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第5章 ファイナイト
5-22 ライトニング・ボルト
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爾栄のヴェグザ崩壊事件から翌日、僕達は傷を癒すためにも、その日は室内で大人しく過ごした。何より、ドルティエさんの目が光っていたからだ。
僕とドドは室内で筋トレをしていたが、レグネッタさんは読書、ミルとトロイは2人でゲームをして時を過ごしていた。
爾栄の事件から2日後の朝、ドルティエさんから驚愕のニュースを知らされる。
深夜の時間帯にファイナイトが出現した。関東圏に現れたファイナイトは街を破壊し始めたが、情報をいち早くキャッチした日本国はついに軍を動かした。
日本空軍の戦闘機がファイナイトを襲う映像を一般人が撮影しており、ネットで拡散されていた。
何十ものミサイルが、空中を飛び交うファイナイトを襲ったが、奴はその網を掻い潜り、次々にレーザーで戦闘機を撃ち落とした。日本空軍は、1人の少年に負けてしまったのだ。
その後のネット掲示板、SNSは炎上していた。日本空軍を批判する声、ファイナイトをヒーローのように讃える呑気な声、そして不安に陥り怯える人々の声。様々な声が入り乱れ、国の情勢は益々悪化した。
そして、その日の昼。ファイナイトは公共回線をジャックし、宣戦布告をした。
「今宵、この国のトップを葬る」
たったその一言だけを発した映像をあらゆるメディアに流したのだ。この日本のトップ、つまり大統領だ。そして、その官邸があるのは璃風都だ。
緊急ニュースでは既に厳戒態勢のもと、その官邸を厳重に防衛するように、特殊部隊と軍隊が配備されている映像が流れていた。
僕達はまだ身体の傷が治っていなかった。だが、黙って見過ごせるわけがない。
万全の状態ではないが、少しでもコンディションを整えるためにもドルティエさんに念入りに治療してもらい、包帯もキツめに巻いてもらった。
そして、夕方になり、各々準備が出来たため、いつもの一室に集まる。
「みんな揃ったな!」
トロイはなぜか楽しそうにしている。
「いいか? 確かにファイナイトを止める事が目的だが、あれだけの軍隊がいるんだ。奴らとの戦闘は避けられないだろう。心して行けよ」
レグネッタさんは僕達に緊張感を持たせるようにそう言う。今日はメイド服ではなく、いつものレディーススーツだ。
「いざという時はわたくしが転移させます。なので、皆さんあまり離れないように」
ミルの言葉に僕達は頷く。
「そうだな。なるべくミルを守りながらいこう。肝心な時にミルが攻撃されてたらまずいからな。んじゃ、行こうか!」
ドドがそう言い、5人で輪になって手を繋ぎ始めた時、ガチャッと部屋の扉が鳴った。
「待ってください。私も、行きます」
ドルティエさんだ。
「え? ドルティエさんも? その格好でですか?」
ドルティエさんは今ではもう見慣れたいつものメイド服姿だった。だが、普段と違い、腰にポーチのような物を装着している。
「はい、これは私の仕事着ですから。何より慣れてますので」
ドルティエさんはいつも通りの静かな口調でそう言う。
「大丈夫か? 戦場だぜ?」
ドドが心配そうにそう言うが、ドルティエさんはそのドドとミルの間に割って入り、手を繋ぐ。
「大丈夫です、堂島さん。お嬢様を守る為に、私も力になりたいのです」
彼女の力強い言葉を聞き、ドドは微笑む。
「よし、それじゃ、行こう!」
僕がそう言うと、ミルは頷き、テリファイアを発動した。
ミルは予め目星を付けていた場所に僕達を移動してくれた。そこはショッピングモールの入口で、官邸からもだいぶ離れているが、あの100人以上はいる軍隊を警戒するには充分だった。
「おし、それじゃ、いざお偉いさんを助けに行きますかねー!」
そう言ってトロイは先陣を切って歩き出す。
「おい、トロイ。そっちじゃない。こっちだ」
と、レグネッタさんが正しい進路を示して進む。
「お嬢様の隣には私が付いていますので、堂島さんはどうぞ前衛に」
と、ドルティエさんが言ってくれたので、ドドはレグネッタさんと並ぶように歩き出す。そこに慌ててトロイが追い付く。
僕はドルティエさんと一緒にミルと並んで歩く事にした。
「軍隊が配置された場所からはだいぶ距離を取ったのですが、先程から軍事車両が走ってますわね」
ミルが言った通り、道路には一般車両は一切見当たらなく、軍事車両と思しき車が何台か通り過ぎて行く。
僕達は死角になるような屋根の下や、歩道橋の上を歩いて行く。
「璃風に来るのも久しぶりだな。4週間くらい? でも、なんだか何年も来ていなかった気分だ」
僕はそう呟く。それだけこれまでの毎日が色濃かったのだろう。
「弖寅衣様は、この街が好きですか?」
と、ドルティエさんは不意にそんな事を聞いてきた。
「うーん、どうでしょう? 好きでもあり、嫌いでもありますかね」
僕がそう答えると、ドルティエさんは共感するように頷いていた。
20分程歩くと、首都高の高架下の地点に辿り着き、100m先にいる特殊部隊と軍隊を肉眼で確認する事ができた。
「先程よりも数が増えていませんか?」
「それだけ、連中も焦ってるってことさ」
ミルの言葉に、前方のトロイが振り返って答える。
「ファイナイトはまだ動いていないようだ。しばらく様子を見るか?」
レグネッタさんも後方を振り返ってそう提案する。それが1番確実だろう。何よりレグネッタさんの意見だから従わなくてはいけない。
「おい! そこに誰かいるのか!?」
その時、左側の道路の向こうから声を掛けられた。見ると、特殊部隊が数人固まってこちらにやって来ている。
「もうバレちまったか」
そう言ってからドドは面倒くさそうにしている。10人以上はいる特殊部隊の団体が駆け足で僕達の方に向かってくる。
「待ってください。僕達はあの少年を止めに来ました」
そう言いながら僕は前に出る。
「貴様!? 極悪テロリストの弖寅衣 想!? 先日のヴェグザ襲撃にも貴様が加担していたと報告が入ってる! やはり、今回も現れたか!」
そう言って、隊員達は一斉に銃を構え出す。
「やれやれ。こいつら、本当に頭悪いよなー」
トロイは頭を抱えながらもニヤニヤと笑っている。
「伝令! テロリスト達が現れた。あの白髪の少年の仲間だ! 各チーム、戦闘態勢に入れ!」
隊員の1人が通信機に連絡していた。すると、官邸方面に固まっていた陸軍達が何人もこちらに向かってくる。
「この街には銃が必要だな」
レグネッタさんはそう言い、1番初めに迫ってきた特殊部隊の足を拳銃で撃ち抜いた。
「陸軍か。いいぜー、こっちにも軍隊がいるからよ」
トロイはドッペルを10人程出現させ、向かって来る陸軍に突撃させた。
「想、そっちは任せた」
そう言ってドドは走り出し、増援に来た特殊部隊に向かっていく。
左側の特殊部隊にレグネッタさんが、右側の陸軍にトロイとドッペル達が、前方の特殊部隊にドドが立ち向かうフォーメーションとなった。
「お嬢様、私の傍を離れないでください」
「わかってますわ。でも、ここからでも援護はできます!」
そう言ってミルはテーブルナイフを投げ、それを転移し、特殊部隊と陸軍に刺していく。
「僕も、遠距離での攻撃は慣れているので」
そう言って、近くの街路樹を引き抜き、それを振り回しながら飛ばす。隊員達は為す術なく吹き飛ばされてしまう。
「貴様らぁ! ゆるさんぞ!」
その時、左後方の交差点からやってきた陸軍の一団が、サブマシンガンを構えながらこちらに迫って来ていた。
「ガードするよ」
僕は交通案内板を3枚動かし、陸軍の銃弾を防御した。
「す、すごい……これが、弖寅衣様のグラインドなのですね。お嬢様以外のグラインドは初めて見ました」
ドルティエさんが小さく驚いていた。
「すごいのは当然ですわ! 想様のグラインドは自由自在! わたくしも何度も助けられましたもの!」
「助けられたのは、お互い様だよ……っ!?」
ミルにそう言いながら彼女を見た僕は凍り付くように息を飲んだ。ミルの背後に、5人の特殊部隊が立っていた。
首都高の高架からワイヤーを使って降りて来ていたのだ。彼らはハンドガンを手に持ち、僕達3人を狙っていた。
だが、その時、その特殊部隊の前にドルティエさんが飛び出していた。それだけだ。それだけで、あの5人全員が倒れていた。
「なっ!? ちょっ……何が起きたんだ!?」
呆気に取られていた僕だったが、さらに特殊部隊が高架から降りてきて迫っていた。
「どうした!? なぜやられて……ぶふぁっ!」
地面に降り立った特殊部隊が8人もいたが、その隊員達が一斉に倒れた。その先に、メイド姿の女性が立っている。
「ドルティエがいるのです。だから、安全ですわ」
ミルはそう言ってにっこりと微笑む。
音もしなかった。動きも見えなかった。どうやって倒したのだ? いや、彼女の手元をよく見ると、40cm程の細いスティックを両手に1本ずつ持っている。そんな、まさか、あれで倒したか?
「な、なんだ!? 何がどうなってる!? 奇襲は失敗したのか!?」
30m程先の交差点に現れた特殊部隊の隊員が驚いていた。
「ま、まさか……ウソだろ? 今の、動きは!?」
その一団の隊長らしき人物が目を丸めて声を上げていた。顔つきからして日本人ではなさそうだ。周りの隊員も慌てている隊長を怪訝そうに見ている。
「いや、間違いない。俺は何度も見た事がある。まさか、貴様……そんな、なぜ日本に!?」
「隊長! どうしたのですか!?」
隊員の呼びかけにその隊長は少し落ち着き、話し出した。
「10年前、いや、15年前か。フランスで起きたあの事件を知っているか? 当時、警察が手を焼いていた犯罪者を、片っ端から半殺しにした奴がいた。そいつは決まって夜に現れ、人間とは思えない速業で作業をこなしていった」
隊長の話に他の隊員も思い出したように頷き始めた。僕は警戒しながらも、その話に耳を傾ける。
「初めは目撃者もいなかったが、捜査網を張っていたら次第に何人か見たという者が出てきた。俺もその1人だ。信じられない話だが、そいつはまだ年端もいかない少女だった。覆面をしていたが、間違いなく少女だったと皆口々に言った」
俯いていた隊長はそこで顔を上げ、こちらを見た。
「貴様……まさか、あのマルセイユの怪物――『ライトニング・ボルト』か!?」
僕達から数m先にいるメイドの女性――ドルティエさんは頷きもせず、その横顔はただ冷徹な眼差しを対峙する隊長に注ぐだけだった。
僕とドドは室内で筋トレをしていたが、レグネッタさんは読書、ミルとトロイは2人でゲームをして時を過ごしていた。
爾栄の事件から2日後の朝、ドルティエさんから驚愕のニュースを知らされる。
深夜の時間帯にファイナイトが出現した。関東圏に現れたファイナイトは街を破壊し始めたが、情報をいち早くキャッチした日本国はついに軍を動かした。
日本空軍の戦闘機がファイナイトを襲う映像を一般人が撮影しており、ネットで拡散されていた。
何十ものミサイルが、空中を飛び交うファイナイトを襲ったが、奴はその網を掻い潜り、次々にレーザーで戦闘機を撃ち落とした。日本空軍は、1人の少年に負けてしまったのだ。
その後のネット掲示板、SNSは炎上していた。日本空軍を批判する声、ファイナイトをヒーローのように讃える呑気な声、そして不安に陥り怯える人々の声。様々な声が入り乱れ、国の情勢は益々悪化した。
そして、その日の昼。ファイナイトは公共回線をジャックし、宣戦布告をした。
「今宵、この国のトップを葬る」
たったその一言だけを発した映像をあらゆるメディアに流したのだ。この日本のトップ、つまり大統領だ。そして、その官邸があるのは璃風都だ。
緊急ニュースでは既に厳戒態勢のもと、その官邸を厳重に防衛するように、特殊部隊と軍隊が配備されている映像が流れていた。
僕達はまだ身体の傷が治っていなかった。だが、黙って見過ごせるわけがない。
万全の状態ではないが、少しでもコンディションを整えるためにもドルティエさんに念入りに治療してもらい、包帯もキツめに巻いてもらった。
そして、夕方になり、各々準備が出来たため、いつもの一室に集まる。
「みんな揃ったな!」
トロイはなぜか楽しそうにしている。
「いいか? 確かにファイナイトを止める事が目的だが、あれだけの軍隊がいるんだ。奴らとの戦闘は避けられないだろう。心して行けよ」
レグネッタさんは僕達に緊張感を持たせるようにそう言う。今日はメイド服ではなく、いつものレディーススーツだ。
「いざという時はわたくしが転移させます。なので、皆さんあまり離れないように」
ミルの言葉に僕達は頷く。
「そうだな。なるべくミルを守りながらいこう。肝心な時にミルが攻撃されてたらまずいからな。んじゃ、行こうか!」
ドドがそう言い、5人で輪になって手を繋ぎ始めた時、ガチャッと部屋の扉が鳴った。
「待ってください。私も、行きます」
ドルティエさんだ。
「え? ドルティエさんも? その格好でですか?」
ドルティエさんは今ではもう見慣れたいつものメイド服姿だった。だが、普段と違い、腰にポーチのような物を装着している。
「はい、これは私の仕事着ですから。何より慣れてますので」
ドルティエさんはいつも通りの静かな口調でそう言う。
「大丈夫か? 戦場だぜ?」
ドドが心配そうにそう言うが、ドルティエさんはそのドドとミルの間に割って入り、手を繋ぐ。
「大丈夫です、堂島さん。お嬢様を守る為に、私も力になりたいのです」
彼女の力強い言葉を聞き、ドドは微笑む。
「よし、それじゃ、行こう!」
僕がそう言うと、ミルは頷き、テリファイアを発動した。
ミルは予め目星を付けていた場所に僕達を移動してくれた。そこはショッピングモールの入口で、官邸からもだいぶ離れているが、あの100人以上はいる軍隊を警戒するには充分だった。
「おし、それじゃ、いざお偉いさんを助けに行きますかねー!」
そう言ってトロイは先陣を切って歩き出す。
「おい、トロイ。そっちじゃない。こっちだ」
と、レグネッタさんが正しい進路を示して進む。
「お嬢様の隣には私が付いていますので、堂島さんはどうぞ前衛に」
と、ドルティエさんが言ってくれたので、ドドはレグネッタさんと並ぶように歩き出す。そこに慌ててトロイが追い付く。
僕はドルティエさんと一緒にミルと並んで歩く事にした。
「軍隊が配置された場所からはだいぶ距離を取ったのですが、先程から軍事車両が走ってますわね」
ミルが言った通り、道路には一般車両は一切見当たらなく、軍事車両と思しき車が何台か通り過ぎて行く。
僕達は死角になるような屋根の下や、歩道橋の上を歩いて行く。
「璃風に来るのも久しぶりだな。4週間くらい? でも、なんだか何年も来ていなかった気分だ」
僕はそう呟く。それだけこれまでの毎日が色濃かったのだろう。
「弖寅衣様は、この街が好きですか?」
と、ドルティエさんは不意にそんな事を聞いてきた。
「うーん、どうでしょう? 好きでもあり、嫌いでもありますかね」
僕がそう答えると、ドルティエさんは共感するように頷いていた。
20分程歩くと、首都高の高架下の地点に辿り着き、100m先にいる特殊部隊と軍隊を肉眼で確認する事ができた。
「先程よりも数が増えていませんか?」
「それだけ、連中も焦ってるってことさ」
ミルの言葉に、前方のトロイが振り返って答える。
「ファイナイトはまだ動いていないようだ。しばらく様子を見るか?」
レグネッタさんも後方を振り返ってそう提案する。それが1番確実だろう。何よりレグネッタさんの意見だから従わなくてはいけない。
「おい! そこに誰かいるのか!?」
その時、左側の道路の向こうから声を掛けられた。見ると、特殊部隊が数人固まってこちらにやって来ている。
「もうバレちまったか」
そう言ってからドドは面倒くさそうにしている。10人以上はいる特殊部隊の団体が駆け足で僕達の方に向かってくる。
「待ってください。僕達はあの少年を止めに来ました」
そう言いながら僕は前に出る。
「貴様!? 極悪テロリストの弖寅衣 想!? 先日のヴェグザ襲撃にも貴様が加担していたと報告が入ってる! やはり、今回も現れたか!」
そう言って、隊員達は一斉に銃を構え出す。
「やれやれ。こいつら、本当に頭悪いよなー」
トロイは頭を抱えながらもニヤニヤと笑っている。
「伝令! テロリスト達が現れた。あの白髪の少年の仲間だ! 各チーム、戦闘態勢に入れ!」
隊員の1人が通信機に連絡していた。すると、官邸方面に固まっていた陸軍達が何人もこちらに向かってくる。
「この街には銃が必要だな」
レグネッタさんはそう言い、1番初めに迫ってきた特殊部隊の足を拳銃で撃ち抜いた。
「陸軍か。いいぜー、こっちにも軍隊がいるからよ」
トロイはドッペルを10人程出現させ、向かって来る陸軍に突撃させた。
「想、そっちは任せた」
そう言ってドドは走り出し、増援に来た特殊部隊に向かっていく。
左側の特殊部隊にレグネッタさんが、右側の陸軍にトロイとドッペル達が、前方の特殊部隊にドドが立ち向かうフォーメーションとなった。
「お嬢様、私の傍を離れないでください」
「わかってますわ。でも、ここからでも援護はできます!」
そう言ってミルはテーブルナイフを投げ、それを転移し、特殊部隊と陸軍に刺していく。
「僕も、遠距離での攻撃は慣れているので」
そう言って、近くの街路樹を引き抜き、それを振り回しながら飛ばす。隊員達は為す術なく吹き飛ばされてしまう。
「貴様らぁ! ゆるさんぞ!」
その時、左後方の交差点からやってきた陸軍の一団が、サブマシンガンを構えながらこちらに迫って来ていた。
「ガードするよ」
僕は交通案内板を3枚動かし、陸軍の銃弾を防御した。
「す、すごい……これが、弖寅衣様のグラインドなのですね。お嬢様以外のグラインドは初めて見ました」
ドルティエさんが小さく驚いていた。
「すごいのは当然ですわ! 想様のグラインドは自由自在! わたくしも何度も助けられましたもの!」
「助けられたのは、お互い様だよ……っ!?」
ミルにそう言いながら彼女を見た僕は凍り付くように息を飲んだ。ミルの背後に、5人の特殊部隊が立っていた。
首都高の高架からワイヤーを使って降りて来ていたのだ。彼らはハンドガンを手に持ち、僕達3人を狙っていた。
だが、その時、その特殊部隊の前にドルティエさんが飛び出していた。それだけだ。それだけで、あの5人全員が倒れていた。
「なっ!? ちょっ……何が起きたんだ!?」
呆気に取られていた僕だったが、さらに特殊部隊が高架から降りてきて迫っていた。
「どうした!? なぜやられて……ぶふぁっ!」
地面に降り立った特殊部隊が8人もいたが、その隊員達が一斉に倒れた。その先に、メイド姿の女性が立っている。
「ドルティエがいるのです。だから、安全ですわ」
ミルはそう言ってにっこりと微笑む。
音もしなかった。動きも見えなかった。どうやって倒したのだ? いや、彼女の手元をよく見ると、40cm程の細いスティックを両手に1本ずつ持っている。そんな、まさか、あれで倒したか?
「な、なんだ!? 何がどうなってる!? 奇襲は失敗したのか!?」
30m程先の交差点に現れた特殊部隊の隊員が驚いていた。
「ま、まさか……ウソだろ? 今の、動きは!?」
その一団の隊長らしき人物が目を丸めて声を上げていた。顔つきからして日本人ではなさそうだ。周りの隊員も慌てている隊長を怪訝そうに見ている。
「いや、間違いない。俺は何度も見た事がある。まさか、貴様……そんな、なぜ日本に!?」
「隊長! どうしたのですか!?」
隊員の呼びかけにその隊長は少し落ち着き、話し出した。
「10年前、いや、15年前か。フランスで起きたあの事件を知っているか? 当時、警察が手を焼いていた犯罪者を、片っ端から半殺しにした奴がいた。そいつは決まって夜に現れ、人間とは思えない速業で作業をこなしていった」
隊長の話に他の隊員も思い出したように頷き始めた。僕は警戒しながらも、その話に耳を傾ける。
「初めは目撃者もいなかったが、捜査網を張っていたら次第に何人か見たという者が出てきた。俺もその1人だ。信じられない話だが、そいつはまだ年端もいかない少女だった。覆面をしていたが、間違いなく少女だったと皆口々に言った」
俯いていた隊長はそこで顔を上げ、こちらを見た。
「貴様……まさか、あのマルセイユの怪物――『ライトニング・ボルト』か!?」
僕達から数m先にいるメイドの女性――ドルティエさんは頷きもせず、その横顔はただ冷徹な眼差しを対峙する隊長に注ぐだけだった。
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