カンテノ

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第5章 ファイナイト

5-31 力の差

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 崩落したトンネルから離れた路上で、ファイナイトは僕達の攻撃を受けながらも、そのいくつかは光の拳で防御していく。僕の攻撃が絡んでいるため、未来予知妨害は効いているはずだが、奴はそれに適応してきてしまっている。

「こんな時にまた軍隊ですの!?」

  ミルが言った通り、僕達の後方から陸軍の車両が何台もやってきた。

「ファイナイト! 及び、テロリスト達! これ以上の破壊行為はやめなさい! ……ぐわっ!?」

  そう言った陸軍の軍人目掛け、ファイナイトは容赦なく光のレーザーを撃った。

「ぬしらなど我の相手にもならぬとまだわからぬか?」

  そう言って、ファイナイトは軍事車両をレーザーで次々に破壊していく。時には軍人達が持つ銃そのものに力を働きかけ、彼等の武器を直接破壊する。

「あんた達は最早一般人なんだよ! あいつの相手なんかできるわけないだろ?」

  トロイが陸軍の前に立ち、右腕のマニピュレーターでファイナイトのレーザーを防御しながら言った。

「そういう事だ。死にたくなければ関わるな」

  レグネッタさんは2挺の拳銃を走りながら撃ち、陸軍達に呼びかける。だが、その忠告を聞いてもなお陸軍はファイナイトに銃を放っていく。

「彼らの相手をしている暇はありません。今の敵はファイナイトです」

  シクスはそう言い、重機関銃を出し、それをファイナイトに向けて連射する。

「あぁ。俺達は、俺達の正義を貫くだけだ」

  そう言って走り出したドドは、ファイナイトが低い位置まで降下してきたのを見計らって、跳躍して蹴りを放つ。
  だが、ファイナイトはそれを光の蹴りで打ち返し、再び上昇しながら周囲にレーザーを撒き散らしていく。

「まずい。皆、乗ってくれ」

  僕は先程乗っていた車を再び動かす。近くにいたレグネッタさんとミルとシクスがそれに乗り込む。陸軍はいまや錯乱状態になりながらファイナイトに銃を撃っている。

「百々丸とライトニング・ボルトはこっちに乗れ!」

  少し離れた所にいた2人のもとに、サイドワインダーに乗ったトロイと彼のドッペルが共に近付く。

「トロイさん、その名前で呼ばないでください。恥ずかしいです」

  ドルティエさんはそう言ってトロイのドッペルが操るサイドワインダーに飛び乗るが、当のトロイは悪びれる様子もない。
  ファイナイトから放たれたレーザーは周囲の建物を次々に破壊していく。ドドを乗せたサイドワインダーも飛び上がり、トロイ本体は左腕から別のサイドワインダーを後方に撃つ。

「ぜ、全員撤退! 避難を優先しろ!」

  ようやく避難を始めた陸軍達を横目に、僕が操作する車はその横を通り抜けていく。ファイナイトはレーザーを撃ちながら、光の球を放って爆発を起こす。
  レグネッタさんとシクスは後部座席から銃を打ち続け、僕はそれに合わせて陸軍の軍事車両を飛ばす。

「何もかも、木っ端微塵に破壊してくれる」

  ファイナイトから放たれた光の球が頭上から降り注ぎ、次々に爆発が生じた。

「想! このままでは危険です!」

  シクスはサブマシンガンを連射しながら僕を振り返りそう言った。

「あぁ。飛ぶよ」

  そう言って、僕達4人を乗せた車は宙を飛ぶ。

「どこに逃げようと、無駄だ」

  僕達の車の真上にファイナイトがいた。

「こいつ……チンチラ、乱発しろ!」

  レグネッタさんは真上に白い拳銃を向け、そこから緑光の弾丸がマシンガンのように連射される。それに合わせてシクスはレミントンのショットガンに切り替えて連発する。
  だが、宙を飛ぶファイナイトは細かい動きでレグネッタさんとシクスの銃弾を躱していく。そして、ファイナイトの両手の拳は光り輝きだす。

「まずい。ミル、あそこまで僕達を移動してくれ」

「承知致しましたわ! みなさん、行きますわよ!」

  眼下を指さして僕がミルに頼むと、すぐに僕達4人はそこにいた。璃風都内を走るモノレールの車体の上だ。
  先程までの進行方向に対し、交差するように左方向に進んでいたため、僕達4人は90°方向転換したことになる。宙を飛ぶファイナイトも僕達が乗るモノレールを追うように、かくんと曲がる。

「トロイ、援護射撃頼む!」

  ファイナイトの背後に迫るトロイに声を掛けると、彼はドッペルと共にサイドワインダーを撃つ。それとともに、僕は先程まで乗っていた車をファイナイトの背後から飛ばす。

「無駄だ」

  ファイナイトは背後を振り返ってサイドワインダーと車にレーザーを撃つ。

「本命はこっちですよ」

  モノレールから跳躍したシクスがファイナイトの背後にいた。彼は跳躍の勢いを乗せた高速回し蹴りをファイナイトの後頭部に放った。

「ぐっ! シクスかー!」

  あのファイナイトが声を荒らげた。だが、振り向こうとしたファイナイトに、シクスは回転の勢いで振り上げた戦車砲を、ファイナイトの頭目掛けて振り下ろす。

「ファイナイト! 落ちろ!」

  シクスは振り下ろした戦車砲の砲口をそのままファイナイトの背に押し付け、身体を捻って戦車砲ごとドリル回転させながら砲火した。
  回転を加えられた砲弾はファイナイトをレール上に撃ち落として爆発した。モノレールの車内にいる一般人も突然の爆音でパニックになっているだろう。

「やったか!?」

  レグネッタさんが叫んだが、その爆発の中から光の塊が僕達に向かって飛び出る。
  だが、そこで更に2つの影が光り輝くファイナイトに向かって斜め上から突撃する。

「ドルティエ! 合わせてくれ!」

「はい! お任せを!」

  トロイのサイドワインダーから飛び降りたドドとドルティエさんだった。2人はファイナイトの背に向けて、宙返りをしてから同時に踵落とし浴びせ、交差してトロイのドッペルが操縦するサイドワインダーに再び乗る。

「OK! 絶妙な角度だ!」

  落下するファイナイトの先のレール上にはトロイ本体がいた。レールに付くほど低く構えた大きなマニピュレーターを振り上げてファイナイトを殴打した。

「ぬしら……! よくも我を!」

「これで終わりだと思うなよ!」

  呻いたファイナイトに向かって黄光の鞭が伸びていた。レグネッタさんのバブーンによって放たれた鞭は、そのままファイナイトに巻き付き、空中で奴の身体を固定した。

「行け! シクス!」

「行かせてもらいます」

  レグネッタさんの黄光の鞭にシクスが飛び乗る。そして、ファイナイトに繋がれたその鞭の上をシクスは素早く駆け昇る。
  シクスの手にはウィンチェスターライフルが握られている。しかし、シクスは砲身を持ち、グリップの先でファイナイトの顔を殴打した。
  その後すぐに持ち替え、ファイナイトの脳天に真上からウィンチェスターの銃口を突き付ける。

「これで、終わりだ」

  そのままトリガーを弾き、銃弾はファイナイトの身体を縦に貫通した。
  その筈だったが、ファイナイトは光り輝き、自身を拘束していた黄光の鞭を引き裂くと、頭上のウィンチェスターの砲身を掴む。

「よくも、やってくれたな」

  ファイナイトは全く流血していない。そして、ウィンチェスターを振り回し、それを掴んでいたシクスをモノレールの屋根に叩き付けると、光のレーザーでシクスの身体を貫き、更に光のブレードを突き刺した。

「ぶはあっ!」

「シクス!」

  目の前にシクスの無惨な姿があり、僕は悲痛な叫び声を上げた。

「想……大丈夫、私はいつも、一緒です」

  そう言ってシクスは消えていった。

「ファイナイト、よくも……!」

  幽霊だから死ぬ事はないとは言え、目の前で弟であり親友でもあるシクスを傷つけられ、僕は怒りが収まらなかった。

「我にも我慢の限界があるのだよ」

  そう言ってファイナイトは空中から放射状にレーザーを放ち、モノレールごと僕達を攻撃してきた。破壊された後部車両は分断され、中にいた上客の悲鳴が聞こえた。

「させるかぁー!」

  トロイがドッペルを引き連れ、僕達の前に立ってマニピュレーターの壁で守ってくれた。

「な、なに!? マニピュレーターが、もたねぇ!」

  今まで容易くファイナイトのレーザーを防御していたマニピュレーターの装甲が、ファイナイトのレーザーによって破壊されていた。

「我のオリジン・グラインド『ファイナイト』の力だ。もう容赦はせぬ!」

  トロイは慌ててドッペルを増員させて防御するが、あの大きなマニピュレーターも粉砕され、ドッペルも次々に倒されていく。

「ぐおっ!」

「トロイ!? 今助ける!」

  ドッペルの壁を崩され、レーザーがトロイ本体を撃ち抜く。僕は慌てて近くのビルの広告板を何枚も重ねて防御するが、その壁さえもファイナイトのレーザーは貫き、今までの比にならない威力に増していた。

「ファイナイト! 許しません!」

  サイドワインダーから飛び降りたドルティエさんが包丁を構えてファイナイトに切り掛る。だが、ファイナイトの周りを光の球が飛び交い、ドルティエさんの身体を吹き飛ばす。

「野郎っ!」

  ドドが怒りに満ちた表情で落下しながら拳を振るうが、今度は光の刃が飛び、ドドの巨体を斬り付けた。

「2人とも! 大丈夫でございますか!?」

  落下していった2人をミルがテリファイアで自身の近くに転移させた。

「お嬢様……はい、これしきの事ではやられません。ルヴィエを守る者の誇りに掛けて」

  ドルティエさんは頭から血を流し、左腕を押さえながら立ち上がる。

「ぐっ! あぁ、まだやれる。あんな奴に負けてたまるか」

  ドドは背中と右脚に傷を負ったようだ。

「2人とも、それからトロイも、無理しないでくれ。しばらく僕達で持ち堪える」

  僕は傍にしゃがんだトロイにも声を掛け、モノレールの上に立つ。先程より速度は落ちているが、それでも風圧は強い。

「ミル、ナイフをありったけ飛ばしてくれ」

「はい! 想様!」

  背後のミルに頼むと、彼女は後方からナイフを投げ続ける。それを僕のグラインドで加速させてファイナイトへと切り付ける。

「ファイナイトー!」

  僕はその名前を叫びながらナイフを不規則に飛ばす。

「弖寅衣 想。その程度の力で我の前に立てると思うな!」

  空中を飛ぶファイナイトは両手から光のブレードを伸ばしてナイフを斬り落としていく。

「想様ー! これもお使いくださいませ!」

  ミルは頭上に3台も大型トラックを出現させた。それを僕は飛ばし、ファイナイトに向けて振り回して横殴りする。
  だが、振り切れない。あの小さな身体が、眩い光を発して、大きなトラックを止めているのだ。

「想! 諦めるな!」

  そう言ってレグネッタさんは緑光の大きな弾丸を次々に放ち、それをスピンさせながらトラックの群れに合わせていく。

「レグネッタさん……はい! 動けー!」

  レグネッタさんの檄を受けて意志を保ち、トラックへの意識を更に強める。

「くっ! まだ上がるのかこのグラインドは?」

  ファイナイトの声が聞こえた次の瞬間、奴を包んでいた光が一層増し、その光を中心にして大規模の爆発が起きた。

「う、くあぁーっ!」

  足下のモノレールも爆発によって破壊されていくのを感じ、白い光に包まれながら僕は叫んだ。だが、その時。

「想、お前を絶対に死なせはしない」

  トロイの声がした。近くのミルとレグネッタさん、ドドとドルティエさんも引き寄せられるように固められながらも、全方向から爆発の衝撃を受け、眩い光に視界は遮られた。
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