カンテノ

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第5章 ファイナイト

5-26 岩山

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 アーキテクツは両腕を横に伸ばす。すると、奴を中心にして岩の柱が次々に地面から伸びていく。

「皆を傷つけさせませんわよ!」

  アーキテクツの近くにいたシクス、ドルティエさん、トロイ、そして少し距離を取っていたドドとレグネッタさんを、ミルがテリファイアを使って僕達の所にまで退避させていた。
  そして、僕達の目の前にはビルの高さにも匹敵する岩山ができていた。その上に、あのアーキテクツは直立している。

「この国がどうでもいいから静観するってことか? だったら俺達の事も放っとけよ」

  ドドの言葉を聞いて、岩山の上に立つ男は冷ややかに笑う。

「フッ。それとこれとは別だ。俺はただ、お前達が気に食わないから倒す」

  アーキテクツはそう言って足元を強く踏む。すると、奴の下にある岩山から岩の塊が次々に飛来する。

「任せろ!」

  トロイが前に出て4人のドッペルと共に右腕のマニピュレーターで岩を防御し、時には殴って弾き返していく。

「トロイさん、私を殴り飛ばしてください」

  トロイの前にシクスが跳び上がった。

「OKしっくん! 思いっきりいくぜ!」

  シクスはトロイのマニピュレーターの拳に足を乗せ、それをトロイが殴り飛ばす。
  弾丸と化したシクスはレミントンを撃ちながらアーキテクツに向かって一直線に跳ぶ。

「なんだコイツは!?」

  アーキテクツは足元から岩の壁を伸ばし咄嗟に防御する。その岩の壁を前にしたシクスはレミントンを捨て、拳を振りかぶる。
  あの強固な岩壁を殴って破壊するのは無理だ。だが、シクスが殴る寸前に、拳の前に大きなカノン砲が出現し、その砲身をぶつけてアーキテクツの岩壁を粉砕した。

「なんだと!?」

  アーキテクツの目の前でカノン砲が火を噴いた。周りの岩も破壊する程の爆発が起こり、シクスはそこから飛び降りる。

「やったか!?」

  ドドが声を上げた。爆発が起きた場所にアーキテクツの姿はなかった。

「いえ、奴はあの中です」

  僕達の前に戻ってきたシクスはそう言い、もう一発カノン砲を岩山に向けて撃った。すると、その中に確かにアーキテクツがいた。先程いた場所から岩山の内部に避難していたようだ。

「私はここまでです。皆さん、くれぐれもお気をつけて」

  そう言ってシクスは消えて行く。10分が経過してしまったのだ。

「シクスは時間か。後は私達で対処するぞ」

  レグネッタさんはそう言って2挺の拳銃を撃ち放つ。

「はい。こんなにも頼もしい皆様と一緒なら負けません」

  ドルティエさんは素早く走りながら、岩山の上にいるアーキテクツに向かって拳銃を撃つ。

「なるほど。これは確かに手強いな」

  アーキテクツは岩壁でそれを防ぎ、更にそこから岩を飛ばしていく。

「いつまでも安全地帯にいれると思うなよ」

「なっ!?」

  ドドはミルのテリファイアによってアーキテクツの背後に現れる。そして、アーキテクツの太腿を両腕で掴み、半周ほどふり回して僕達がいる方へと投げ飛ばしてきた。

「わりぃなアーキテクツ。同じゼブルムだが、今は容赦なく殴らせてもらう」

  トロイが飛ばされて来たアーキテクツをマニピュレーターで殴りにかかる。

「くっ! フォールン・トロイ、流石組織の優秀なアタッカーだ」

  アーキテクツは目の前に迫ったトロイのマニピュレーターの拳を、地面から伸ばした岩の壁で防ぎ、自身はその壁に手を掛けて掴まる。

「アーキテクツ、あなたを倒して僕達はファイナイトも倒す」

  僕はそう言い、地面に転がる瓦礫を飛ばしていく。

「弖寅衣 想。例の名も無きグラインドか」

  瓦礫の襲撃を受けながらも、アーキテクツは再び岩壁で防ぐ。

「この俺を相手に、いつまでも図に乗るなよ?」

  アーキテクツはそう言って再び両腕を横に向ける。すると、地面から次々に岩の突起物が生え、それが僕達を襲ってきた。

「くそっ! こいつは、やべぇぞ!」

  ドドがその攻撃を防御しながらも言う。ミルはテリファイアでレグネッタさん、ドルティエさん、トロイを移動してくれたが、アーキテクツはそれを読んでいたのか、避難先の地面も盛り上がり、大きな岩山が高々と生え、僕達は四方八方に突き飛ばされる。

「ぐおっ!」

  岩の突撃と、それによって飛ばされ瓦礫の塊に衝突した痛みが全身を襲い、意識が遠のきかけて頭はフラフラとする。

「無様だな」

  アーキテクツはそう言って右手を僕達に向けて伸ばす。今度は背後の岩山から岩石の嵐が僕達に向かって降り注いできた。

「やらせて……たまるか!」

  レグネッタさんはフラフラと立ち上がり走り出した。右手の拳銃、バブーンから黄光の鞭を伸ばし、それを振り回して岩石を弾き飛ばしていく。

「ほう。なんとも不思議な銃だ。グラインドとは違う力の流れだ」

  アーキテクツは自身に襲いかかるその鞭を躱しながらも、岩石を飛ばし続ける。そして、その岩石の1つを掴むと、それは先端を尖らせて伸びていく。岩でできた刃となっていた。

「叩き割ってやる」

  レグネッタさんはその岩の刃を黄光の鞭で粉砕した。だが、別方向から岩石が飛来し、それがレグネッタさんの脇腹を襲う。
  予想外の方向からの攻撃に、レグネッタさんは表情を歪め、体勢を崩す。
  そして、アーキテクツはまた別の岩から刃を伸ばし、それを振り下ろしていた。


「あたしの大親友を、傷つける奴は許さない」

  アーキテクツの岩の刃は止められていた。

「レンビー、来てくれたのか」

  レグネッタさんの前に、僕の姉、煉美が現れていた。高々と掲げた拳であの岩の刃を受け止めていた。
  黒いTシャツ、デニムのショートパンツ、腰には赤いチェックシャツを巻いている。

「レグ、遅れてごめんね。こいつはあたしが片付ける」

  背後で脇腹を押さえているレグネッタさんに向けて、姉は笑みを浮かべて言う。

「なんだあの人? しっくんみたいに出てきたな?」

  少し離れた所にいたトロイが驚いていた。そうか、トロイは姉とは初対面か。

「僕の姉さんなんだ。シクスと同じで幽霊だよ。前に話した江飛凱を倒した人」

「想の姉ちゃん!? 似てねー!」

  トロイの率直すぎる感想に僕は思わず苦笑いする。

「この女……報告にあった奴か。本当に突然現れたな」

  アーキテクツはそう呟き、岩石を飛ばして来たが、姉はその全てをアンチセシスの重力操作によって手を触れずに弾き飛ばし、頭上の岩の刃も拳で叩き割った。

『アーキテクツ! そやつはサフォケイションを倒した女だ! 侮るなよ!』

  フィア・ファクターが瓦礫に埋もれたエッジクラッシャーを通して言葉を発する。

「こいつがあのサフォケイションを? こんな小娘が?」

  姉から距離を取ったアーキテクツはそう言い、自身の足元の地面を膨れ上がらせて岩山を作る。
  だが、そこへ距離を詰めた姉がその岩山を飛び蹴りで破壊してしまう。

「何!? これがこいつのグラインドか?」

「あぁ、そうだ。痛い目見せてやる」

  岩山が崩れ、落下するアーキテクツの目の前に姉が現れる。アーキテクツの腹に向けて姉は重力を込めた拳を容赦なく打ち込んだ。

「ぬぐわっ!?」

  強烈な拳を受けてアーキテクツはその顔を苦痛に歪める。更に姉は空中でアーキテクツの背面に蹴りを浴びせ、地面に叩きつける。

「なんて力だ! ぐっ! 立てない!」

  姉のアンチセシスによって、アーキテクツは地面にうつ伏せで押さえつけられていた。

「これがあたしの力だ。重力に押しつぶされろ」

  姉は地面に這いつくばるアーキテクツの背に足を置き、重力の力を倍増させた。

「確かに、これは強い」

  アーキテクツは依然と笑みを浮かべていた。その時、姉の左右から巨大な岩山が突然現れ、姉を挟むように襲いかかって来た。

「ったく。油断するなよ?」

  姉の背後にぴたりとくっつくようにレグネッタさんが立っていた。右手のバブーンから黄光の鞭を伸ばし、左手のチンチラから緑光の大きな弾丸を出して左右の岩山を食い止めていた。

「レグ! 助かったよ。動いても大丈夫なのかい?」

  後ろを振り返った姉はレグネッタさんと笑みを交わす。だが、その隙にアーキテクツは地面を隆起させて姉から距離を取った。

「ほら油断するなって言ったろ? 言ってるそばからこれか……変わらないな。私の心配はするな。時間がないんだろ? 一気に片付けるぞ」

  レグネッタさんの言葉に姉は頷く。

「2人まとめて潰してくれる!」

  姉とレグネッタさんの左右に迫っていた岩山は空中に飛び上がり、それは1つの岩山となって姉達の頭上から落下してきた。

「残念でした! その程度の落下ならあたしには効かない」

  姉は手も触れずに頭上の大きな岩山を止めていた。重力操作によって空中で静止したその岩山の上で、アーキテクツは眉間に皺を寄せて睨んでいる。

「さっきはよくもやってくれたな? お返しだ。チンチラ!」

  レグネッタさんのチンチラから緑光の弾丸が頭上に向けて放たれた。その大きな弾丸は空中に浮かぶ岩山の底にぶつかると、そこから猛スピンして巨大な岩山を一瞬で駆け登り、アーキテクツの背後に激突する。

「ぐわあっ! な、なんだこれは!?」

  背に緑光の弾丸を受けて、アーキテクツは岩山の上で身体を仰け反るような姿勢のまま、岩肌に押さえつけられた。

「レグは怒ると怖いからねー」

  そう言いながら姉は飛んだ。空中に浮かぶ岩山の底に向けて拳を連打する。あの巨大な岩の塊がいとも容易く粉砕されていく。そして、その砕かれた岩の隙間を姉は飛び交っていく。

「とんでもない女だ。だが、これでは自ら俺の庭に飛び込んだも同然だ」

  アーキテクツは周囲の岩石を尖らせてから飛ばしていく。
  だが、姉は左右から飛んできた岩を肘打ちと回し蹴りで弾き飛ばす。そして、頭上から降り注ぐ岩石の軌道を読み、1つ1つを渡り歩くように蹴って上昇していく。

「無茶ばっかしやがって。付いてってやる」

  姉の下からレグネッタさんは黄光の鞭を伸ばして岩石を渡って上に昇り、緑光の弾丸で邪魔な岩石を破壊していく。

「面白い。だが、これならどうだ?」

  空中に浮かぶ岩石の群れを飲み込むように、四方八方からビルが接近していた。ビルの下の地面を動かして、いくつものビルを一斉に動かしているのだ。

「さぁ、潰れるがいい!」

  アーキテクツの言葉と共に、幾つものビルが互いに引き寄せられるように衝突した。

「フッ。呆気なかったな。次はお前らだ」

  ビル群の塊の上からアーキテクツは僕達を見下ろして言う。

「さて、何を言ってるのでございますか? 無敵のお姉様達を甘く見ない方がいいですわよ?」

  不敵な笑みを浮かべながら言ったのはミルだった。その言葉にアーキテクツは、ハッとする。

「あたし達はっ! ここだーっ!」

  姉とレグネッタさんはアーキテクツの頭上にいた。ビルが激突する直前、姉は眼下のミルに目配せし、上空へと転移してもらったのだ。

「なんだと!? いつの間に!?」

  上空を見上げたアーキテクツの表情が歪む。だが、もう遅かった。姉は驚愕していたアーキテクツの顔面に向け、バク宙してから両膝蹴りを放つ。

「レンビー、そのまま押さえ込めろ!」

  レグネッタさんの言葉を受けて、姉はアーキテクツを重力で固定する。空中で仰向けになったアーキテクツの腹にレグネッタさんは左手に持つ拳銃、チンチラを当てて至近距離から緑光のドライブスピン弾を放った。

「ぬぐあぁーっ!?」

  アーキテクツは腹に激痛を受けて身体を捩るようにして叫んでいた。

「トドメだ。さぁ、潰れるがいい!」

  姉はアーキテクツの先程の言葉を返すと、レグネッタさんの緑光の弾丸ごとアーキテクツを蹴り、重力を伴わせて地面に激突させた。

「流石お姉様ですわー!」

  レグネッタさんと手を繋ぎ、重力操作によってふわりと地面に降り立った姉に、ミルが駆け寄って声を掛けた。

「いやー、ミルちゃんさっきはありがとう! 察してくれて助かったよ」

  そんな姉を見て、レグネッタさんは呆れたように息を吐く。

  だがその時、姉はハッと何かを感じ取りその顔に緊張が走る。

「2人とも離れろ!」

  そう言ってレグネッタさんとミルを重力操作によって突き飛ばした。その直後、姉の身体は目に見えない力で吹き飛ばされた。


「随分暴れてくれているな」

  地面に倒れているアーキテクツの近くに、見知らぬ男が冷ややかな視線を僕達に注いで立っていた。
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