな流れを崩すのに、その理由ではあまりにも小さすぎると言っているのだ!」

  空中で静止して体勢を整えたファイナイトは、左手に光の槍を出現させ、それを僕に向けて放った。鋭い光が空間を裂くように走り、僕の身体を貫いた。そして、その槍が走った軌跡には連鎖するように爆発が発生した。

「がはっ! あっあっ、ぐあーっ!」

  身体の内側から焼け付くような痛みが襲い、僕は身体を痙攣させながら地面をのたうち回っていた。

「宇宙の理である我らからしてみれば、ぬしらなど虫けら同然。そしてぬしの理由など、砂粒同然だ。仲間との明日のためだと? そのような小さい理由1つのために、宇宙の法則を乱していいわけがあるか!」

  地面に倒れて震える僕の目の前に立ち、ファイナイトは激昂していた。

「中途半端で甘ったれた正義感を振りかざすな! ぬしに、我の前に立つ資格はない!」

  そう言ってファイナイトは右手から光のブレードを伸ばして掲げた。だが、そのファイナイトの左側から巨大な物体が猛襲した。
  先程も使った、あの巨大な半月板だ。あれが近くに見え、僕はそれを動かしていた。巨大な半月板に飛ばされ、ファイナイトは上空でそれに押されていた。
  だが、ファイナイトの右手から伸びる光のブレードがさらに大きくなり、その半月板を両断した。巨大な光のブレードはそのまま振り下ろされ、僕が今いるこの人工島も叩き斬ってしまった。

「弖寅衣 想ー! そんなに死にたいのなら我が真っ二つにしてくれる!」

  そう言って、ファイナイトはその巨大なブレードを僕に向けて振り下ろしてきた。僕は目の前に迫り来る巨大な脅威を見つめ、歯軋りしながらも自身の力を振り絞る。

「僕は……僕は、みんなが、好きなんだー!」

  自分でも訳の分からない事を叫んでいると思った。だが、目の前に迫った巨大な光の刃は2つに割れた。割れた2つの切っ先は、反転してファイナイトへと突き進み、クロスしながら奴の身体に突き刺さった。

「くはぁっ! 何を……何をっ!」

  言いかけたファイナイトだったが、先程切断され巨大な半月板が両側からファイナイトを襲う。扇形になったその2つの巨大な板が、平面で挟み込むようにファイナイトを挟撃していた。

「ぬわぁっ! くっ! 何を、言っているのだ! それが、その想いが、ぬしの勝手な個人の言い分でしかないと! 傲慢にすぎぬと! そう言っているのだ!」

  ファイナイトは光のブレードで突き刺されながら、巨大な扇板で挟まれていた。だが、ファイナイトは今までにない程に身体から光を放ち、ブレードも扇板も弾き飛ばした。

「そんな想いなど、軽すぎる! 宇宙の理から見れば塵芥ちりあくたなり!」

  そう言って、ファイナイトは地面に這い蹲る僕の顔面を蹴り飛ばした。

「うぶぐはぁーっ! がっ! あぐぁっ! かはっ!」

  ファイナイトに蹴り飛ばされ、僕は背中からゴツゴツした地面へと叩き付けられた。
  口に、何かしょっぱい物が入る。海水だ。気付けば人工島の端にまで飛ばされ、僕の上半身を海の波が襲う。傷口に潮水が侵入し、激痛は更に増す。
  海か。この海の向こうには、この頭上の空の下には、みんながいる。シルベーヌさん。ラウディさん。ファルさん。雪枝垂先生。モンジ。

  頭が海水に浸かりながらも、頭上の夜空を見る。

「星が、全然、見えないや」

  でも、見えなくても星はある。
  その星の1つは、あの人なんだ。僕に、光をくれた、あの一颯さんなんだ。

「やる……んだ。どんなに……無駄だろうと、無理だろうと……軽いと言われようが、小さいと言われようがっ!」

  力が入らない身体に無理矢理力を入れて、僕は再び立ち上がる。

「弖寅衣 想。そこまでして抗うか。ならいいだろう。この地上諸共、ぬしを吹き飛ばしてやる」

  そう言葉を残し、ファイナイトは消えた。

「想様ー! 大丈夫でございますか!?」

  そこにミルの声が届いた。意識を戻したレグネッタさんを支えながらこちらにやってくる。その後にドルティエさんに支えられてドドが、トロイに支えられてサターンもやってきた。

「想!? お前、大丈夫なのか本当に!? そんな身体じゃ、もう立てねぇだろ!?」

  フラフラと立つ僕を支えてドドは言った。

「白髪のガキはどこ行ったんだ? まさか、逃げたのか?」

  トロイがそう言ったが、隣のサターンが、そんな訳ねぇだろとトロイの横腹を殴る。

「ファイナイトは、この地上を吹き飛ばすと言っていた」

  また爆発を起こすつもりだろうか? だが、ここからでも見える四方の爆発は今もなお続き、街を破壊している。

  その時、夜空に星が見えた。いや、おかしい。ここからは空がくすんで星は見えない筈だ。

「なんだ……あれは?」

  虚ろげに言葉を発した僕の視線を追い、みんなも夜空を見上げた。

「なんですのあれ? 星? ではないようですわ」

  ミルの言葉にドルティエさんが頷く。

「はい。見間違いでしょうか? いえ、あれはどんどん大きくなっています!」

  ドルティエさんに言われて僕もその事に気付いた。

「赤いな。燃えているのか? だとしたら、隕石か?」

  レグネッタさんが眉を顰めながら言う。
  いや、あれは……あれは。

「あれは、インテグラル・バースだ」

  僕はそれを認識して言葉を発した。ゼブルムが開発したスペースコロニーが降ってきていた。
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